田原総一朗的家族論
@takagi1950
第1話 ミニ田原総一朗的な私
私の人生で記憶に残る出来事となったコロナ禍は、2022年3月には概ね見通しが立ち、新しい世界が見えたように思えた。しかしこの時、ミニ田原総一朗を自認し意識して真似ることもあった私はまだ道を探せず彷徨っていて、自分の存在を肯定的に認めることが出来なかった。最大の課題である妻との関係改善は目途が立たず、依然ちぐはぐな会話しかできない状態。歳をとるに従って人と付き合うのは段々と苦痛になってくるが一人では生きて行けないことも事実で一歩踏み出すことにした。
その第一歩として長男と話すことに。優等生のこの息子からは「お父さんは、実力無いのに田原総一朗風に自分の価値観を表に出しすぎ」と言われ落ち込むことが多かった。私から言えばコテコテの大阪人のウイットを理解して欲しいと思ったがこれは、自分にとって都合のいい勝手読みかも知れないと自己嫌悪になることが多く、何となく話すのが億劫になっていた。
そんなとき、私の思いを察したかのように久し振りに長男の恵一が、嫁さんが学会で東京出張とのことで、広島から子供を連れて訪ねて来た。妻はまるで恋人を迎えるようにいそいそしている。今日から2日間、泊まるとのことで久しぶりに真面目な話をする。そこで、長男は近日中に本社勤務から北陸の工場に転勤になると言った。息子はこれが不満で「俺が立ち上げたプロジェクトが他の人間に取り上げられて俺は転勤だ。上司は次のステップを目指す勉強のための回り道だと言うが、それは口実で社内の勢力争いに負けたと思う」と私に不満をぶつけた。
これまで順風満帆で私が父にしたように、私を半ば無視していた長男の変わりように驚いたが「一度外に出て新しい視点で中を見ればいい考えも浮かぶかもしれないぞ。少し休むのもいいと」と言うと顔を真っ赤にして「それは昔の話、今は一度躓けば敗者復活は難しい」と食って掛かって来た。
「それで駄目なら覚悟決めてテゲテゲ(適当、それなりに)、即ちその時々に適当に、それなりに人生を歩めばいいさ。でも適当って難しいぞ、少なくても多くてもいけない、さらにその目安も状況によって変わる。ちょっと難しく言ったが、それで食べていけなくなっても飢え死にすることもないから。お父さんも冷や飯を3年間食ったことがある。でもその後には天国が待っていた」
出向・転籍で知った苦悩とその経緯を少し語った。
聞き終えて長男は神妙な顔になる。
「へーぇ、親父にもそんなことがあったのか。適当に生きて年功序列で周りが段取りしてくれたと思っていた」冷たく言った。
「それも真実だが……。でもそれなりには苦労したが、幼い時の苦労に比べれば苦労じゃないし、お前と違ってキャリアのない俺には失うものはないからそれが強みになった」自分の経験を語った。
続けて恥ずかしかったが門屋という長屋での生活から、奄美大島に行って妻と出会うまでの生活を掻い摘んで話した。息子とはいえ貧しい生活を語ることは惨めで恥ずかしかった。
続けて私は「子供の時、身内の少なさに悩みこれを解消しなければいけないと思ったこと。そして大家族であるお母さんと巡り会いその思いを達成した。それが 時代が経つとともに一族の交わりが無くなり、私たちの家族単位での付き合いになった。これが本当にお父さんの目指した幸せなのかと思うと自信ないな。ところで今、最小単位である私の家族、具体的にはお母さんと二人の関係になり生き方をお互いに模索している」後半の妻との関係は影響を考え少しオブラートに包んだ。
私の一連の話に長男の恵一が応じる。
「そうなんだ。親爺からこんな話、初めて聞いた。もっと早く話して欲しかった。でもこの話を聞いて先に少し光が見えた。北陸で少し暴れてやる」長男に少し元気が出てきたように見えた。
「暴れるのはいいが、無理はいかんぞ。年功序列の時代で無くなっても人気が大事だから人の心を知る訓練をした方がいいと思うぞ。俺はミニ田原総一朗で出来なかった「ありがとう」や「感謝の気持ち」をストレートに相手に伝える訓練だ。それで人生が変わるかもしれないぞ」自分の欠点で出来なかったことを息子に語った。
「俺も性格的に難しいかもしれんけど修行だと思って挑戦してみる」言い終わって私の顔を見たが、目に力があって決意を感じて頼もしく思った。
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