異世界転移1日目
於田縫紀
醤油と砂糖が欲しい
方法論だけは一応知っている。
だからまずは試してみる方針で。
この世界に来る直前、俺はテントを担いで登山中だった。
だから一応3日間+予備1日分の食料はある。
しかしこれからはこの世界で暮らすのだ。
使えるようになった魔法の試運転を兼ね、この世界で食物を入手できるか試してみるべきだろう。
そんな訳で気配探知魔法を使いながら獲物を捜索。
小さな池に浮いていた大きめの鴨を狙い、火属性魔法を起動。
少々威力を込めすぎたようで頭が爆発、首も炭化してしまった。
しかし胴体は残っているので食べるには支障ないだろう。
風魔法と水魔法で水面上に浮いているのをこちらに寄せ、初獲物を無事入手。
そんな訳で今回の食事は鴨もどき。
まずは首の焼け焦げた部分を風属性魔法でカット。
逆さに吊して血抜きを開始。
血の臭いで他に獲物が近づいてこないだろうか。
来たら肉が更に増えるのだけれどな。
そう思ったのだが残念ながら血が止まるまで出てくる気配は無かった。
そう言えば魔物が少ない場所に出るようにした、そう神様が言っていたなと思い出す。
どうやらこの付近は安全そうだ。
なら今日はここ泊まりとしよう。
池から少し離れた平らな場所を選んでザックを下ろす。
テントを出し、グラウンドシート代わりの100円ポンチョを2枚敷いた地面の上に広げる。
テントはクロスポール2本で立つ吊り下げ式。
だから立てるのは簡単だ。
ただまだ明るいしテント内を汚したくない。
だから作業は外で続行する。
さて、血はほとんど抜けたようだ。
次はお湯をかけながら羽をむしるんだったよな。
かつてネットで見たうろ覚えの知識。
しかし今はそれ以外に頼るものがない。
アタックザックの中から四角形のコッヘル兼食器を取り出し、少し離れた場所に置く。
水属性魔法で60度くらいの湯が出るように念じる。
どばっと湯がコッヘルの周囲に溢れた。
やはり慣れていないので威力の調節がうまくいかない。
まあこうなるだろうと予想はしていた。
だから少し遠くに置いたのだ。
さて、それでは羽むしり作業、開始。
しっかりお湯をかけて温めるとその部分の羽が毟りやすくなる。
抜けなくなったらまたお湯をかけ、そして毟って。
概ね羽が抜けると食材っぽくなった。
残っている毛羽はバーナーであぶって取るんだったよな。
今の俺が魔法でやると威力を間違えて炭化してしまいそうだ。
だからここは荷物の中に入れていた煮炊き用のガスバーナーで処理。
本当は焚き火でやるべきなのだろう。
しかし異世界初日だし疲れた。
それに今回は新品の500ml入りガス缶を2個持ってきたので余裕がある。
だから燃料節約は明日からという事で。
まな板としても使っている薄板をザックの背部分から取り出す。
下に敷いて解体スタートだ。
ナイフで腹を割いて内臓を取り出す。
肉が俺の知っている鶏肉と比べて随分赤黒い気がするけれど、こんなものだろうか。
鑑定魔法で食べられるものと食べられない部分をわけ、あとは肉を何となく部位ごとにカットすればようやく肉の完成だ。
とりあえず今日は焼き鳥にしようか。
塩は持ってきているから。
コッヘルの蓋兼フライパンをガスバーナーの上に載せ、今さばいたばかりの肉の一片を皮が下になるよう置いて焼く。
皮から脂がいい感じで出てきてジュウジュウ音をたてる。
この音と匂いは悪くない。
寄生虫とかいると嫌なので、出来るだけしっかり焼く。
途中から脂が多くなり半ば揚げ焼きになったのはまあご愛敬。
肉1匹分、概ね1kgくらいを全部しっかり焼いて夕食は完成。
塩で味付けしただけのシンプルな焼き鳥だ。
他に主食や副菜等はない。
まさに男の手料理。
味は……悪くない。
脂も部位によるがほどほどのっているし。
やや肉が固めな気がするが、その分旨みもあるような気がする。
本当はビールと一緒ならば最高なのだろう。
実はザックに350ml缶が2本入っている
しかし今日は用心の為にやめておこう。
寝ていても警戒魔法は効果があると聞いている。
しかしアルコールで魔法がうまく起動していなかったら命取りになる。
しかしビール無しだとだんだん塩味に飽きてきた。
実は俺、焼き鳥はタレが好みなのだ。
ただ、焼き鳥のタレになるような調味料は持っていない。
というか持っている調味料は塩の他はヒガシ○ルの粉末うどんスープくらい。
他には粉末スープの素と、レトルトのカレー、ジフ○ーズ系乾燥食品とその付属調味料。
醤油は持ってきていない。
ザック内で漏れると悲しいから。
砂糖も持ってきていない。
面倒だったから。
食べられないとわかったら急にまたあの甘辛のタレ味焼き鳥が食べたくなった。
この世界に醤油と砂糖はあるだろうか。
あれば出来るだけ早く手に入れたい。
あとは米だな。
甘辛の焼き鳥をのせた焼き鳥丼なんていいかも。
まあ、食べられない物を欲しがっても仕方ない。
とりあえず飯も食べたし寝るとしよう。
骨や羽、血のついた地面等は土魔法で埋める。
飯セットも片付けてテントへと撤収。
警戒魔法は起動しっぱなしなので問題無い。
もしも危険な動物が近づいたらすぐに目が覚める筈だ。
マットの上にシュラフを広げ、防寒着を入れた袋を枕にして横になる。
確か神様は3日歩けば街に着くと言った。
その街なら怪しまれずに入れるし、多少妙な格好をしていても問題無いと。
その街に醤油と砂糖はあるだろうか。
あったら焼き鳥丼を作るぞ。
米も勿論あると嬉しいが、一応予備で4合持っている。
だから到着祝いに炊いてもいいだろう。
そんな事を思いながら俺は目を閉じる。
明日が楽しければいいなと思いながら。
異世界転移1日目 於田縫紀 @otanuki
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