第二十三エロ 危険度スパイシーSの実力
「くそ!なんで俺がこんな目に!」
助態はそう悪態をつきながら必死に走っていた。
助態と目が合った巨大吸収スライムは、敵として助態を認識したようだ。
巨大なスライムに追いかけられれば、敵として認識されてるかどうかはともかくとして、とりあえず逃げるだろう。
「作戦通りに行こうか。」
追いかけられて必死に逃げる助態を無視してティーパンが他のメンバーに言う。
作戦自体は単純だった。
誰かが囮になっている隙に、吸収スライムを押して街から遠ざけるというもの。
ティーパン曰く、酸スライムや激辛スライムと違って触れても無害なのが吸収スライムなのだそう。
それでも囮は危険だからティーパンがやる予定だったのだが、助態が囮になっているしスライムも助態を追いかけている。
「そのまま街から遠ざかってー。ポイントへ移動してー。」
ティーパンが助態に指示を出す。
ポイントとは、吸収スライムを落とし穴に落とす場所のことだ。
現段階では吸収スライムを倒す手段は限られている。
その中でも最も安全で確実な方法が、落とし穴に落として火を穴に投げ込む方法。
「何も吸収してなきゃ人間の頭脳の方が勝つさ。」
簡単簡単と言いながらティーパンは落とし穴の手前で立ち止まった。
助態は機転を利かせてわざと遠回りをして落とし穴のところへやって来る。
「もし吸収してたらどうするんすか?」
ぱいおが珍しく不安そうに聞く。
ティーパンはぱいおにいたずらっぽくウインクをして、その時はその時だ。と告げた。
「行き当たりばったりかい。」
もふともがつっこむが、ティーパンは意に介さない。
そしてとうとう遠回りをしていた助態が走って来た。
「落ちるんじゃないわよ。」
くびちが念のために助態に注意する。
「お…落ち…ない!」
息苦しそうにゼイゼイ言いながらも助態は、落とし穴の手前で振り返り、吸収スライムと対峙する。
「うぉぉぉぉぉー!」
スライムを威嚇する。
吸収スライムも挑発に乗り、追いかけるスピードを上げる。
ギリギリで助態は横に飛び、見事吸収スライムを落とし穴に落とすことに成功した。
●
結果から見れば作戦は大成功だった。
ただ、計算違いもあった。
吸収スライムはぱいおの予想通りモンスターを既に吸収していた。
「ま、こんだけでかけりゃ1体や2体くらいのモンスターを吸収しててもおかしくないか…」
ちっ。と舌打ちをしつつティーパンはサラマンダーを召喚してやや遠くから炎を撃ち込ませている。
距離を保っているのは吸収スライムに吸収されるのを警戒しているからだろう。
しかしその吸収したモンスターの特性が厄介だった。
1体目――マリンフォー――
尻尾が3本ある水をまとった鳥のような見た目。
鳥なので当然空を飛べる。
更に水系攻撃で火を向こうかできる。
つまり、サラマンダーの炎はほぼ無効化され、落とし穴に落としたことも空を飛ぶことで無意味となった。
「しかも炎で炙って倒すってゆースライム系統を倒す常套手段を使うのが難しいってことだね…」
そう言いつつもティーパンがサラマンダーに炎攻撃を続けさせているのは、全く効果が無いわけではないからだ。
2体目――雷スライム――
雷攻撃をしてくるスライムだ。
「触れなくてよかったっすね。」
ほう。とぱいおが安堵の息を吐く。
雷スライムに触れたら、ビリビリ玩具に触れた程度では済まない。
3体目――フレイムコブラ――
炎をまとった蛇で毒も持つ。
「危険度Aのモンスターを2体も吸収してるわ…」
くびちがみんなに注意を促す。
危険度Aのモンスターは、雷スライムとフレイムコブラだ。マリンフォーは危険度Cに該当する。
4体目――激辛スライム――
辛味成分を体外に放出しているため、近づくと目と鼻をやられる。
危険度はD。
5体目――触手スライム――
触手を上手に操るスライム。
危険度はC。
6体目――悪魔の使い――
見た目は可愛らしいいつも笑顔のちびっこい悪魔だが、その危険度はスパイシーS。
三叉の槍を手に持ち、三叉槍から悪魔魔法を放つ。
吸収スライムは、落とし穴に落ちてから空を飛び、三叉槍を出した。
「なにが1体や2体だよ。6体も吸収してんじゃんこいつ。しかも悪魔の使いって!」
もふともがティーパンに毒づく。
「さすがにまずいわね…」
サラマンダーを還してティーパンが呟く。
打撃攻撃はスライム系統の特性で無効。
魔法攻撃は、悪魔の使いの特性で耐性が上がっている。
炎は効かない上に空まで飛べる。
体は水と雷と炎を纏えて触手を伸ばしたり増やしたりして操れて、毒攻撃も可能。
そして三叉槍からは悪魔魔法が飛び出てくる。
「とりあえず、あの槍を構えてる時は危険よ。悪魔魔法の中には一撃技もあるって聞くし。でも反対に言えばあの槍を持っていない時は悪魔魔法は使えないってことだから。」
そう言いながらティーパンは、槍から飛ばされ業火の弾をよける。
悪魔魔法――悪魔の炎(デビルフレイム)――だ。
「これは早速危険な魔法だわ!触れた物はどんな物でも燃えるから気を付けて!」
バスケットボールサイズの業火の弾は、避けたティーパンの背後の大きな岩に当たった。
岩は瞬く間に燃え上がった。
「悪魔の使いを吸収してるってことは、魔力も底なしって考えた方がいいわね。」
くびちがティーパンに言うと、ティーパンもえぇ。と頷いた。
「何?悪魔の使いってそんなチートモンスターなの?」
助態が困惑しながら訊ねる。
「ちーと?悪魔の使いは最強モンスターの1体よ。倒した実力者も10人といないわ。」
くびちの答えに助態が絶句する。
「なんでそんなモンスターが吸収されてるんだよ…」
「物理攻撃が効かない上に召喚獣もほぼ無意味…困ったねぇ。破滅の時は来た。火を呼べ水を呼べ光を呼べ。」
ティーパンが双頭蛇を召喚して、蛇が口から光線を吐き出した。
「うわっ!」
目もくらむような閃光に助態は戦闘中にも関わらず、思わず目を閉じてしまう。
物凄い破壊力であることだけは、目を閉じていても分かる。
「無理か…」
くそ!とティーパンが魔力を回復する飲み物を飲む。
魔力切れで双頭蛇は消滅していた。
吸収スライムは空に浮かびながら、黄色いビリビリしたような物を纏っていた。雷にも見えるしバリアにも見える。
「あれは?雷スライムの雷を纏ってるんですか?」
「いや。悪魔魔法、電磁壁(エレクトロマジネティックウォール)だな…簡単に言えばあらゆる攻撃から身を守るバリアだ。」
助態の質問にティーパンが簡潔に答える。
助態は、えれくろと?などとブツブツ言っている。
「直訳すると電磁壁?なんじゃそりゃ。」
「勇者!」
ティーパンの声が無ければ反応出来なかっただろう。
間一髪。吸収スライムの毒攻撃を避けた。
『まぁ、攻撃の名前の由来なんて考えてもしょうがないか…あらゆる攻撃から身を守るってことはあの魔法を使わせないことが第一条件か…』
鉄爆を構えながら空に浮かぶ吸収スライムを見上げる。
「スライム風情が見下してんじゃねーぞ!」
うおぉーっと助態は走り出し、鉄爆を吸収スライムに叩きつける。
触れた瞬間、先端が爆発を起こした。
「打撃攻撃じゃないのか!爆発ならダメージがあるか?」
ティーパンも驚くが、結果は打撃攻撃同様に分裂させるだけだった。
「燃やすのと似た着眼点だったからいけると思ったがな…スライム系統には爆発系も効かないのか…」
分裂体は、大きさを保ちたいからなのか数を増やすことを第一とせず、元の1体に戻っていった。
「しかも1体となることに執着している?これが突破の糸口になるか?」
ブツブツとティーパンは吸収スライムの分析をする。
しかし次の瞬間、吸収スライムの体からゴロゴロと音がしたと思ったら、周囲に雷を落とした。
「まさか雷スライムの?」
上を見上げてティーパンが絶句する。
同時に雷がティーパンを貫く。
そのままティーパンは気を失った。
●
「やばっ!どうすんの?」
ティーパンがやられたのを見てもふともが言う。
「と…とりあえず今は倒せないだろ!」
助態は落ち着こうとするが、むしろあたふたしている。
「逃げるってことでいいんすよね?」
ぱいおがティーパンの元に駆け寄る。
吸収スライムがぱいおに雷攻撃をしようとしているのを見て、助態が挑発する。
「こっちだアホたれー!」
人間の言葉が通じるとは思っていなかったが、吸収スライムは助態の方に意識を向けた。
そのまま助態は走って逃げる。
ぱいおとくびちともふともがその隙にティーパンを抱えてサイネ市へと戻って行った。
相変わらず吸収スライムのスピードは遅かった。
助態は体力さえ続く限り、街と反対方向へと走って逃げた。
しかし、遅いのは動くスピードだけ。
攻撃は雷など速いものばかり。
吸収スライムが三叉槍からバスケットボールサイズの真っ黒な水の塊を飛ばした。
この技は――黒の水(ダークアクア)――。
悪魔の炎が触れた物を燃やすのに対して、黒の水は触れた物を溶かす。
何発も飛ばしてくるが、さすがは運動神経のいい助態。
これを難なくかわす。
「へっ!そんな攻撃いつまでも俺には当たらないぜ!」
意気揚々と言う助態だったが、ティーパンを宿屋に置いて助けにやって来たもふともの声にはっとする。
「助態!」
声に反応するように鉄爆を上に掲げる。
吸収スライムから放たれた雷が鉄爆に触れる。
鉄爆の先端が爆発し、周囲の木々や岩を粉々にした。
同時にもふともが砂を巻き上げて目隠しをし、助態を救出した。
「死ぬなよー。」
助態を抱えて走りながら、心配そうにもふともが呟く。
背後の吸収スライムは、自身の攻撃と鉄爆の破裂でダメージを負い、分裂体が合体するまで動かないようだ。
『そのまま止まっててくれよな…』
必死に願いながらもふともは木々をの間を走り抜け、雪原を通り抜け、サイネ市へとたどり着いた。
宿屋では助態とティーパンが寝込む形となった…
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