第二十二エロ 恐怖の吸収スライム

「その後、元王族は世界のどこかでひっそりと暮らしているという噂を聞いたが、その中の一部はその地を離れて、強欲族と卑息族が進化したと言われる人間を恨んで攻撃をしかけるようになったと言われている。かつて古王が住んでいた城があった場所は戦場跡地として、今では元王族ですら近づかない場所になっている。そこには謎のモンスターが沸き出ていると言われている。」


牙狼族のリーダーはそう締めくくった。


「ちょっと質問なんだけどさ、かつての王族って今でいうモンスターだろ?竜人族とかそういう種族に分かれてたけど、アンアンたちのような淫魔族とどう違うの?」


助態が種族に関する質問をすると、アンアンが答えた。


「それはね、牙狼族も淫魔族も竜人族も巨龍族も同じモンスターと言ってしまえばそれまでだわ。違うのは王族、つまり古王の元に生まれたモンスターかどうかの違いだけ。私たち淫魔族とか牙狼族は王族の元に生まれなかっただけよ。」


アンアンが自分の胸にそっと手を置く。


「とにかく、その古の大戦で王の口は死んだと言われているってことね?」


くびちが牙狼族のリーダーにそう言うとリーダーは、そうだ。と頷いた。


「もし本物だとしたら、狙いは私たち人間ってことかな…もしくは勇者か…」


さらりとティーパンが怖いことを言う。


「とりあえず今抱えている問題の内の2つが解決したのは進歩だろ?」


もふともが少しでも明るくしようと気を使った発言をした。


あまりにももふともらしからぬ言動に、思わず助態がもふともを見た。


「な…何だよ。人攫いの問題は解決しただろ?」


顔を赤らめながらもふともが言う。


「モンスターの生態系の問題も原因は分かったから、そういう意味では進歩だね。」


ティーパンがもふともの言葉を肯定すると、人攫いのリーダーから思わぬ言葉が飛び出した。


「そういえば、俺たちが実験していた吸収スライムから、勇者たちをサイネの外で見かけたと報告があったんだけど、その後連絡が途絶えてしまったんだ。何も問題がなければいいけど、もしかしたら我々の制御下を離れてしまったかもしれない…ついででいいから調査してくれないか?」


こうして助態たちは、一度サイネ市に戻って吸収スライムの情報を集めつつ、サイネ市周辺のモンスターを討伐して仕事がなくて困っている人を救うこととなった。




あへはユーサー町でウサギのカクレ里に帰って行き、ぷーれいもユーサー町で色んな町を広めることにしたようだ。


こうしてまたパーティーメンバーが入れ替わって、助態たちは再びサイネ市にたどり着いた。



「ここでやることは大きく分けて3つ。1つ目は吸収スライムの調査。これはさっき牙狼族に依頼されたやつね。人間に被害があるかもしれない以上、放っておくわけにはいかないでしょ?」


サイネ市に着くと同時にティーパンが指を3本立てた。


最後の言葉は、えー。と文句言いたげそうなぱいおに向かってだ。


「第2に、街周辺にはびこってるモンスターの討伐。これには勇者は強制参加です。ヒソカな酒飲みで仕事を失っている人のためにもなるべく今回の滞在中に達成したいところだね。」


ビシッとティーパンが助態を指さす。


「そして最後に、モンスターに占拠された村の情報をもう一度探す。」


「でもそれは前回調査して見つからなかったじゃないか。」


もふともの言う通り、前回来た時に人攫いの情報と一緒にモンスターに占拠された村に関する情報も調査したが手がかりは無かった。


「前回無かったからって今回も無いとは限らないでしょ?」


ちっちっち。とティーパンが人差し指を左右に振る。


「それはまぁ。確率の問題なんじゃないかしら?」


そうれはそうだけど。というような感じでくびちが言う。


「これだけ広い都市だからね。何もしないのはもったいないでしょ?」


にぃ。とティーパンが笑った。


こうしてティーパンによるグループ分けが始まった。


外に巣食うモンスター退治は、助態、もふとも、アンアンに。


吸収スライムの調査はティーパンが1人で行うことに。


モンスターに占拠された村の情報収集は、純純、くびち、ルブマ、ぱいおに決定した。


「人攫いはもういないと思うけど、念のため街での行動には注意してね。」


最後にそう付け足してティーパンが話しを締めくくった。


昼食後にそれぞれのグループに分かれて行動を開始することになった。



助態、もふとも、アンアンサイド――


サイネ市周辺に巣食うモンスターには色んな種類がいた。


助態はティーパンに訓練をつけてもらったおかげで、ゴブリン1体程度なら難なく倒せるようになった。


更に、アンアンが一緒にいるので鉄爆のサイズを通常サイズに戻してもらって戦いがより楽になった。


もふともは元々動きが速い。


動きの遅いゴブリンくらいなら2匹相手でも問題ない。


単純な見方ではもふともの方が助態よりも実力が上だろう。


「ティーパンに稽古をつけてもらったんだろ?その割にはアタイの方が敵を倒してるんじゃないのかい?」


エロサルの巣を襲撃して、まとめて3匹を倒しながらもふともが言う。


「お、俺は大器晩成型なんだよ!」


悔し紛れに助態が言うが、アンアンですら2匹をまとめて倒している中で、助態は何とか1匹を倒しただけだった。


「それにしても、サイネの周辺にはたくさんのモンスターの巣があるのね。」


最後の1匹を倒しながらアンアンが言う。


確かに、さっきはゴブリンの巣を襲撃し今はエロサルの巣を襲撃している。


この後は近くにあるタコツボと呼ばれる、陸タコの巣へ向かう予定だった。


陸タコもゴブリン同様に危険度Dだが、ゴブリン同様数さえ少なければ問題なく倒せる。


「サイネ周辺のモンスターはあらかた倒し終わったし、後は特に問題視されてるタコツボとスライム山だけか…」


もふともの言葉通り、タコツボと呼ばれる陸タコの巣とスライム山と呼ばれるスライムの巣が潰せれば、サイネ市の人たちも仕事ができるようになる。


しかしタコツボもスライム山も危険性が高いとサイネ市でも噂されていた。


どうする?ともふともが助態を見る。


「ティーパンさんには無理するなと言われてるんだよな…」


ふーむ。と考えながら助態が言う。


「今のままだと結局仕事がない人たちが助態を逆恨みしたまんまなんかね?」


「まぁ何かにつけて誰かを攻撃したいというところでしょうね。」


もふともの言葉にアンアンが頷いて答える。


要は当てつけということだ。


タコツボの近くまでやって来ると外に陸タコが1匹で居た。


「とりあえずあいつを倒しておくか。」


そう言う助態の言葉に従って3人は展開した。


助態が中央を、右側にもふとも、左側をアンアンが並走した。


陸タコがこちらに気づいた。


正面の助態に向かって8本ある足を持ち上げた。


それを見たもふともがにやりと笑ってわざと走る速度を落とした。


それを横目に見た助態とアンアンが陸タコの注意を更に引き付ける。


助態は元の大きさに戻した鉄爆を掲げ、アンアンは雪を拾って丸めた物を2つ作った。1つはかなり巨大な大きさに変更し、もう1つはこぶしよりも2回り大きいサイズに変更した。


大きい方はその場に置いたままにしておいた。後から何かに使えるかもしれないと布石にしたのだ。


陸タコが助態に集中している間にこぶしよりもやや大きい方の雪玉を投げて自分にも注意を引き付ける。


陸タコがアンアンを見たすきに助態がもふともに鉄爆を投げ渡し、もはや助態の武器となった木の棒をまるで剣を鞘から引き抜くかのように腰ベルトから引き抜いてそのまま先端の尖った箇所で突き刺した。


プッ――


気持ち悪いような、妙に気持ちいいようなスッキリしたような奇妙な感覚だった。


まるで梱包材のプチプチを針で1つ1つ刺したような感覚。


大きなタコに対して小さな木の棒の先端程度では大したダメージにもならないだろう。


しかしそれでも再び注意を引き付けることはできた。


助態に気が向いたタコに向かって、今度はアンアンが助態の手に持つ木の棒を大きくした。


自分に刺さったまま、木の棒が大きくなったので当然傷口が大きくなる。


痛みと怒りで我を忘れた陸タコは、助態とアンアンに完全に注意が向き、ここにもう1人居ることをすっかり忘れてしまった。


背後から躍り出たもふともが鉄爆で陸タコに攻撃をして倒した。


しかしその物音のせいで、タコツボの中から10匹もの陸タコが出てきた。


「これはさすがに倒せないな…」


まだ気づかれていないのをいいことに助態たちは、アンアンが大きくして地面に置いておいた雪玉に隠れてから、その場を後にした。



純純、くびち、ルブマ、ぱいおサイド――


4人はヒソカな酒飲みに向かって話を聞くことにした。


「おじさん久しぶりっすね。」


そう言ってぱいおが酒場の店主に話しかけた。


「おう。巨乳の嬢ちゃん。また調べものかい?」


店主が愛想よく返事をする。


とりあえず全員がソフトドリンクを注文して、くびちが質問する。


「前にも聞いたんだけど、モンスターに占拠された村についての情報はないかしら?」


「あぁ。相変わらずそんな情報はないな。その噂は本当なのかい?」


4人にそれぞれの飲み物を渡しながら店主が聞き返す。


「こんなことで嘘なんてつかないっすよー。」


ケラケラ笑いながらぱいおが言うと、店主がそういえば。と思い出したように噂話を語る。


「タキューの先にやたら野菜系統のモンスターが出現するようになったと聞いたことがあるな…確かあんたらが前に救った村も野菜系統のモンスターに占拠されてたんだろ?」


4人は目を見合わせた。


「また野菜軍団が村を占拠したのでしょうか?」


ルブマが心配そうに言う。


「そのタキューはどこにあるのですか?」


純純がすかさず店主に聞いた。


「あぁ。西門から出て徒歩で5日くらいの距離だな。けどなぁ。西門付近にはタコツボっていう陸タコの巣とスライム山っていうスライム系統の巣があるからかなり危険だな。前はタキューとの交流もあったが、最近はその巣のせいで交流がなくなっちまった。」


あそこは畜産業が盛んでいい肉がよく入ったのに。と最後に残念そうにこぼした。


4人はひとまず西側の敵を倒している助態たちに合流することにした。



ティーパンはひとまず門番に話しを聞くことにした。


「前に巨大なモンスターの影を見たって言ってたわよね?それって具体的にどの辺だったか分かる?」


ティーパンが聞いているのは、以前に助態を訓練させた南門の門番だ。ちょうど前回と同じ門番がだった。


「あぁ。あそこの大きな岩陰あたりだったかな。」


そう言って門番が指さす先には、大きな岩があった。


『あそこから見られてたとしたら、さすがの私でも気づけないか…』


そんなことを考えながらティーパンはユルルングルとサラマンダーを召喚して岩の周辺を調べさせた。


「さすがティーパンさん。一度に2体もの召喚獣を呼び出すとは…世界広しといえど、こんなに自在に召喚獣を呼び出せる人はそういませんよ。」


「そうでもないよ。」


門番が褒めたのをティーパンはすかさず否定した。


「え?」


予想外の返答に門番の口から素っ頓狂な声が零れる。


「いやね。噂に聞いた話しだけど、遠い土地にドラゴンを操れる大召喚士がいるって話しだよ。」


「ど…ドラゴンですか?それはさすがに無理なのでは?」


驚く門番に向かってティーパンが微笑む。


「私も無理だと思うんだけどね。ドラゴンを操る大召喚士のことをレジェンドドラゴンサモナーって呼ぶんだってさ。」


レジェンドドラゴンサモナー…と門番が呟くと同時に、たたたっとサラマンダーが戻って来た。


「お。お疲れさん。やっぱもう居ないよなー。で、ユルルングルは何してんの?ん?あーそう。匂い残ってるんだ?ふーん。」


サラマンダーは一切言葉を発していないが、契約を交わしたからだろう。


サラマンダーとティーパンは意思疎通が出来ている。


「ありがとう門番さん。吸収スライムの情報が集まったから一回みんなところに戻るね。無いとは思うけど、モンスターの襲撃とかあるかもしれなから注意してね。」


そう告げてティーパンは街の中に入って行った。


そのままティーパンが西門へ向かうと、ちょうど助態たちのグループとくびちたちのグループが合流したところだった。


みんなが揃ったところで食堂へ向かい、それぞれの情報を交換し合った。



食堂でそれぞれの情報を出し合った後、これからどうするかについての議論になった。


「タコツボとスライム山はちょっと置いておきましょう。今の私たちじゃやられるのがオチだわ。」


ティーパンがもっともなことを言う。


「となると、モンスターに占拠された村やタキューへ行くのも後回しっすね。」


ぱいおが言う通り、モンスターに占拠された村があるかどうかは分からないが、サイネ市の西側にはタコツボとスライム山がある。


そしてそこを越えた先にタキュー村があり、タキュー村付近では野菜軍団を見かけるという情報があった。


しかし、タコツボとスライム山の問題を先に片づけなければならず、よほどの作戦を立てないとタコツボとスライム山に巣食うモンスターは倒せない。


「じゃあ最初は吸収スライムですね?」


助態が言うと、ティーパンもえぇ。と頷いて話を進めた。


「どのみち、吸収スライムがいたんじゃ、街の人も安心して暮らせないだろうし仕事もできないだろうから、倒せれば一石二鳥。倒せなくてもこの地から離れさせられればいいだろう。」


「でも…強いんですよね?」


不安そうに聞くのは純純だ。


「そりゃそうだろう。吸収スライムの危険度はスパイシーSだよ?危険で済む話かい?」


もふともがガブリ。と骨付き肉にかぶりつきながら言う。


「あー。でもそれは吸収スライムの性質に対しての危険度だから。何も吸収してないならむしろ危険度はないよ。」


片手を目の前で左右に振って、ないない。の仕草をしながらティーパンが言う。


これに反応したのは助態だ。


「そうなんですか?え?じゃあ実は吸収スライムって弱いんですか?もしそうなら牙狼族でも傷つけることは可能なんじゃ?」


「勇者は馬鹿だねー。確かに危険性はないよ?私からしたら何も吸収してない吸収スライムなんて雑魚同然さ。でもね、何も吸収してないスライムを相手にしても牙狼族からしたら強敵なの。わかる?」


ポンポンと助態の頭を軽く小突きながらティーパンが言う。


からかうかのような物言いに同調するように、ぱいおも助態さんはほんと馬鹿っすよねー。とからかった。


「じゃあとりあえず、南門に向かうってことかしら?」


くびちが話を続ける。


「えぇそうよ。吸収される危険性があるからアンアンは待機ね。他にも純純とルブマも待機しておきましょ。私も召喚獣を吸収される恐れがあるから大刀で戦うわ。」


ティーパンが頷く。


吸収スライムは、人間こそ吸収しないが他のモンスターを吸収してしまう。


吸収されると、その特性を受け継ぐため、アンアンやティーパンの召喚獣を戦わせるわけにはいかない。


アンアンだけを残すわけにもいかないため、純純とルブマも待機組にさせた。


こうして助態たちは南門へ向かった。


そこにはティーパンが召喚したユルルングルが待機していた。


「この子が吸収スライムの匂いを発見して、居場所を突き止めたらしいからそこに行くよ。」


そう言って急ぎ足でティーパンは先導する。


ずっとユルルングルを召喚しっぱなしだったので、魔力が底を尽きかけているのだろう。


「あそこだ。」


岩陰をティーパンが指さす。


同時にユルルングルを還らせて、魔力を温存する。


ほう。と息を吐いてから魔力回復の飲み物を飲む。


吸収スライムの大きさは想像以上に大きかった。


巨大な吸収スライムと助態の目が合った。


嫌な風が吹き抜けて行った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る