第3話 次男は反抗児

ちなみに長女は、長男と同じような性格で親の希望通りに育ち、結婚し東京で暮らしていた。が、次男の勇樹は問題児で大学を中退し妻の故郷、奄美大島でNPOを立ち上げ私と妻の想定外の活動をしていたが、同じくドロップアウト組の真理と結婚し子供もでき生活を維持していた。

奄美大島でこの勇樹と話した時、「でもお父さん、普通の会社員で子供三人を中学受験させるのは大変だったと思うけど」と聞き。

「頑張り屋のお母さんは学費を稼ぐのに和服の仕立てで徹夜続きの時もあった。でもこれで子供三人を大学まで行かせることが出来た」私が妻の苦労を語る。ただし、理由は説明出来ないが私はこれが何故か不満だった。

 このように私の思いを少し踏み込んで語ったが、この頃から妻が多忙となり生活パターンが変わり会話が減り違和感を持ち始めたことを言わなかった。

ここで嫁の真理が「お父さんはお幸せだと思いますよ。生活に不安が無くて家族に囲まれて」と言うので「確かに生活に不安はないな。また貯えは無いが自宅があり年金の範囲内で生活出来る。大きな出費は年数回、子供たち家族と旅行に行くくらい。もう物は欲しくないが、美味しい寿司は有名店でなくても回転寿司くらいは食べたい。

また今の幸せを考えると、日本が戦争に巻き込まれなかったこと。就職した会社が成長して長く働けて年功序列もあったこと。またお互いにわきまえ忖度し辛抱して離婚せず、出費を抑え余ったお金の多くを子供の可能性をのばすため教育に投資したこと。蟻の生活をしたこと。たまにお父さんがミニ田原になるが基本は目立たず平々凡々の生活をしたことに尽きる」と思いを語った。語りながら一方では『周りの人には助けられ迷惑を掛けたな』との思いが心に過った。

「昔の苦労をもう取り戻したんだ。幸せな人生じゃないか」

 勇樹のこの軽い言葉にムカッと来たが、堪える。

 私の表情からこの思いを察したのか勇樹は「俺たちの時代は親父と違って厳しいと思うよ。米中の経済戦争に巻き込まれて国際環境は厳しいし、さらに日本は過去の栄光に酔い借金大国でGDPは伸びず、年功序列もなく実力主義。実力主義は俺にはラッキーだけどね。でも教育がさらに過熱して俺や真理みたいな落ちこぼれを量産している」と分析し、子の苦労を改めて知って「お父さんも子や孫が自分の幸せをどのようにイメージしているのか気になる」と思いを語った。

 ここで「本当に難しい道だと思う。日本は経済が滞留し、ますます先行きが不透明になっている。お父さんみたいにミニ田原総一朗を気取る人間がどういう処遇を受けるか。出る杭は打たれるが、出過ぎる杭は引き抜かれる」と勇樹が言ったが、真理から「お父様、私たちの幸せは私たちの手で探しますから。ご安心ください」と言われてしまった。明治時代の優等生的なこの答えに複雑な思いだが、息子の嫁だと思うとなんとなく許すことが出来るのが不思議。

 ここまで話した時、勇樹は半分眠っていたので自然解散になった。このように次男とも段々と話が出来る状況になり子育てには目途が立った。


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