第15話 ただ求めた平穏は
『百鬼夜行が来た!逃げろ!』
泣き叫ぶ女子供、返り討ちに合う大人達、逃げ惑う人々。
そんな中、俺は一人、真っ直ぐ、百鬼夜行の目の前に歩み出す。
……そうだ、この時もだったよな。
怖くて、足が重くて。
けど、俺が行かなきゃ、俺が止めなきゃ。
俺はどんな魑魅魍魎をも式神に封じ、行使してきた。
それで、魑魅魍魎に襲われていた人々が平穏を取り戻せるなら。
それでいいと思えた。
ただ、ただ。
平穏を願っただけだった。
『あの三条の子供が百鬼夜行を式神に封じ込めたんですって!』
『鬼一匹ではなく百鬼夜行を!?』
『一体何を考えているの……そんなおぞましいものを式神に込めるなど……』
『きっと京を落すつもりなのですわ!恐ろしい!』
違う。
『あのような術士を産んだ女を出せ!』
『ごめんなさい、ごめんなさいね、大和。』
なぁ、
『貴様があのような化け物を産んだから!』
『どう落とし前つける気?』
止めてくれ。
『ごめんなさい、ごめんなさい。』
『晒せ!晒し首だ!』
『恐ろしい怪物よ!』
俺は……どうすれば、良かったんだよ。
母は何処かに連れて行かれ、それ以降見た事は無い。
父は俺を家から追い出そうと必死だ。
そうか、俺は。
ハナから居なけりゃ良かったんだ。
・・・
大蜘蛛が糸を吐く。
巨大な髑髏達は巨人の腕を掴み、巨人は暴れる。
「どぅわあっ!」
振り落とされたクリフトと共に、巨人が集めていたであろう骨達が雪崩のように落ちる。
「うひぇっ!?」
「アルメリアはクリフトの救出。夕雨は骨の解析。」
「「はい。」」
黒咲から指示を受けたアルメリアは疾風のようにクリフトを骨の雨から攫い、夕雨は落ちてきた骨を一つ掴み、岩陰でそれを観察する。
……これで障害物は無くなった。
魑魅魍魎達で巨人を束縛する。
「嫌われ者らしく、殴り合いしようぜ?」
太刀を構え、地面を蹴る。
その時。
巨人は、叫んだ。
ピリピリと空気が揺れる。
その声に圧倒されていた、その時。
上から、圧が……。
「大和っ!!」
ガチリガチリと太刀が悲鳴を上げているのが分かる。
「まだ、まだ……だぁっ!」
一気に刀を振り、頭上にあった巨人の腕を押し退ける。
「うぅ、やっぱ見てて痛々しいや……。」
そうボヤくのは七草。
「しゃあねぇ。アイツの能力、式神経由型召喚術式はタイマンでやりあって、相手を跪かせなきゃなんねぇ。
それにより服従させる事の出来る術式……だが、分が悪いな。」
眉間に皺を寄せる黒咲に七草は頷いて返す。
巨人が腕を振るうと豪風と共に巨木にめり込む三条。
「……ってぇ。」
二、三本やられたか。激痛が稲妻の如く走る。
だが、退いてはならない。
負けてはならない。
宙に術式を浮かべ、再度魑魅魍魎に指示を起こす。
だが魑魅魍魎の存在に慣れてきた巨人は、意図も容易くそれを振りほどく。
「これ、やっぱり退いた方がいいんじゃないかな……。」
七草の震えた声。
だが黒咲は眉一つ動かす事なく、ただ一点、三条を見ていた。
「十分経過。残り五十分だ。」
「これ……は、どう……だ!」
三条は口から大きな虫を吐き出し、巨人に投げつける。
「うぇっ……ゲホッ……おえっ……。」
蠱毒。
壺の中に数多の毒虫を入れ、最後に生き残った毒虫には怨念と強き毒があるという。
それを体内で行う。
そんなことをして生きていれたのは、今も昔も三条大和という男、ただ一人だ。
巨人に投げつけた虫が巨人の腕を刺す。
響く巨人の叫び声。
「五年分の熟成蠱毒の味はそんなに旨いか。」
息が、切れる。
だがここで倒れるわけにはいかない。
なけなしの力で地面に足を付け、三条は再び畳み掛けるように魑魅魍魎達を増やし、巨人を襲わせる。
「残り四十分。」
巨人は消耗している、だが跪こうとしない。
蜘蛛の糸が巨人に絡む。
それでも尚、巨人は振りほどき、三条に手を伸ばす。
「……っが!」
首を掴まれた。
そのまま巨木に押し付けられる。
術式を展開し、数多の小鬼を喚ぶが、巨人はもろともしない。
三条は突き上げるように、巨人の手首に太刀を刺す。
突き上げる力も相まって、反動で巨人の手から逃れた三条。
着地と同時に再び術式展開、今度は巨大な蛇が何匹も地中から現れる。
蛇達は巨人に食らいつく。
だが寧ろ、腕についた蛇を鞭のように巨人は振るう。
ぶつかる三条。
地面にめり込み、立つのもやっとだ。
「ねぇ、隼もう止めようよ……。」
「残り三十分。」
七草の言葉を遮るように言い放つ。
三条は巨大な髑髏を再召喚、髑髏は食らいついた蛇を握り、巨人ごと巨木へと投げつける。
ズウゥゥゥン……
砂煙と振動。
だがまだ巨人は跪いていない。
巨人の振るった拳に髑髏は砕け、三条は吹き飛ぶ。
地面に二回、三回、バウンドしながらもめり込む少年の身体。
それに容赦なく足音は近づいた。
「この骨は……!」
骨の元である種族が判明したようで、夕雨はポツリと漏らす。
「分かったか?」
その骨の正体を聞こうとする黒咲。
だが、夕雨は眉間に皺を寄せている。
「えぇ、骨により判明しました。まず、この骨は───」
・・・
もう折れた本数も分からない。
意識も朦朧とする。
視界に映る緑は、植物なのか巨人なのかも分からない。
浮いた。
体が、浮いた。
あぁ、この緑、巨人か。
ならいいや。
「──此処が我が怨念の道。集え、百鬼夜行[全てを喰らい尽くす怨念達よ。今、晩餐の時だ]。」
数多の妖怪達が一匹の巨人に向けて放たれる。
「残り十分。」
「隼!もう無理だ!」
「だから何度も……」
「巨人の群れが接近してる!」
岩陰に隠れた一同は顔から血の気が引いた。
今、三条をあんなにズタボロにしている、あんな生き物が、複数……それも群れを成しているなど。
「さっきの巨人の声を聞いて駆けつけたんだよ!急いで逃げないと……。」
「群れがここに到着するまであと何分だ?」
「推定約五分……て、何をする気?」
黒咲は少し思考すると目線をクリフトに送る。
「クリフト、さっきの名誉挽回。行ってこい。」
「えぇ!?さっき死にかけたのに!?アレの群れを相手しろって鬼畜じゃない!?」
錯乱しているクリフト、前回の映像で見た光景や辺りの光景、そして自らもそうなりかけたのだから無理はない。
「相手しろなんざ言ってねぇよ。群れとアイツの合流時間をずらせ。それだけだ。」
クリフトはその言葉で命令の意図を把握した。
「……わかった、三条に借りたままなのも癪だからね。礼音、群れは何時の方向?」
唾を飲み込み、七草に尋ねる。
「十一時の方向、数は十五。到着まであと三分。」
「おっけ。」
それだけ言うと、三条が相手する巨人にバレないように木陰で立ち上がる。
余裕そうに返事をしたが足はガクガクと震えているのは全員分かっていた。
「護衛は……」
「連携ミスに繋がる。
一人で行くだろ?クリフト?」
半ば強制にも聞こえるこの言葉。
クリフトは引きつった笑みで返す。
「あぁ、こっち方面は単独の方が得意だし。」
分かりやすい程に震えた声、だが彼も副部長という看板を持つ者。
黒咲お墨付きの戦闘員でもある。
「行ってくる。」
震えた口角。だが決して、黒咲のビジョンに彼の失敗などなかった。
・・・
目の前の緑色に見境なく召喚した魑魅魍魎で襲わせる。
さっき巨人の周りには死体とアイツらしかいなかった。
仮にアイツらに当たりそうになってもアイツらなら回避出来るだろう。
そんな信頼も含め、朦朧とする意識の中でも術式を展開し続けた。
巨人の声で鼓膜が破れたのか、音も殆ど拾えない。
どれ程時間が経過したのか、今出した妖怪は何か、それすらも分からない。
ただ分かることは一つ。
ここで手を緩めれば、自分の命がない事だけだ。
まぁ、自分の命がどうなるかなどどうでもいい。
問題は俺が死ねば次に狙われるのが仲間たちだという事。
それだけは、あってはならない。
何度も、何度も、術式を唱え、展開する。
これが効いてるのかすら分からない。
そんな中……、視界を白が覆う。
「タイムアップだ。」
聞こえない、見えない。
だが、この白は巨人ではない。
そうか、役割を終えたのか。
俺の意識は、そこで途切れた。
・・・
数分前、一人森の中を駆ける。
「っと、群れ発見……、え。」
木の隙間から群れの姿を捉えたクリフト。
その群れが持つモノにクリフトの目は奪われた。
「エルフ族……それもこのエルフ族って……。」
クリフトはこの地に訪れた事もなければ、エルフ族をそう何度も見た事もない。
ただ、杞憂であって欲しい。
そう思っただけだった。
「それより今捕まってるあのエルフ族……、まだ生きてる……!」
クリフトは魔法を展開する。
「幻影魔法……四方呼声。」
巨人達はピクリと反応、一斉に辺りを見渡す。
「よし、掛かった!」
巨人達に見えているのは幻覚、聞こえているものは全て幻聴、匂いも、肌にまとわりつく感覚も全てクリフトに支配された。
「今のうち……!」
クリフトは飛び出す。
あの捕まっていたエルフ族を救出する為に、木から飛び降り、その体を巨人の手から攫った。
「……ふぅ、大丈夫だっ……た。」
エルフ族を抱きかかえ、木陰に隠れて声をかけたクリフト。
だが返事はない。
クリフトが抱えていたソレは、
既に首は本来曲がらぬ方向に折れ、衣服や皮膚が中途半端に剥がされて、数匹の蠅が辺りを飛び回る。
──死体だった。
木々の隙間から、残っている皮膚や衣服を見て、生きていると信じたクリフト。
だが、今、腕の中にいるのは、あと数分早ければ、助けられたかもしれない命の抜け殻だけだった。
「……ぐっ、う……ぇ……。」
複数の生き物への干渉、それも五感の干渉魔術は並大抵の魔法使いの出来る事ではない。
ゲート部所属の中でも指折りの魔法使い、クリフトだから出来る事。
だが、そんな優れた魔法使いでも魔力の限界がある。
魔力不足と、目の前の死体を見た事により、こみ上がった血が、口からポタポタと垂れる。
クリフトは口から垂れた血を、手で再度口の中に押し込み、死体に目をやる。
「……ごめんね、僕の仲間を守る為に……貰うよ。」
エルフ族は魔力を豊富に体内に持っており、肉、臓器にも多くの魔力が含まれる。
グチョリ
皮膚の剥がされた部分を引きちぎり、口に入れる。
噎せる。
吐き出しそうになるほどに不味い。
エルフ族であれど人肉だ。カニバリズムでもない限り、美味と感じる事は無いだろう。
「ごめんね、ごめんね……。」
ボロボロと涙を流しながら、肉を引きちぎっては口に入れ、吐き気を抑えながら飲み込む。
今、魔力を補うにはこれしか手段がなかった。
何度も何度も、嘔吐感を催しながら、喉に流し込む。
加食部分が無くなった死体。
「うぇ……けほっけほ……、ありがとう……。」
喉にせりあがってくるモノを抑えながら、残骸を優しく撫でる。
「僕は君に何もしてあげられないけど……無駄にはしないから。」
近くの花を摘み、死体の胸部に預ける。
「ありがとう……、行ってくる。」
クリフトは歩き出した、幻覚魔法をかけたまま、仲間たちの元へ合流に向かって行った。
名の知らぬエルフ族の命を無駄にせぬよう。
その命を背負い、クリフトは強く地面を蹴った。
・・・
「タイムアップだ。」
純白の翼が三条と巨人の視界を奪う。
意識を失った三条は、黒咲の腕の中でカクリと倒れ込む。
それと連動するように消えていく式神から現れた妖怪達。
黒咲は弱りかけた巨人の手を蹴り上げ、三条を確保すると、空高く飛ぶ。
そんな黒咲を狙って、巨人は残り僅かな力で大きく振りかぶる。
「──幻影魔法、四方呼声!」
よく通る声、その声に囚われたかのように、巨人は辺りを見渡しては何も無い方向に振りかぶる。
「クリフト、時間稼ぎありがとな。」
「そりゃ僕に言う事じゃないさ。」
クリフトの返しに疑問を持つ黒咲。
「夕雨、生態の記録は出来たな?」
「……あぁ、問題なく。」
黒咲はふわりと地面に足を着けると、純白の翼は何処かに消え去った。
「んじゃ、逃げるか。」
「え!?あれだけ削ったのに!?今が絶好のチャンスじゃないの?」
黒咲の出した結論に異論を唱える七草。
「この面子で何が出来るかつーの。それに……クリフト、お前魔力切れ近いだろ?」
その言葉にビクリと反応する。
図星だ。
現に今、合計十六の巨人の五感を奪い、幻覚を見せている。
その魔力消費量は生半可なものではなかった。
「クリフトの魔力切れが来る前に撤退。
ゲートを探す。んで、ここが何処なのか、データベースの確認は夕雨、頼んだ。
データベースがあれば、ゲート位置も分かるからな。」
そう指示をする中、横目でクリフトの様子を見る。
「七草は周囲の状況把握、異変があれば直ぐに俺に報告。
あと、アルメリアはクリフトを運んでくれ。コイツ魔力切れ寸前でろくに歩けそうにねぇからな。」
その言葉を聞くと、「バレてましたか」と言わんばかりに頬をかく。
「此処が何処なのか、データベースは見つかっているのです。」
夕雨の言葉に顔を向けた黒咲。
「此処はA-762。エルフ族の生息する世界であり……西校の黒瀬遼さんの出身世界です。」
沈黙がその場を支配した。
「ゲートはこの先の森の中の集落にあります。
この世界には伝承などもありますが、一先ずはクリフトさんの魔力切れを防ぐ為、この村に向かいましょう。」
一同は頷き、夕雨の言う通りに歩み出す。
・・・
西校ゲート部部室。
そこにはホットミルクを片手に、J-015の巨人の情報をチェックする遼の姿があった。
「あらァ?相変わらず仕事熱心ね、遼チャン。」
ひょっこりと遼の横から資料を覗き込む大柄な銀髪の男。
「ジルパイセン、人の見てる資料を覗き込むのは止めて貰えるっスか。生徒指導課呼ぶっスよ。」
「ジルちゃん♡って呼んでって言ってるでしょお〜?あと生徒指導課呼ばれちゃったら在らぬ誤解を招いちゃうわァ。」
体躯に似合わない口調。だが部室の誰もが慣れた様子で、そこに口を出す者はいない。
「それで……どぉしちゃったのぉ?J-015の資料なんて見ちゃって。何か気になる事あったワケ?」
遼は「抜け目無いっスね……。」と呟きながら、銀髪の男、ジルヴェスターに言葉を返した。
「俺の世界には頻繁に巨人が来ては、俺達エルフ族を虐殺してたんっスよ。……んで、その巨人とコイツは関係あんのかなって。」
ジルヴェスターは真剣な表情でそれを聞く。
「巨人種ってわりと多いものねェ。
それで、会ったらどうするつもりなの?」
その言葉に、当たり前の事を言わせるなと言わんばかりに目を見開く。
「そんなの、殲滅するに決まってるっしょ?
この世界でより多くの武器を身につけて、俺の世界を壊す巨人を倒す。
それが俺が此処にいる理由っスから。」
誇らしげに語る少年。
その表情が、彼の想いを表現しているようだった。
・・・
A-762
森の中の集落。
「ここ、ホントに人が住んでた所だよね?」
「厳密にはエルフ族だが、そうだな。」
大きな足跡で踏み潰された作物。
蠅が集る皮膚の残骸達。
静寂に蠅の羽ばたく音が聞こえるだけ。
皮膚の残骸以外、何も残されていないその場所。
「誰か、居ませんかー!お願いです!誰か、生きていれば返事を……っ!」
アルメリアが精一杯声を張る。
「七草さん……」
「……返答は、無いね。」
今にも泣き出しそうなアルメリア。
「そんな……誰か、誰か……っ!」
アルメリアの必死な声に一同は顔を伏せる。
「返答どころか……」
生命の息吹すら、何処にもない。
それは七草が言わずとも分かりきった事だった。
「……三条とクリフトを優先する。ゲートから帰還するぞ。」
呼びかけるアルメリアから顔を背け、データベースにあったゲートのある方向へと顔を向ける。
その時、彼はどんな顔をしていたのか。
誰も分かりはしなかった。
・・・
普段はあまりじっくりとは読まない本を睨みつけるように読む。
「千利、なんか珍しい事してるね?お茶会の本だなんて。」
同じ孤児院で暮らす凛花は、その様子を見ながら珈琲を二人分、厨房から運んできた。
「あ、凛花ちゃん。ありがと。……先輩にお茶会はどう?……って誘われちゃって。」
凛花から珈琲を受け取ると苦笑いを零す。
「同じ部活の先輩ばっかりだし、無礼のないように予習しようと思って……。」
「お茶会ってそんな気を張るものじゃないと思うけど……あー、でも千利制服で行きそうだよね。」
「え、制服は生徒である私達の正装じゃ……」
「言うと思った〜。もっとラフな格好でいいの。そんなビビるような物でもないし、お茶会とか。……てかいいなー!お茶会!私も行きたーい!」
駄々を捏ねるように体を伸ばす凛花。
「そう……なのかな。」
でも確かに、お茶会に誘われたアルメリア先輩は嬉しそうだった。
「何だか凛花もそんなに羨ましがってると、行くの楽しみになってきた。お茶会。」
凛花の姿に私は思わず笑う。
「ぜーったい楽しいやつだしー!いいなぁー」
二人で語らう。
……楽しみだな、お茶会。
こんなに楽しみだと思った事は、あまりなかったかもしれない。
・・・
「重症患者二名、クリフト・ドラグは魔力切れによる疲労。
三条大和は戦闘による重体、九箇所の骨折に鼓膜破損、また貧血意識不明。
両者共に意識は未だ戻らないが、命に別状は無し。」
A-000到着直ぐに医療室に運ばれた二人。
医療室からの報告を告げる黒咲。
残る夕雨、七草、アルメリアの計四人が集まる部室は嫌な程に静まり返っていた。
泣き出しそうなアルメリアを宥める七草。
無理もない。
地獄のような光景を目にしても尚、何一つ救えなかったのだ。
「俺はサジューロに提出する報告書の作成の為、先に帰る。夕雨もあの巨人の生態と本件の報告書、頼んだ。」
夕雨は晴れない顔をしながら頷く。
その頷きは酷く重かった。
それを横目に黒咲は部室から立ち去る。
冷たい空気の中、三人だけが取り残された。
「もっと早くにあの場所に行ってれば……エルフ族のみんなは……無事だったのかな。」
震えるアルメリアの声。
返す言葉など思いつかない。
「勝てなくても……守れたのかな……。」
いいや、どれだけ足掻いたとて、この六人では人命を守る事など出来なかっただろう。
そんな事は、嘆くアルメリアも分かりきっていた。
重い沈黙は、苦しみだけを与え、流れ続けた。
・・・
深夜。
端末に着信が入る。
「何スか、こっちは今、巨人種を調べるのに忙し……。」
遼は気だるげに端末を開く。
「……は?」
手からコップが落ちる、落ちる。
そして足元で悲鳴の如く、割れる音が響くが、それすらも耳に入らない程、端末の示す内容に食い入る遼。
あの緑の巨人種に、故郷が襲われた。
……ただ、夜の静かな書庫に、声にもならない声が転がり落ちた。
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