第十三エロ 再び出発

カローンの村は奪取した。


ルブマは両親と再開できた。


アンアンやあへも村の復興を助けてくれた。


実に平和な日々が続いていた。


それはいいことだ。


慌ただしかった旅の日々を思い返すには十分すぎる程の時間もあった。


しかし――


『退屈だ…』


不謹慎にも助態はそう思っていた。


この世界に来てから、目まぐるしく色んな出来事が起きた。


旅することにも慣れてしまった。


だからだろうか?


助態はのんびりに飽きていた。


『みんなはどうなんだろう?』


仲間だったメンバーも今はバラバラになっている。


村の復興が済み、旅立たない勇者を見たアンアンとあへは自分たちの住処へと帰って行った。


「また願望の宿まで来ることがあったら立ち寄ってね。」


そう言って少し寂しそうにアンアンは去って行った。


「あまりお役には立てませんでしたが、私もウサギのカクレ里に戻ります。」


アンアンの肩に乗ってあへも一緒に帰って行った。


くびち、もふとも、ぱいお、純純はラーガの村出身だから、そこに居る。


助態は…


「助態さん!聞いてますか?」


ルブマが助態の片耳を引っ張る。


「え?あぁ。…何だっけ?」


「もぅ!ぼーっとしすぎですよ?」


ふぅ。と息を吐きながらルブマが向かいの席に座る。


「お父さんとお母さんが、そこまで手伝わなくていいって言ってました。助態さんには村のみんなも感謝してるんです。本当なら、助態さんは何もしないで一緒村のみんながお世話するレベルの恩人なんです。」


そう言ってルブマは、手作りのバケットを差し出した。


助態は村の英雄だった。


村から唯一脱走できたルブマと共に、世界規模で言えば近場かもしれないが、それでも色んなところを旅して仲間を引き連れて村を解放したのだ。


ティーパンの実力があってこそだとしても、村人からしたら勇者助態は英雄だった。


助態は村の宿でほとんど何もしないでいる。


時折、田畑を耕したり荷物を運ぶのを手伝う程度。


「いや。このままだと俺ニートになりそうだ…」


「にーと?ですか…?」


ルブマがポカンと口をあける。


「あぁ。働きもしないでグダグダしているってこと。」


「いいじゃないですか!助態さんは村の英雄なんですよ?私達はなんてお礼を言ってもしきれない程のことをされたんです。それに…私のことを何度も助けてくれて助態さんは私にとっても英雄なんです。」


顔を真っ赤にしてルブマが言い切る。


他の仲間が居なくなってから、助態とルブマの仲が急展開するようなことはない。


それでも、一緒に旅をした仲だ。


それも告白までされていれば、意識しない方が無理であろう。


「あ――ありがとう…」


助態の歯切れの悪い返事もいつものことだ。


「誰か…他の人のこと考えてます?」


上目遣いで訊くのもいつものこと。


「誰かって?」


目をそらしながら助態が質問に質問で返す。


「純純さんとかくびちさんとかです。」


「あぁ――」


助態のあぁは、肯定のあぁではなく、何だの意味。


しかしルブマにとってはそのどちらでも関係ない。


両頬をぷーと膨らませる。


「助態さん最近ずっとそうですね。」


ほっぺを膨らませても効果がないと分かると、ルブマは再び話し出した。


「何をしてても上の空…悩み事ですか?」


「悩み…という程のことでもないんだけど…」


そう言って助態は、ようやっとルブマがいつもと違うことに気が付いた。


「ルブマ…」


「もぅ!助態さん鈍すぎです!ほら!早く支度してください!出発しますよ!」


再びルブマが頬を膨らませる。


今度はしっかりと助態が見ている。


「え?だって…ルブマの目的は果たしたし…せっかく両親にも会えたのに…」


村に戻ってからのルブマはラフな格好をしていた。


しかし今日のルブマはあの冒険をしていた時の探検隊のような恰好をしている。


弓まで手に持って。


「助態さんが上の空になってから私ずっと決めていました!両親には許可を得ています!さぁ助態さん!また冒険に行きましょう!」


さっきまでふくれっ面だった少女が駆け出して、笑顔で助態に手を差し伸べる。


「…冒険か…あぁ!」


細くてちっちゃな手を握り返して助態は何日ぶりかの笑顔を見せた。


「それですよそれ!私が好きなのはその笑顔の助態さんです!」


そう言ってルブマは助態の頬にキスをした。



「やっぱり男の人は冒険すると笑顔になるんですか?」


「え?さぁ。どうだろうな。分からん。分からんがとりあえず今は関係ないだろう。」


「そそそそうですね…でもやっぱりじっとしてる男の人ってのはつまらないって私実感しました。」


「あぁありがとよ。それよりもさ、早く助けてくんない?」


「そ!そうですね!…って無理ですよー!」


わーんとルブマが泣き出した。


助態とルブマ。ポンコツ2人組がカローンの村を出発して1日も経たない内に、2人は何の食糧も持っていないことに気が付いた。


そして、高い木になる精林子を発見した助態が木を登って採った。


まではよかったのだが、降りられなくなってしまったのだ。


「私高いところとか苦手なので!」


短い茶色の髪をブンブンさせながらルブマが言う。


「んなこと言っても今はルブマだけが頼りなんだよー。」


ひしっと木にしがみつきながら助態が言う。


そもそも細い枝に足をかけた瞬間、その枝が折れてしまい降りれなくなっている。


村へ助けを呼びに行こうとするルブマだが、助態がそれだけは勘弁と断る。


「かっこつけて村を出たのにカッコ悪いだろ?」


「見栄と命どっちが大切なんですかー!」


「今は見栄ー!」


そんな2人の様子を見る4つの影があった。


「ぷっ。ほらな?アタイの言った通りだったろ?」


聞き覚えのある声にビキニのような恰好は間違いなく――


「もふとも!」


木の上で助態が情けなく呼ぶ。


「なぁーに面白そうなことやってんの?」


あはは。と笑いながら助態に名前を呼ばれたもふともが言う。


「笑ってないで助けてくれよー。」


木の上から助態が情けない声を出す。


「あななたち相変わらず緊張感ないのね?」


やっとの思いで木から降りた助態に、呆れ顔でくびちが言う。


「いや。今のは緊張感とかの問題じゃなくてだな。」


「はいはい言い訳はいいから。」


めんどくさそうにくびちが助態の言葉を遮った。


「アンタ久々の再会なのに、さっそくめんどくさがられてるんかい。」


もふともまで呆れている。


「まー助態さんのアホっぷりはウチも知ってるんで全然驚きませんけどねー。」


ぱいおがジト目で助態を見る。


「ぱいお!相変わらず胸でけーな!いやー来る日も来る日もルブマのペチャパイだろ?もぉー物足りなくって物足りなくって。」


ぱいおの胸をまじまじと拝みながら助態が言うと、ぱいおは本気で引いていた。


「うわ。相変わらずさいってーっすね。」


バカにされたルブマはいつもの言い訳をし始めた。


「むっ!胸がないのはアーチャーの宿命だから仕方ないんです!」


サッと自分の胸を隠すような仕草もした。


「あの。勇者様は何をしようとしてたのですか?」


ちょっと言いにくそうに純純が訊く。


相変わらずエロは苦手なようだ。


「純純!よくぞ聞いてくれた!いやー、カローンを解放して村には平和が戻ったわけだけど、なにぶん暇でさぁー。そしたらルブマにまた冒険しようって誘われちゃったわけよ。」


片手を頭の後ろに持っていく、いかにもな間抜けポーズで助態が答える。


「そ。そうなんですね…」


引き気味に純純が曖昧に笑った。


「こら!純純を困らせるんじゃないの!」


ポカ。ともふともが助態の後頭部を小突く。


「あの。それで勇者様たちはこれからどうするつもりだったのですか?」


まだ苦笑いしつつ純純が訊ねる。


「あぁ。特に決めてなかったんだよね。とりあえずみんなのことを迎えに行こうと思ってたところだから。行先とかはそれから決めればいいかなー。なんて思ってたし。」


助態の楽観的な答えに、やれやれともふともは首を降った。


「そんなことじゃないかと思った。安心しな。ちゃーんとおっちゃんから仕事の依頼を引き受けて来たから。今回は前回よりも長旅だぞー。」


ニヒヒ。と笑いながら言っている。もふともも相当楽しみなのだろう。


それにしてももふともにかかれば、ラーガの村の村長もおっちゃん呼ばわりらしい。


「本来なら、勇者の仕事って魔王を討伐することなんだけどね。」


くびちはまだ呆れているようだ。


「う。それを言われると痛いな…だって魔王がどこにいるかも分かんないし、そんなに悪さしてるようにも見えないし、今の俺たちじゃどうせ倒せないだろ?」


「まぁ確かにそれはあるわね。魔王はこの世界のどこかに存在するってだけで、特別なにかをしているという噂は今のところないからね。ただ、モンスターを生み出したのが魔王だと言われているから、全く被害がないわけでもないのよ?」


諭すようにくびちは言う。


「でも安心してちょうだい。今回の依頼は、勇者としての仕事だから。」


不安そうにした助態を見て、くびちが付け足した。



依頼の内容はこうだ。


カローンの村のようにモンスターに襲われて占領された村があるという噂が出回っている。その真相を確かめてほしい――


「うーん。その占領された村ってのはどこにあるの?」


依頼を聞いて助態がくびちに聞くも、さぁ?と言われて一蹴。


「さぁって。じゃあその噂の信憑性は?」


またもや、さぁ?が返ってくる。


「ちょ、ちょっと待って!それってさ、どうやって確かめればいいわけ?」


女性陣5人が目を見合わせた。


そして一斉に顎に人差し指を当てて、小首を傾げながら、さぁ?と言った。


「いやだからあざといポーズいらんから!」


「よし!安定の助態のツッコミも出たところで、早速行こうか。」


すっともふともが腕を降ろして真面目な顔をする。


「行くってどこへ?」


もふともはどこへ行けばいいのか明らかに分かっている様子だった。


純純もくびちもぱいおも同じだ。しかしルブマは分かっていないようなので、たぶんラーガの村に居た時に4人で話し合っていたのだろう。


「とりあえず今までの仲間をもっかい探すしかないっしょ!」


ニヒヒ。とまた笑いながらもふともが言う。


「アンアンさんとあへさんですか?」


ルブマが小首を傾げる。


「そっ。それにハクダクが兵器を開発してただろ?あれもう出来上がってるだろうから貰いに行かないとなっ。」


似合わないウインクをしながらもふともが言う。


「なるほど!じゃあとりあずリンネーンを目指す感じか!」


ぽん。と手を叩きながら助態が歩き出す。


その様子を見て、他の女性陣が笑顔で笑い合う。


「ようやく助態さんらしさが戻ってきました。」


ルブマが言うとくびちが頷いた。


「やっぱり助態は腑抜けてたのね?」


はい。とルブマが苦笑いで答える。


「まぁウチも冒険が楽しみってのはあるっす。」


うへへとぱいおが笑うと、純純が隣で頷いた。


「その気持ちは分かります。私も不謹慎ですけど暇だと思ってしまいました。」


「ま、なんであれこれからまた楽しい冒険が始まるっしょ!」


ルブマの肩に腕を回してもふともが笑顔で言う。


みんな助態と同じ気持ちだったようだ。


冒険をしたことで、冒険が楽しみになっていたようだ。


女性陣5人がふと先を歩く助態の背中を見ると、なんとなく以前よりも逞しく見えた。

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