第2話 優等生の長男

今思い返しても長男の恵一は、親が勉強しろと言わなくてもコツコツ真面目に勉強する子だった。親の意向もあって自然に中学受験をして、それ以後エリートコースを真っ直ぐに歩んだ。親としては自慢の息子だったが、少し近寄りがたいところもある子供に育った。

一緒に飲んでいると長男が「俺が学んだ中高それに大学は均質な集団だったと思う。親の職業も頭も経済状態も似たり寄ったりで、乱暴なことを言う人もいない。嫌なことが起こらないから居心地のよい環境」と言った。

そこで私は「それもお前の人徳だなあ。それにお母さんが、お前が心地よく勉強出来るように色々一生懸命やってくれたから」とサポートした。

少し間を置いてまた長男が喋りだす。

「中・高・大学それに会社に入ってからもチームを作ればみんな頭の回転が良くて、アイデアや解決策はどんどん浮かぶ。異論が出ても接点を探し最後にうまく話を前に進めるような作業も得意。俺もそれに馴染んだ。自由な雰囲気があり踏み越えてはいけない一線を心得ていて安定感があった。そんな世界が心地よかった」喋りは滑らかだった。

「そんなところがお前たちは頭デッカチで、叩かれ弱いという印象を持たれるんかな」私は思いを語った。

これに恵一は真っ向から反論。

「実際はそうでもないんだよ。スポーツも出来るしピアノなど楽器演奏にも打ち込んで真面目で素直で癖がない。そういう人が多いんだ 」柔らかい表情で言った。

「そうだな、お父さんもそういう環境で学ばせたくてお前を中・高一貫校に入れたんだからそれは正解だった。お父さんの職場の幹部もお前が言うような人だった。それでお前に中学入試を受けさせた。でも、今度行く地方はそんなふうには行かないと思う。いろんな考え方の人がいて幅が広いぞ……。腕力があって大リーグ級の変化球を投げる人もいると思う。さらに田原総一朗も驚く人格者も、そこでお前も鍛えられればいいさ。ちょっと天狗になっている鼻を折られて涙して、そこから新しいものを考えればいいんだ」と私は言い放った。

「お父さんのミニ田原のような話、聞いてたら段々行くのが怖くなってきた」恵一がまた弱音をはいて照れ笑いした。

「そこを乗り越えたらお前も一人前だ」

と強面で激励したつもりだったが、落ち込んでいるように思えた。


 この様子を見て私が人生成功の極意と考えている、コミュニケーションについて息子に喋ることに。

「恵一、言葉のキャッチボールって知ってるか。話し合いで大事なことは“聞き方”だぞ。会話には相手が必ずいるから、「自分の話したい内容を話すこと以上に、相手の話したいことを聞く」のが大事だということ。要するに会話で大切なのは、「相手を中心に考える」こと。さらに「聞く」時だけでなく、自分が話をするときも、相手を中心に考える」ってこと、これお父さんにも出来ないけどお互いに考えようと思う」と私の経験から出た思いを微笑みながら語った。

「俺も同じ思いだね。ミニ田原のお父さんにこの言葉をそっくり帰すよ。相手がそれを受け取る準備がないと駄目だから。相手が受け取らなかったら、キャッチボールは成立しないからね」息子が返した。

「お前が言うようにお父さんも反省すること多い。でもお前にミニ田原と言われると辛いな勉強する」早々に白旗を掲げ息子に花を持たせた。

「こんなことお互いに注意しようか。政治やテレビ討論と違って、これでもう家族で意見がぶつかって嫌な思いをすることも少なくなると思う」

 息子が言って締め、私も納得し固い表情を解いて笑顔を返した。ちらっと妻を見ると目に力が入り硬い表情だった。

このように離れて暮らす長男との関係はなんとなく改善の目途が付いた。

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