喫茶『MOON』の双子のマスターの特製お花見焼き鳥弁当 KAC20226

天雪桃那花(あまゆきもなか)

桜満開🌸お花見会

 春ですね。

 桜が満開です。

 淡く美しいピンク色の花が、目に飛び込んできます。


「はあぁ〜っ。きれ〜い」


 思わず吐息が出るぐらい綺麗です。


 ライトアップされた夜桜は、とってもロマンチック。

 街を流れる清流の土手沿いに何キロも咲く桜道が続く。


 青空に映える昼の桜とはまた違った趣が、夜の桜にはあるよね。


 まだ散る花びらは少ない。


 少し花冷えで風が冷たく寒いけれど、そんな中で飲む温かいスープや飲み物はいっそう美味しく感じる。

 それに大好きな人達とこうしていられるから、余計に美味しいんだろうな。


 私は商店街組合のお花見会にお呼ばれしました。

 賑やかなメンバーで、楽しいお花見です。


 私はついつい楽しくて、あまり強くないお酒をコップに二杯ほど飲んでちょっと酔ってしまい、風に当たってる。

 いちごリキュールをカルピスで割った桜色のカクテルは甘くて飲みすぎちゃった。


「どうしたの? チョコちゃん。黄昏れちゃって」

「あっ、貴教さん。思わず見惚れちゃって」


 ほろ酔いなのもあるけど、ライトで淡くぽわっと輝く桜に見惚れていたのもほんとだ。


 私の横に立つ貴教さんは、甘いマスクで大人気の喫茶店のマスターである。

 彼は優しくて気がつくから、困っていたりこうして普段と違う様子でいると心配してくれる。

 それにこの精悍な顔で、笑うときゅんとしちゃう魅力的なルックスだ。

 世の女性達が放っておくわけがない。


「チョコちゃん、もしかして酔った? 大丈夫?」

「大丈夫。あっ、ありがとうございます」


 私は貴教さんから水の入った紙コップを受け取る。


「無理しないで。それ以上具合が悪くなるようだったら言うんだよ。ねっ?」

「うん。ありがとう」


 貴教さんは桜を見上げてから、私にじっと視線を向ける。

 私は、大人の余裕さと優しさを混ぜた甘さを放ち、紳士でイケメンな貴教さんにちょっと緊張しちゃう。

 以前敬語はやめていこうって言われてる。でも、時々敬語が混ざっちゃう。

 貴教さんといるとお姫様にでもなった気持ちにさせてくれる。

 どんな女性にも、どこまでも大切に扱い礼儀正しく接する彼はまさしく現代に舞い降りた王子様のよう。


「今度……。チョコちゃん、桜が散らないうちに俺とお花見デートしようか?」

「えっ、えっ」


 以前はこんなにストレートに誘うことなんてしなかった貴教さん。からかってるのか、本気なのか分からない。


「そ、そうだね。近いうちに……」

「貴教。なあに一人で抜け駆けしようとしてんだ。感心しないね。チョコちゃんとデートするのは俺。なっ? チョコちゃん」

「克己さんっ」


 私の空いてる片側にスッとやって来たのは克己さんだ。

 克己さんは人懐っこくちょっといたずら好き。くりくりとした瞳は好奇心の塊って感じで少年っぽさがある。彼も女性のお客さんに大人気の喫茶店のマスターだ。

 私はイケメンでも克己さんにはあまり緊張しない。彼の人柄なのか、すぐに冗談を言ってからかってくるからか。

 克己さんといると憂鬱な時も時に失敗して落ち込んだ時も、そんな気分たちも吹き飛びクスクスと笑ってしまう。

 年上なのに、どこか弟みたいにも思う。

 貴教さんと克己さんは仲良しの双子の兄弟で、二人で喫茶『MOON』のマスターをやっている。

 貴教さんは穏やかで春の太陽や木漏れ日のようで柔らかい陽射しみたいに優しく、克己さんは夏の太陽燦々と降り注ぎ照らしてくれ元気にしてくれる陽気さがある。


 実は私は住んでたアパートが火事になってしまい、現在貴教さんと克己さんのお家に居候させてもらっています。


「恋敵が同じ家にいるからね。遠慮せずにチョコちゃんを口説くことにしたんだ」

「俺、貴教には負けないから。チョコちゃんのハートを射止め奪うのは俺だから」


 双子の兄弟がばちばちと視線を向き合わせている。


「ちょっと、ちょっと。二人ともやめて〜。せっかくのお花見なんだし。ねっ?」


 正直イケメン二人が私を巡って争うなどと、なんか申し訳ない。

 絶世の美女でもお金持ちのご令嬢でもない、なんでもない平凡普通な私なんかのために。

 そうだきっと、二人には私は物珍しい生き物なだけなんだ。

 克己さんって「チョコちゃんは面白いな〜」ってよく言うし。

 貴教さんだって「チョコちゃんはお人好しでおっちょこちょいなところがね、とっても魅力的だよ」って言ってたもの。

 それって女の子を好きで褒める口説き文句にはほど遠いよね。

 

 克己さんがニイッと笑う。

 貴教さんもフフッと不敵に笑う。


「貴教、チョコちゃんを困らせるわけにはいかないな」

「克己、ここは一時お預けだ。お花見会に戻ろうとしよう」

「うん! 私、貴教さんと克己さんの作った『特製お花見焼き鳥弁当』を楽しみにしてたんだ」

「チョコちゃんも手伝ってくれたからな。絶対うまいよ!」

「商店街の皆さんに全部食べられてしまう前に、俺達も堪能しようか」


 レジャーシートが何枚も並ぶ商店街のお花見会には、大勢が座って歌って食べて飲んでお喋りしてて大盛りあがりだ。


 席の真ん中には貴教さんと克己さんが昨日から仕込みをして気合の入ったお弁当がズラーッと並べられていた。

 だいぶ食べられてしまい、少なくなってる。


「ふっふっふっ。まだまだ用意してあるんだ」


 克己さんがどこからか七輪を出してきて、この辺りの地域の特産で有名な地鶏を炭火で焼きだした。香ばしい匂いが辺り一面に広がる。


「ここで七輪か。やるねえ、喫茶『MOON』は」

「焼き立てを食べさせてくれるってのか。さすがだねぇ」


 七輪の登場ににわかにざわざわと色めきだって、商店街の八百屋さんやお肉屋さんや魚屋さんが七輪をのぞき込んでいく。


「皆さん、バーベキューや火気取り扱いの許可取りはしてありますからね。安心してください」

「炭火で焼き鳥だって! 最高よ」

「お餅も焼いてみたらどうかしら?」


 貴教さんと克己さんは、焼き上がった焼鳥にタレをくぐらせたものと、塩で味をつけたものをお重のあいた場所に次々と入れていく。

 お弁当に焼き鳥を入れるのは、私の和菓子作りの師匠の源太さんのリクエスト。

 春キャベツとスクランブルエッグの炒めもの、ふきのとうの天ぷらに鰆と新玉ねぎのフリッター、新じゃがに新玉ねぎ入りのポテトサラダ、ナポリタンスパゲティに一口ドリア、唐揚げハンバーグ……。

 お重にはたくさんのご馳走が詰められている。

 それにサンドイッチと天むすやおにぎりが大皿に盛られてる。

 ところ狭しと並んだ料理の数々。

 高く積まれたタワーのフルーツケーキと三色お花見団子といちご大福は、私が働く和菓子屋さんの源太さんと息子の熊五郎さんの力作だ。私はまだまだな腕なのですが、いちご大福を包んだりしました。


 美味しいと良いな。

 みんなに喜んでもらえるといいな。

 料理づくりやお菓子づくりの原点は、きっと誰かを思い喜ばせたいからだ。


「いただきます」

「チョコちゃん、焼き鳥美味しい?」

「チョコちゃん、たくさん食べてな」


 こんなに賑やかで楽しいお花見は初めてだ。


 あとで私の親友の瑠衣も彼氏と一緒にお花見会に参加しに来るって。


 今年のお花見は、私は心がぽかぽかしてる。

 まだ時々冷たく寒い風は吹く。

 でも、心にじんわりとあたたかい光が灯ってる。

 ここにいる大好きな人達と私もいられることが嬉しい。

 とっても楽しいんだ。


 両親が亡くなって、仕事も定職を失って家も無くなった。

 だけど、私は友達や仲間や親切にしてくれる優しい人達に助けられている。

 こうして美味しい料理を囲んで過ごす時間が、とっても愛おしい。


 ちらり、ちらり、桜の花びらが静かに舞うように散る。


 手作り料理を皆に配り、にっこりと微笑む貴教さんを一瞬見た。

 皆を楽しませるために練習してきたマジックを披露する、克己さんを数秒見てみる。


 いつか私も家族を持ちたいな。

 な〜んて思った桜吹雪には間近の夜。


       おしまい♪


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喫茶『MOON』の双子のマスターの特製お花見焼き鳥弁当 KAC20226 天雪桃那花(あまゆきもなか) @MOMOMOCHIHARE

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