第三十四エロ 死者を祀る村ロンラー
ロンラーは、沼から東方面に少し歩いた場所にあった。
深い森に覆われていて陽の光が入らないからか、村にはかがり火が掲げられていた。
どことなく陰気な雰囲気が漂っている。
「ここは、周囲の村とかとの交流はないのかい?」
村で食事をとりながらティーパンが案内してくれたおじさんに聞く。
「こんな場所だからな。おらたちはおらたちだけで生活してるだ」
相変わらずの早口だ。
「食糧とかどうしてるんすか?」
出された野草のソテーをフォークで突きながらぱいおがおじさんに聞くと、ほとんどが森の中で採っていると言う。
水は沼の水を浄水し、陽の光が当たらないので畑は作らず森の自然の中の生き物を採って生活をしているようだ。
「ほとんど狩り生活だな」
ぼそりと言う助態の言葉をティーパンが引き取った。
「そんな生活をしても、村が維持できていることの方が不思議だ」
「村と言っても基本的には家族単位で暮らしている集落だべ。ルールとかもねぇし、物をみんなで持ち寄って食べたりしてるだよ」
他の者はいまいちこの村の生活がピンときていないようだが、助態は大昔の日本でもそんな生活をしていた時代があることをかつて学校で習っていたことがある。
そういう生活もあると理解できた。
「ふーん。ま、この村がどんな生活をしてるかはどうでもいいさね。アタイらは船の墓場って場所に行きたいんだけど知ってる?」
どうでもいいとばかりにもふともが聞きたいことだけを聞く。
「いんや。おらたちはこの村と死の沼と恵の森だけで生活してるだよ。ここに村人以外の人が来ることは滅多にないだよ」
おじさんが首を振る。
その言葉を聞いてもふともは、ふーんと行って出された何の肉かも分からない肉にかじりついた。
「あんまりうまくないね」
その言葉に隣の純純が苦笑いする。
ロンラー村には、お店やお金と言う概念がない。
みんなで持ち寄った食べ物を食べて、それぞれの家族で好き勝手に寝ている。
「念のために見張りを立てて寝ておこう」
というティーパンの言葉に従って、テントを張ったら数人の見張りを立てて眠りについた。
テントの何もない天井を見上げて助態はさっきのおじさんの話を思い出していた。
少し、腑に落ちないことがあったのだ。
助態の隣ではちあがすやすやと寝息を立てている。
『この村に人はほとんど来ない。でもティーパンさんは念のために見張りを立てようとした。ティーパンさんも違和感を感じ取ったってことか?』
そこでふと思い立った。
「ティーパンさん」
テントの外で見張りをしていたティーパンに声をかける。
一緒に見張りをしていたぱいおともふともが目を丸くする。
「さっきのおじさんの話しなんですけど」
助態がそう口にすると、ティーパンはあぁ。と頷いて辺りをキョロキョロ見渡した。
「中で話そうか。2人、警戒を怠るな」
ぱいおともふともに注意を促してティーパンは助態が寝ていたテントの中に入ってきた。
念のためにと、サラマンダーを召喚していた。
●
「ティーパンさん、何を警戒しろって言うんすかねー?」
サラマンダーに火が付いた木の枝を食べさせながらぱいおがもふともに言う。
「さぁね。でもこの村が気味悪いってのは頷けるけどね」
くびちが肩をすくめる。
「……ここ、村なんだよね?」
ふとくびちが言う。まるで自分に言い聞かせるかのような呟きにも聞こえる言い方だ。
「そうっすね。死者を祀るとか言ってましたっけ?」
サラマンダーに木の枝をあげていたぱいおが顔をあげる。
「死者を祀る村ロンラーか……」
そう呟いたくびちが、何かに気づいた顔をした。
「まさかっ!」
そう言ったのと同時にガサリという音がした。
「その通り! 我らは死者を祀る! 死者とはお前たちのことだ!」
村人たちが囲っていた。
「やっぱりね」
テントの中からティーパンの声がした。
「さっきの話し。物凄く違和感があったんですよ。村に人が来ることは滅多にないと言っておきながら俺たちを見ても驚かなかったし、村人の誰もが驚きもしなかった。無関心すぎたんです」
今度は助態だ。
「そもそもね。村人以外の人をあまり見ないならば、私たちのことをじろじろ見たりするものだよ」
ティーパンがユルルングルを召喚しながらテントから出てくる。
相手が人間なら召喚モンスター1匹で十分のはずだった。
しかし、助態たちを囲っていたのは村人たちだけではなかった。
「きゅ……吸収スライム? なぜここに……?」
ティーパンが絶句するのも無理はない。
サイネ市の近くで戦ったあの吸収スライムが目の前に居たのだ。
考えられる可能性としては、ここの村人が吸収スライムを飼いならしているということ。
「あなた達が……?」
アンアンが恐怖の声を出す。
騒ぎを聞きつけて他のメンバーも起きて来たが、事態を飲み込むのに時間がかかった。
「村が襲われたんですか?」
「皆さんなんで私たちを囲んでいるんでしょう?」
純純とルブマは困惑しっぱなしだ。
「ちあたちを騙していたのじゃろう。ちあたちのように森で迷い込んだ人間を襲って荷物を盗むことで生計を立てていたのじゃろうな」
眠そうに目をこすりながらちあが冷静に分析する。
その言葉通りなのか、村人はにやにやしている。
吸収スライムは、命令されていないからなのか攻撃をしてくる気配がない。
『今なら逃げ出せるか……?』
助態の脳裏にそんな考えが浮かぶ。
「皆さん! こっちだ!」
助態たちを囲っている村人たちの背後から突如声がした。
●
村人たちも意表をつかれたのか、反応できずにいた。
それに比べて助態たちは腐っても何度も戦闘で培ってきた経験がある。
声がして村人が反応できないでいる隙を突いて、村人の包囲を脱出した。
「この方向……」
ティーパンがぼそりと呟いて助態も気がついた。
「村人が死の沼と呼んでるあの沼に向かっている?」
「ここまでくればもう大丈夫です。」
助態たちを先導していたたすけてくれた者が振り返る。
そこで初めて助態は、助けてくれた者が誰だったのかに気づいた。
「あなたは!」
その者は、サイネ市で箱の庭園のおおよその場所を教えてくれたあの行商だった。
「なぜここに?」
ティーパンが不振がって問う。
「?」
助態にはその聞き方がとても失礼な聞き方に聞こえて、不思議そうにティーパンを見た。
「気になるか? 私たちを助けるならばこことは反対側の方が村を脱出するだけなら近かったはず」
ティーパンに言われて助態も思い返してみる。
村と呼ばれるかは分からないが、ロンラーは正円のような形をしていた。そして助態たちが寝ていたのは沼とは反対側の村の南側。沼は村の北側にある。
「俺たちをわざわざここに誘導したかった?」
助態が呟くと、行商がその通り。とほくそ笑んだ。
同時に村人たちがやって来た。
助態たちは、沼を背後に村人たちにじりじりと追い詰められる形となった。
「その理由はこの沼にちあたちを入れたいからじゃな?」
ギロリとちあが行商を睨む。
「つまり、箱の庭園の場所もでたらめってことっすか?」
ぱいおがムキーっと言いながら盾を構える。
「さぁな」
行商がにやりと笑うと、助態たちを囲んでいた村人がモクモクと紫色の煙を体から吐き出したかと思えば不気味な紫色の鏡に変貌した。
「なんだこいつらは!」
見た目からモンスターなのは明らかだが、ティーパンも見たことないモンスターのようだ。
「映身鏡という変身が得意な新種のモンスターだ。脅威度もないと思って構わん。だがこいつはそうはいかんだろ?」
行商がそう言うと、映身鏡の軍勢の後ろから吸収スライムがのっそりと姿を現した。
「1つ、確かなことはお前たち勇者が王の手様にとって邪魔な存在だということだ」
「なるほど。お前は王の手の手先というわけか」
「王の手って古王の一番の部下だったいわゆる王位モンスターって呼ばれてる連中じゃないの?」
行商が口にした王の手という言葉を聞いてティーパンはすぐさまに、行商が王の手の手先だと気づいた。
くびちは王の手が王位モンスターと呼ばれている連中だと言い、困惑する助態に簡単に説明した。
「かつてのモンスターたちの王の中の王が古王。その古王が王の位を与えた何匹かのモンスターがいるのよ。それが王位モンスター。魔王や序列モンスターのトップのイビルジェネラルも王位モンスターの一員よ」
「それってモンスターの中でも一番強いやつらってこと?」
助態の問いにアンアンが横から頷いて答える。
「その通りよ。悪魔の使いよりも上よ」
「思ったのですが、さっきの言い方からすると、あの吸収スライムを操っているのがあの行商ってことですよね?」
ルブマが隣の純純に問う。
「そうですね。ってことは王の手が強力な吸収スライムを作ろうとしてるってことですかね」
「なるほどね。そういうことかい。王の手は元々モンスターを生み出す力を持っている。その力をも活用して強力な吸収スライムを誕生させようと目論んでいるわけか……」
ルブマと純純の会話を聞いていたティーパンが納得したように、行商に言う。
「さすがはかの有名なティーパンとちあを率いているだけあるな。勇者パーティーはなかなか優秀なようだ」
にやりと行商が笑うが、助態にはまだ謎が残っていた。
「でも何でそんな強力なモンスターを作ろうととしてるんだ?」
「ほう?勇者も優秀だな。今のところ我らに大々的に歯向かっているわけではない勇者を狙っているわけではない。とはいえモンスターを討伐する勇者は邪魔な存在ってことだ」
助態の質問に答えにならない答えを行商が出す。
「は? どういうことっすか?」
ぱいおがすかさず毒づく。
その言葉に行商は、ふっ。と笑う。
「お喋りはここまでだ。お前たちには今2つの選択肢がある。1つは死の沼を進む道。もう1つは吸収スライムと戦う道。選ぶがいい」
「選ぶって、その吸収スライムと戦って勝てるわけないじゃないっすか! って問答無用に攻撃してくるわけじゃないんすか?」
わけがわかないっす。とぱいおは最後に付け足した。
「しかし死の沼に入るのも危険な気がするのじゃ。なんか嫌な雰囲気がするぞ」
ちあが助態にひしっとしがみつく。
しかしこのちあの言葉を否定したのは、今までずっと黙っていたもふともだった。
「大丈夫だよ」
全員の視線がもふともに集まる。
生暖かい不気味な風が沼から森へと吹き抜けて行った。
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