二人きりのお祭りデート、頬についた焼き鳥のタレを舐めとってあげようとしたら、舌を入れられたんだが⁉

さばりん

彼女とお祭りデートしてたら、舌を入れられました

 陽は沈み、空が暗闇に包まれた夏の日の夜。

 地元の神社の鳥居前は、多くの人々で活気づいており、どこかお祭り独特の浮かれたムードが漂っている。

 俺、太田祐基おおたゆうきは、白シャツに黒のスキニーパンツ姿で鳥居の前で、約束の時間になるのを待っていた。


「祐基ー!」


 俺の名前を呼ぶ声の方へ視線を向けると、カツカツと下駄を鳴らしながら、一人の女の子がこちらへと駆け寄ってきた。


「ごめんね、待った?」

「ううん、俺も今来たところだよ」

「よかったぁ……準備に手間取っちゃって」


 息を整えながら安堵の息をつく彼女の名前は、高梨利佳子たかなしりかこ

 中学の頃からの同級生で、今は俺の彼女である。

 今日は地元で行われるお祭りに行こうと利佳子に誘われ、こうしてお祭りデートにやってきたのだ。

 利佳子は爽やかな青の紫陽花柄の浴衣を身に着けており、髪も後ろでアップにしている。

 いつもの陽気な彼女とは違い、普段よりもお淑やかで大人びた雰囲気を醸し出していた。


「へへーん。どうこの浴衣、新調したの!」

「うん、凄く素敵だよ。なんだかいつもと雰囲気が違って、そのギャップが良いと思う」

「でしょでしょ⁉ これなら私、ナンパされちゃったりするかな?」

「な訳あるか。俺が隣に居るんだから、普通にカップルで祭りにきたって思われるだけだろ」

「それじゃあ祐基は家に帰っていいや」

「まさかのデート破棄⁉」

「あははっ。冗談だって! ほら、せっかく今日は久々に二人きりで遊ぶんだから、一緒に楽しも!」


 そう言って、利佳子は袖元からすっと伸びる手で俺の手を掴んでくる。


「おう、そうだな」


 俺も利佳子の手を握り返して、二人仲良く境内へと向かって行く。

 参道には、左右にずらりと屋台が並んでいた。


「うわぁーっ、やっぱりお祭りと言ったら屋台だよね! 何して遊ぼっか」

「何でもいいぞ。金魚すくいでも射的でもヨーヨー釣りでも。ただその前に、お参りしてからな」

「分かってるって」


 本殿まで続く屋台に利佳子は何度も目移りしつつ、何とか参拝を済ませ、俺と利佳子は早速参道を戻るようにして屋台の散策を開始。


「ねぇねぇ! 金魚すくいでどっちが多く捕れるか勝負しようよ!」

「いいぜ」


 利佳子は楽しそうな様子で、俺の手を引きながら金魚すくいの屋台へと向かって行く。 

 その後も、射的や輪投げにヨーヨー釣りなど、ゲーム系の屋台でお互いに本気でバトルを繰り広げ、通算成績で利佳子に負けた俺は、夜飯をおごる羽目になってしまった。

 俺は焼きそば、焼き鳥、たこ焼きを購入して、近くの石段で待っている利佳子の元へと戻る。


「ほれ、買ってきてやったぞ」


 俺が袋を掲げながら利佳子へ声を掛けると、利佳子は悲しそうな様子で背中を丸めて項垂れていた。


「ん、どうした?」


 俺が尋ねながら隣に腰かけると、利佳子が仏の顔でぼそぼそと呟く。


「祐基を待ってる間にナンパされないかなって思ったけど、誰一人声すら掛けてこなかった」

「当たり前だろ。そんな状況あってたまるか。利佳子は漫画の読み過ぎだ」

「でも、声を掛けられて困ってる私を見つけて、さっと祐基が間に入って、『悪いけど、こいつは俺の女なんで』ってかっこよく決めてくれるのを期待してたのに!」

「悪いけど、俺だったら〖どうぞ、どうぞ。貰ってやってください〗って言うぞ」

「酷⁉ せめてそこは助けてよー!」

「ほら、温かいうちに食べちまおうぜ」

「もうー! 私の話を聞けー!」 


 隣で妄想お疲れぷんすか利佳子を無視して、俺は買ってきた飯を利佳子との間に置いた。


「ほれ、好きなの食っていいぞ。焼きそば、焼き鳥、たこ焼き。お前のご所望通りだ」

「……ありがと」


 むすっとした口調でお礼を言いつつ、利佳子は焼き鳥のタッパーを手に取って開封すると、そのまま串に刺さった焼き鳥を一本手に取り、モギュっと引きちぎるように咀嚼した。

 俺もタッパーから焼き鳥のついた串を一本手に取り、焼き鳥を頬張っていく。


「そう言えば、焼き鳥ってタレ派と塩派に分かれるけど、利佳子はどっち派だ?」

「私はどっちも好きだけど、強いて言うならタレ派かな」

「タレも上手いよな。コクがある感じが堪らない」

「だよねー! でも塩もさっぱりしてて美味しいよね。祐基は塩派だっけ?」

「どちらかと言えばそうだな。あのさっぱりとした塩加減が堪らない」

「なんか祐基って時々おっさん臭いよねぇー」

「悪かったな、おっさん臭くて」


 そんな他愛のない会話をしながら、すっかり元気を取り戻した利佳子は、もう一本焼き鳥を咀嚼していく。

 すると、利佳子の頬に焼き鳥のタレが付着しているのが見えた。


「利佳子、付いてる」


 俺が頬を指差しながら指摘すると、利佳子はすっと頬を突き出してくる。


「舐めとって♡」

「……はぁ⁉」


 俺が大きい声を上げると、利佳子はツーンと唇を尖らせた。


「だって、ティッシュ持ってきてないし、頬じゃ舌で舐めとる事も出来ないから、祐基が舐めとって?」

「いやいやいや、ハンカチあるから、使いなって」


 そう言って、俺がハンカチをポケットから取り出すと、利佳子はそれを受け取り、膝元に置いていた巾着袋へと仕舞い込んでしまう。


「おいこら」

「んっ……!」


 どうやら、俺が舐めとらないと納得がいかないらしい。

 俺ははぁっとため息を吐いてから、覚悟を決めた。


「ったくしょうがねぇな。ほら、いくぞ?」


 仕方なく、俺は恥を捨ててゆっくりと利佳子の頬へと唇を近づけていく。

 ベェっと軽く舌を出し、利佳子の頬についている焼き鳥のタレを舐めとろうとした途端、すっと利佳子が首を動かした。

 そのまま利佳子は両手で俺の頬を挟み、軽く口を開けて唇を重ね合わせてくる。


「んんっ⁉」


 突然の行動に、俺は顔を引こうとするものの、利佳子が軽く開いた口から舌を伸ばし、俺の口内へと入れてきた。

 俺たちはそのまま、あつーい舌と舌が絡め合うキスを公衆の面前でしてしまう。

 お互いの舌が絡み合い、彼女から焼き鳥の甘辛いタレとしょっぱい塩の味がする。

 たっぷりとお互いの感触を確かめ合ってから唇を離すと、利佳子は満更でもなさそうな顔で見つめてくる。


「へへーっ、引っ掛かったぁー!」


 俺は思わず口元を腕で覆ってしまう。


「おまっ……流石にそれはやり過ぎ」

「だって、最近全然こう言う事してくれなかったでしょ?」

「そ、それはそのぉ……」


 利佳子とキスすると、身体から込み上げてくるものがあって、それ以上のことをしたくなってきてしまうからとは、言えるわけがなかった。

 そんな俺の気を知る由もなく、利佳子は手を重ねてくる。


「ねぇ……今日この後さ、祐基の家泊りに行ってもいい?」

「はぁ⁉」


 利佳子は頬を染めつつ、上目遣いでこちらを見つめてくる。


「……ダメ……かな?」


 潤んだ瞳で尋ねてくる彼女を見て、俺は思わず生唾を飲み込んでしまう。


「言っとくけど、今日普通に親いるぞ?」

「うん、でも私たち付き合ってるし、両親同士も仲がいいから問題なくない?」

「いや……そう言う問題じゃなくて……」

「ん?」


 きょとんと首を傾げる利佳子に対して、俺は恥を忍んでぼそぼそと言葉を紡ぐ。


「利佳子と一緒にいると、最近気持ちが抑えらんないから……どうなるか分かんないぞ?」

「そ……そうなんだ……」


 利佳子はポっと顔を赤くして俯いたかと思うと、俺をちらりと覗き込んでくる。


「祐基がシたいなら……いいよ?」

「なっ……」


 絶句とはまさにこの事。

 まさかのOKに、開いた口が塞がらない。

 利佳子は頬を染めつつ、ぎゅっと腕を絡めて来た。


「今日は長い夜になりそうだね♪」

「……頼むから勘弁してくれ」


 どうやら俺の彼女は、一枚も二枚も上手うわてだったらしい。

 こうして利佳子との夏休みデートは、人生で一生忘れることのない思い出になるのであった。

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二人きりのお祭りデート、頬についた焼き鳥のタレを舐めとってあげようとしたら、舌を入れられたんだが⁉ さばりん @c_sabarin

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