第5話

エピソード5 ___ 師匠と稽古


師匠の道場は俺の家からだいたい車で20分ぐらいのところにある。

俺は師匠の道場の門を開けて道場に入った。


「こんにちわ、師匠いますか〜?」


「おるぞ」

ゾクッ。

俺の耳元から師匠の声が聞こえた。

師匠は俺のすぐ後ろにいた。


「まだまだだな、悠真、お前死んでいたぞ。いつも言っているだろう、背後を取られては行かんと、常に自身の周りを警戒しておけと」

師匠は見た目は弱そうなおじいちゃんだ。

しかも、めっちゃくちゃ人の良さそうな顔をしている。


ただし、圧倒的に強い。


「すいません。でも、師匠、気配がなさすぎますよ。近づいてくる音が全くなくて気付けませんよ、これでも目一杯警戒していたんですよ」

俺は師匠からは、常日頃、誰にも自身の後ろを取らせるなと言われている。


師匠の武術は遡ると戦国時代に洗練された武術が元になっている。


戦国時代はいつ誰が自分を殺してくるかわからない。

味方だったものが裏切り殺してくるかもしれない、自分の家でも気を抜いたら暗殺されて、あの世行きだ。

だから、いついかなる時も自身の周りを警戒して、いつでも戦えるようにしておけと教わった。

21世紀の日本で暗殺なんてないと思われるが……。


「よし、じゃあまずは型からやるかの」


「はい」

俺は槍を構えて型通りの動きをした。


型をしている時でも周囲の警戒を怠ってはいけない。

俺は真剣に型をやった。


たまに師匠が攻撃を仕掛けてくる。

俺はそれを防ぎ、また型に戻る。

師匠は俺でも反応できるぐらいの少し上の速度で攻撃してくる。


師匠の攻撃を防げないことの方が多い。

なので、いつも青いあざを体につくっている。


師匠は厳しすぎるので道場に通っている人は全くいない。

俺は俺以外の道場生を見たことがない。


「おい、気を抜くなよ。」

「すいません」


違うことを考えていたらすぐに師匠に気づかれる。

まじでこの爺さん、すごすぎる。


「よし、もういいぞ。型自体は良くなっているな。」


「ありがとうございます」


「うむ」

シュッ。

いきなり、師匠は俺に目掛けて槍を突き出してきた。

俺は無意識に師匠の攻撃を避けて、師匠に向かって自身の槍を突き出した。


俺の槍は簡単に師匠によけられた。


「うむ、よいぞ。無意識に体を動かすことができているな。意識して体を動かすとどうしても遅くなるからな。」


型は無意識に体を動かす練習でもある。

意識して体を動かそうとすると考える分遅い。


意識して体を動かしているうちは師匠に言わせればまだまだだ。

無意識に動かせてからがやっと武術のスタート地点らしい。


初めて聞いた時は

「え、どういうこと?意識しないと体動かないじゃん」

って感じだったが鍛錬を続けることで無意識のうちに体が動くようになった。


うまく説明できないが、そういうことがあるのだ。



「では、実戦と行くか。」

師匠と実践形式の戦いが始まった。

はじめは武器をもたないで体術のみの実戦だ。


武器がなくても戦えるようにしろということだ。


戦国時代の武士は寝ている時もトイレの時も帯刀していたが、狭い空間では日本刀は有効に使えない。

日本刀を振り回すことができないからだ。

なので、間者(現代で言うスパイや暗殺者のようなもの)は狭い部屋に武士が入ったところを狙って殺しに行く。

その時は体術で戦うしかない。


それに、現代になるにしたがって武家は日本刀などの武器を持ち歩くことができなくなる。

今は日本刀を帯刀していたら警察に通報されてしまう。

つまり、徐々に武器が使えなくなったのだ。


いっそう、武家にとっては体術の重要性が出てきており、師匠も体術に力を入れている。


なので、俺も師匠から槍の使い方だけではなく体術を教えてもらっている。

というかはじめの数ヶ月は槍は一切持たせてもらえなかった。

徹底的に体術を教えられた。



シュッ、師匠が俺に向かって殴ってくる。

俺はギリギリでよけて反撃をする。


師匠との組み手は気を抜いた瞬間やられるから気を抜けない。


組み手を続けること数十分。

はあ、はあ。息が上がってきた。


師匠は全く息を切らさずに鋭い攻撃を俺にしてくる。


なんでこんなに動いているのに師匠は息一つ切らさずに涼しい顔をしていられるんだ!!!!

こっちはもう限界近いのによー!!

どうにか一発は入れたい!!


一瞬、師匠に隙のようなものが見えた。

ここだぁ!!!


俺は渾身の突きを繰り出そうとしたその時、


「それは誘いの隙じゃよ。」


渾身の突きを放とうとした俺の体に師匠の強烈な蹴りがはいった。


ガハッ、いてぇー。

俺は地面に倒れてしまった。


「やはり、まだまだじゃな。何回も言っているだろう、悠真。隙を見つけたと思うなと」


「はあ、はあ。わかってますよ。でも、今回はいけそうだったんですよ。やっと師匠に一発入れられそうだったんですよ」


「悠真、隙ができたと思ってはいかん。そう思った瞬間がもっとも危険なのだ。好機だと思ったら人間は一瞬体の動きを止めてしまう。その瞬間にやられる。感情を出すな。無意識に全てやらせろ」


そんなの無理じゃん!!

だって、隙を見つけたら喜んじゃうだろ!!


「まあ、稽古をやるうちにお前もわかる。少し休憩にしよう」


俺は休憩に入った。もちろん、警戒を解いてはいけない。

全く休まらない休憩をした。

これって休憩というのかな?



それから、みっちりと師匠に稽古をつけられてから俺は家に帰った。

体中が痛い。これでもある程度手加減してもらっているが………。

肋骨折れてないといいけど。




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