第8話

エピソード8 ___ 梨花、工藤悠真と出会う



「押さないでください。慌てないでください。列に並んでお待ちください。列の最後尾はあちらです。」


ざわざわ、ざわざわ。

ダンジョンの前にはたくさんの人が並んでいる。


うわ〜、こんなに人がいるの。

これはけっこう待たされちゃうな。


私は大人しく列の最後尾に並んで、ダンジョンの中に入れることを祈った。


私は木製のバットを持ってきている。

バットを使えば女性でもスライムを倒すことができるとネットの記事で読んだ。


私はそこそこ運動していたのでバットを振り回すことはできる。


ネットの記事を読むとスライムはほとんど攻撃してこないが、ゴブリンは攻撃的で倒すのが難しいと書いてあった。

ゴブリンを倒さなくてもスライムの魔石で十分稼げるとも書いてあった。


私はスライムだけを狙い、ゴブリンを見つけたら逃げようと思っている。

1〜3階層にいるゴブリンは足はそこまで早くないらしく、逃げようと思えば男子小学生でも逃げ切れるらしい。


ぼけぇーっと待っている間に列が進んでいきダンジョンに入れた。


ダンジョンの中はそこそこ広かった。

ふう〜、緊張してきた。

まあ、やるしかないけど。

ここで、稼いで普通の生活に戻るんだ。

大学の学費と生活費さえ稼げれば、あとは就職して普通の何の変哲のない人生を歩むんだ


そのためにダンジョンに来た。

私はスライムを探すためにダンジョンの奥へ進む。



いた。スライムがいた。

スライムはバスケットーボールぐらいの大きさだった。


ぎゅっ。

無意識にバットを握る力が強くなる。


ドクッ、ドクッ。

普段聞こえなていない心臓の音が聞こえる。


落ちついて、落ちついて、やるよ、私ならできるよ。


覚悟を決めてスライムに近づく。

バットをスライムに振り下ろす。



スライムにバットが当たる。

グシャ、スライムの体が崩壊する。


スライムの感触がバットを通して手に伝わる。

今まで感じたことのないなんとも言えない感触だった。


はあ、はあ。倒した。スライムを倒せた!!

やった〜!!


あっ、魔石回収しておかないと。

スライムが残していった魔石をバッグの中に入れる。

よし、次のスライムを探そう。


それから3匹スライムを倒した。

うん、意外といける。

よし、2階層に行く。


2階層のスライムの魔石の方が高く買い取ってもらえる。

早く大学生に戻りたい私は2階層に行った。


なかなかスライムを見つけられない。

う〜ん、どこにいるんだろう?

スライムを探す。



探索を続けていると視界の端に緑色の生き物が見えた。

3体のゴブリンがいた。


ドクン、心臓がなる。

はあ、はあ、息が上がる。

おさまって、おさまって。

バレないように静かに逃げよう。


私は音をたてないようにゆっくりと来た道を戻ろうとした時、

「ギギッ!!」

一体のゴブリンが獲物を見つけた狩人のような顔をし、私に向かって走り出した。


「キャアーー、いやぁーー!」

ゴブリンの濃密な殺意を受けて思わず悲鳴を上げた。


逃げなきゃ、逃げなきゃ。

体がうまく動かない。体の動かし方を忘れてしまったようだ。

動いて、動いて、お願いだから。


ハイハイを練習中の赤ん坊のように私は少しでもゴブリンから離れるため手足を地面につけながら移動しようとした。


全く進まない自分の体と近づいてくるゴブリン。


いやだ、いやだ。

お願い動いてよ。

ゴブリンがついに目の前にやってきた。


その時、横から声が聞こえた。


「俺の後ろに下がって!!」

声の主はそう私にいながら槍をゴブリンに突き出した。


私は地面を這いながら急いで声の主の後ろに移動した。


そこからはあっという間だった。

声の主である男の人は3体のゴブリンを洗練された動きで仕留めていく。

助かった……、私は助かったんだ、死なずにすんだんだ。



男の人がこちらに近づいてくる。

やけに顔がハンサムに見える、いたって普通の容姿をしているのに。

私ってこんな顔がタイプだったけ?


私は助けてくれた男の人に感謝の気持ちを伝えた。


「うん、とりあえずここは危険だから魔石を回収して地上に出ましょう」


男の人は冷静にあっさりとした態度で私に返事を返してくれた。

男の人がいう通りに魔石を回収して、私と男の人は地上に戻った。


地上に戻ったのちに改めてきっちりとお礼を助けてくれた人に言った。

それから、いろいろ話した。

私を助けてくれた人は工藤悠真という名前だった。


ダンジョン内では特に表情を変えずに淡々としていた工藤さんがいろいろな表情を見せてくれる。


私がいかに工藤さんがすごかったか、いかにかっこよかったかを工藤さんに伝える。

そうすると工藤さんは少し照れたような表情になった。

そんな工藤さんの表情をもっと見たくて、さらに工藤さんの凄さ、かっこよさを伝える、また少し照れたような表情をしてくれた。


どうしよう、もっと工藤さんと一緒にいたいな。

何かいい方法はないかな?

いっそ告白しちゃう?

いや、それは断れた時に立ち直れないかもだし、いくらなんでも告白するのには早すぎる。


私は自分の事情を工藤さんに伝えて、自分を鍛えてくれるように頼んだ。


感情に訴えるようで少しズルいが、ほかに思いつかなかった。

まあ、嘘はついてないからギリセーフかな?

工藤さんと繋がるにはこれぐらいしか思いつかなかった。


幸い、工藤さんは私を鍛えてくれることを了承してくれた。

やった〜!!


いつまでも敬語で話してくる工藤さんに敬語は使わなくていいですし、梨花と名前で呼んでくださいと言った。



工藤さんも敬語はいらないと言ってくれた。

一度、それを断ろうと思ったが、やりにくいそうなので敬語をやめた。


「そうですか………。うん、わかったよ、悠真、よろしくね」


名前で呼んでくれとは悠真は言っていないが悠真と言ってみた。

悠真の驚いた表情が見たくて、不意打ちでやってみた。


期待通り少し驚いたような表情を悠真はした。

驚いた表情も愛おしかった。



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