第三十三エロ 深い森での出来事

 魔参謀が助態の真上から顔を出したが、どうやらまだ助態たちは見つかっていないらしい。


 キョロキョロと辺りを見回した後、ハイエナエースの後を追うように滑って行った。


「た、助かったぁー」


 もふともがしばらくしてから安堵の息を吐く。


「序列モンスターとはいえ、魔参謀は危険度Eだから私たちを視認する力がなかったのかもしれない」


 ティーパンが分析すると、ルブマのうぅぅ。という情けない声がした。


「どうした?」


 驚いて助態がルブマの方を向くと、ぱいおがルブマの背中をさすっていた。


 何かを悟ったティーパンもルブマの近くへ寄る。


 それを見て助態も自分にも何かできるかもしれないと考え、ルブマの方へ近寄ろうとすると、ティーパンの鋭い声がかかった。


「君は来なくていい。あっちへ行っていろ」


 むしろ遠ざけられた。


「来いよ助態」


 やや離れたところに立つもふともが呼ぶ。


「何なんだ?」


 困惑しつつ助態は自分を呼ぶもふともの隣に立ちながらブツブツと文句を言う。


「アンタはいいんだよ。さっきの魔参謀が戻って来るかもしれないからさっさと見張るよ」


 ツンと言われた。なんだか、ティーパンももふともも助態に冷たいような気がした。


『そういえば、ぱいおも俺のことを睨んでいたような……何でだ?』


「ふはははははー。助態! ルブマは子供じゃぞ! 今しがた何が起きたのか見に行ったのじゃがなんとルブマお漏らしをしておったのじゃ」


 笑いながらちがが言い、もふともにゲンコツを食らった。


「何をするのじゃ! このボーボー男女!」


「誰がボーボー男女だよ! せっかくみんながルブマのために気を使っているのにアンタはアホか! この変態と同レベルのアホだよ!」


 この変態と言いながらもふともが助態を指さす。


「ちょっと待ってくれ。ルブマはおしっこを漏らしたのか? それともうん」


「おしっこだよ! アンタは馬鹿か!」


 ドガッと助態の顔面をパンチしてもふともが黙らせる。


「うぅぅぅー。もうお嫁にいけませんー」


 地面に倒れる助態の耳に、ルブマの情けない声が聞こえる。


 とはいえルブマがお漏らしをしたのはこれが初めてではない。


「ルブマさん。とりあえずウチと一緒に着替えるっす」


 ぱいおの言葉から、どうやらルブマのおしっこがぱいおの服にひっかかったのだと助態も理解する。


「覗くんじゃないよ?」


 まだ倒れている助態を見下すようにくびちが注意する。


 その目は怒っていた。


「教えておいてあげる。あなたがエロいことをしていいのはこの私にだけ。他の人をエロい目で見たら私許さないから」


「ほんっとアンタは発情女だねー」


 くびちの言葉を聞いてもふともが呆れる。


 なんてことはない。女性陣みんながルブマのことを庇っていたのだ。


「お待たせっすー」


 じゃーんと、木の影からぱいおとルブマが着替えを終えて出てきた。


「おぉ! いい!」


 思わず助態の口から言葉が飛び出る。


 ロリ属性の強いルブマは、いつぞやのスクール水着を着ていた。


「いやー。ウチもルブマさんとお揃いにしたかったんすけど、何しろ胸の大きさが違うもんで」


 そう言いながらメイド服を着たぱいおが、自分の胸を持ち上げる。


「この牝牛が!」


 ちあがぱいおの胸の大きさに反応して、おっぱいパンチを食らわせる。


「やーん。ちあさんのえっちぃー。でも年下になじられるのも悪くないっすー」


 ルブマがもじもじふざけているその隣で、ルブマは自分の胸の無さをいつものアーチャーの宿命という言い訳を必死にしていた。


「この森の中で、あんまり肌が露出している服装はよくない。服が乾いたらすぐに着替えた方がいい」


 真面目な口調でティーパンが言うが、確かに木の枝とか葉っぱやトゲなどで肌を傷つけやすい。


「私が服を小さくして火の近くで温めておいてあげるわ」


 アンアンがルブマとぱいおの服を小さくしたのを見て、ちあが感心する。


「さすがは淫魔族じゃ。ちあでも物の大きさを変える魔法は使えないぞ?」


 それを聞いたアンアンは、ふふふ。と微笑んだ。


 助態には理解できないが、淫魔族の魔法は特別で物理法則を捻じ曲げている。とかブツブツちあが助態の背中に乗りながらずっと呟いていた。


 ●


 小休止――


 魔参謀から隠れてからしばらくの間、助態たちは一塊となって進んでいた。


 森の中で時間感覚が分からないが、みんなの腹具合とちあの眠気からそろそろ夜だと感じてわざわざ別々に行動を取る必要性がないと考えたからだ。


 森の中のやや開けた場所にテントを張り、火を起こして野営の準備をする。


 ルブマとぱいおの服もしっかりと乾き、2人共元の服装に戻っていた。


「アンアンさん、ありがとうございます」


 ルブマがアンアンの隣に座ってお礼を言う。


 逆隣りにはちあが座り、アンアンの魔法の仕組みを聞いていた。


「さすがは幼き天才だな。こういうところで実力の違いが出るんだろうな」


 そんな姿を見てポツリと助態が言うと、その隣で純純が頷いた。


「そうですね。私なんてほんと皆さんの役に立っていませんから……」


「純純はいるだけでアタイのやる気が出るからいいんだよ!」


 酔ったもふともがフラフラになって言う。


 なー助態ーと肩を組む。


「相変わらず酒癖が悪いわね」


 そう言うくびちも十分に出来上がっているが、くびちのような悪酔いはしない。


「アタイは浴びる程酒を飲むのが好きなんだよ!」


「はいはい。分かったから、寝てるティーパンを起こさないでよ?」


 体力と魔力を回復させるためにティーパンは速めに休憩を取っている。


「森の中を進む時も、ティーパンさんが気を張り詰めて警戒してくれただろうし、疲労が溜まってそうだよな」


 テントの中をチラリと見ながら助態が言う。


 テントの中ではティーパンとぱいおが寝ている。


 酒が入っているくびちともふともももうすぐ眠る予定だ。ちあは夜は勝手に寝る。


 見張りは、助態、純純、ルブマ、アンアンの4人だ。


「どんなところなんだろ」


 みんなが寝静まった頃、焚き火に木の枝を投げ入れながらポツリと助態が言う。


「はい?」


 その様子をぼーっと眺めながら純純が聞き返す。


「いやさ、俺が夢で見た箱の庭園って、どんなところなんだろうなって思って。俺と純純とルブマで行くわけだろ? 気にならないか?」


「船の墓場の先にあるのかどうかも分からない場所だっけ?」


 確か、とみんなの言葉を思い返しながらアンアンが聞き返す。


「えぇ。皆さんが色んな人から聞いたのに詳しい場所は分からずに、東方面にあるとだけ判明している場所です」


 隣で純純が頷いた。


「当てになるか分からないけど、海詠族に話しを聞けるかもしれないわね」


 少し考えてからアンアンが言う。


「海詠族ですか?」


 キョトンとしてルブマが聞き返すと、アンアンはえぇ。と頷いて続ける。


「体の下半身が魚のような見た目の種族で、陸上でも生活はできるんだけど基本は海で生きてるのよ。船の墓場って多分海の近くでしょ? うまくいけば、海詠族と会えるかもしれないなって思って」


「その、海詠族は海ならどこにでもいるのですか?」


 ルブマが聞くとアンアンが首を振った。


「必ずではないけれど、海にいる生き物に頼めばあるいは呼んでもらえるかもしれないけれど」


「海詠族なら箱の庭園の場所を知っているのでしょうか?」


「どうかしらね。ただ、海を泳いでいる種族だから私たちが知らない情報も持っているかもしれないでしょ?」


 今度は純純が聞いてアンアンがそれに答えた。


「私たちは海詠族とは縁が深いから、力になってくれると思うわ」


 助態はみんなの話を聞きながらも別のことを考えていた。


『下半身が魚? それってもしかして人魚?』


「ちょ、ちょっと聞いてもいいか?」


 急き込んで助態がアンアンに聞く。


 何かしら? とアンアンが助態の方を向く。


 純純もルブマも助態が何かに気づいたのだろうと思い、助態の方を見た。


 助態の顔は興奮したような、獣のような目つきをしていた。


「その海詠族ってのは、下半身が魚だと言ったな? 上半身は、ははははは裸なのか?」


 ルブマとアンアンはがっくり項垂れてしまった。


 助態は怒った純純によって殴られた。


 ●


 助態が目を覚ました時にはもうみんなが起きていた。


 ちあが起きていることからも、朝なのだろう。


「アンアンから聞いたよ。海詠族って種族がいるんだって? 知らなかったなぁ」


 ティーパンが驚いたように言う。


「ティーパンさんでも知らない種族っているんですね」


 少し驚いたように助態が言うと、当たり前だろと諭された。


「この世界がどれだけでかいと思っているんだよ。まだまだ私だって行ったことない場所が多いんだから。会ったことない種族だってたくさんいるに決まってるだろ?」


「むしろこの世界の全てを知ってる人なんていないんじゃないっすか?」


 2人の会話にぱいおも入ってくる。


 そうなのか? と助態が聞くとぱいおがこくんと頷いた。


「各町付近の地図はあっても世界地図とかって見たことないっすもん」


「そういえばそうだねー。君、面白いことに気が付くね」


 ポンとティーパンがぱいおの頭を軽くなでる。


 とりあえず助態たちは森を進みながらまずは人がいそうな場所を探すことにした。


 更には船の墓場付近の海で海詠族と会うことを第2の目的とした。


 再び2手に分かれて進んでいた助態たちの目の前に大きな沼が現れた。


 沼と陸の境界には、ゆらゆらかがり火が揺らめいていて周囲を照らしていた。


 パーティー全員が集まると、助態は久しぶりにパーティー全員の顔を見たような気がした。


「船の墓場かのぅ?」


 ちあが問うが明らかに海ではないのだから船の墓場であるはずがない。


 しかし――


「どうだろうね? 序列モンスターがいるかもしれないから注意した方がいいだろうね」


 ティーパンまでもが、この沼を見て海かもしれないと判断していた。


「ちょ、ちょ、ちょっと待ってください。これは沼ですよ。海じゃないんで船の墓場じゃないと思いますよ」


 そう助態が言うと、全員が一斉に助態を見た。


「あの、勇者様。沼とは何でしょうか?」


 純純が問いかけてくる。


「あのラーガやカローンの近くのやつもそういえばアンタは湖って呼んでたねぇ」


 ふと思い出したようにもふともが言う。


「え? みんな海を知らないの?」


 助態が呆然とすると、アンアンが頷いた。


「この世界はとても広いから。誰も海を見たことがないから海がどんなところか知らないのよ。勇者様が言っていたから、あそこが話しに聞く湖なんだと理解はしたけれど、正直海との違いはよく分からないわ」


 確かに、海を見たことがない人からすれば湖も海も沼も同じ水が溜まっている場所という認識なのかもしれない。


「えーっと、海は基本塩水だな。で、風とかの影響で波が発生してる」


「それくらい常識の共用で習っておるわい」


 助態が、自分で知りうる限りの海の定義を話すとちあがぴしゃりと言ってきた。


 海がどんな場所で湖がどんな場所で沼がどんな場所か、知識としては知っている。しかしパッと見てこれが海、これが湖、これが沼と判断はできないようだ。


「そっか。海を見ればどれが海でどれが湖でどれが沼か何となく分かるようになるってことか」


「私個人としては、君が私の知らないことを知っているってことが癪に障るけどまぁ別世界の住人だし仕方ないか」


 それにしてもこれが沼かー。なんて言いながらティーパンが沼の水際まで歩く。


「ちょっと気味が悪いですね」


 ルブマはくびちの腕にしがみついている。


「この水は飲めるのかな?」


「どうですかね? 俺が住んでた世界だと基本沼の水は飲まないと思いますけど」


 ティーパンに問われて助態が応える。


 すると背後から声がかかった。


「おぉーい! あんまり近寄ったらダメだべー」


 全員が驚いてすぐさま戦闘態勢に入ったが、人間だと分かった。


「おらはロンラーに住んでるべ。おめたちはどこのもんだ?」


 声をかけてきたおじさんがやや早口で喋る。


「一体何語を話しておるのじゃ?」


 ちあに言われたくないだろうけど、やや聞き取りづらい。


「どうやらロンラーっている場所に住んでるみたいだね。俺たちは旅の途中なんです。ガイラからこの深い森を抜けて来ました」


「ガイラ? どこだべそこは」


「本当ガイラから先は別世界のようになってるみたいっすね」


 ぱいおが助態を見ながら言う。


 隣で助態もその言葉に頷く。


「この森の先にも人間が住む町があるんだ。私たちはもっと別のところから来たけど、勇者と一緒に旅をしているんだ」


 ティーパンが簡単に説明をするとおじさんがロンラー村へと案内をしてくれた。

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