第十四エロ モンスターに追われて

助態たち一向はカローンの村からひたすらに北上していた。


「懐かしいですね。」


隣で純純が助態に微笑みかける。


「え?」


キョトンとした顔で助態が聞き返す。


「前回ここに来た時はぶららさんも一緒でしたね。」


ふふふと純純が思い出し笑いをする。


「あぁ。そういえばそうだな。で、リスの穴でハクダクが仲間になって猛吹雪に遭って願望の宿でアンアンと出会って…ほんと懐かしいな。」


にこりと助態が微笑み返す。


「懐かしい話ししてるねぇ。」


終始頬が緩みっぱなしのもふともが話しに割って入る。


「もふともさんずっと楽しそうにしてますよね。」


ふふふ。と笑いながら純純が言う。


「まぁ気持ちは分かるよ。俺も冒険が久しぶりでワクワクしてるもん。」


助態もにこにこしてもふともに言う。


「そうだろ?そうだろ?最初の頃はさ、平和な日々もいいって思ってたけど、冒険してた時のことを思い出しちゃって腕がうずくっていうかさー。」


「あーウチの場合は腕じゃなくてアソコがうずきますよ?」


横からぱいおが茶々を入れる。


「アンタはいつでもうずいてるでしょーが!」


「やーん。もふともさんのえっちー。」


ぱいおがらしくないくねくねとした行動をとる。


「あなた気持ち悪いわよ?」


後ろからくびちが突っ込むと、えー?そうっすかー?今のガチムチの顔でもっかい言ってくださーい。と相変わらずの反応をしていた。


「皆さんお変わりないようで良かったです。」


みんなの様子を見たルブマがほっとして言う。


「それ、どういう意味?アタイの胸が成長してないってこと?」


ウリウリと、そこまでない胸をルブマに押しつけながらもふともが言う。


「ウチの胸、まだ成長してるっすよ?」


ぱいおもルブマにでかい胸を押し付ける。


「あなたの場合はお肉が全体的についただけでしょう?私の場合は違うわよ?どう?助態?」


くびちが自分の胸を強調した後に助態に揉ませる。


「なななななな!何してるんですか!」


怒るルブマを無視して助態が鼻の下を伸ばす。


「凄くいい♡」


ゴンッ!


いつも通り助態は純純に殴られた。



「いやー。いつものパターンが見れて良かったねぇー。」


両手を頭の後ろで組みながらもふともがにやにやする。


その隣ではルブマが苦笑いしていた。


助態たちはリスの穴を通り過ぎていた。


リスの穴で、念のためにハクダクのことを訊いてみたが、まだ戻ってないとのことだった。


「リンネーンでまだ武器作ってるんすかねー?」


助態の隣を歩くぱいおが聞く。


「もういい加減完成してもいいはずなんだけどなー?」


「助態さん忘れたんすか?ハクダクさんのことっすよ?絶対に期限を盛ったんすよ。まだ完成してないから帰ってないだけっすよ。」


自信満々に言うぱいおに助態は何の反論もできなかった。


助態もぱいおが言うことはもっともだと思ったからだ。


「ハクダクのあの盛り方は何なんだろうな?」


「あーゆータイプの人は絶対自分の胸のサイズも盛ってるっすよ。ウチには分かるっす。」


何がどう分かるのか助態には分からなかった。


『人じゃねーけどな。』


なんてことを考えながら辺りを見回す。


前回来た時と変らぬ景色に、心が安らぐのを感じる。


「なんか…いいよなこういうの。」


「何がっすか?」


辺りの景色を見ているだけの助態にぱいおが訊ねる。


「いやさ。平和っていうかなんて言うか。」


「ウチら今冒険の真っ最中っすよ?平和のへの字も本当はないっすよ?」


「分かってるんだけどさ。なんかいいなって。」


「助態さんってなんか年寄りみたいっすね。村でゆっくりしてる方がいいんじゃないっすか?」


「いや!それだけはやめて!暇で死んじゃうから!」


首を思いっきりぶんぶんと振って全力で助態が否定する。


そんな助態を見てぱいおが思い出したように聞く。


「そういえば助態さん。ずっとルブマさんと一緒だったんすよね?」


純純・くびち・もふともが気づきながら敢えて話題にしなかったことだ。


「あぁ。」


鈍感な助態は当然それに気づかない。


「ルブマさんと何もなかったんすか?」


「なんもって?」


キョトンとする助態にぱいおは、ほとほと呆れた。


「助態さんって、マジなんなんすか?別の世界でモテたとか嘘なんじゃないっすか?」


「はぁ?嘘じゃねーから!俺のエクスカリハーで何人の女をヒーヒー言わせたと思ってるんだ?」


「助態さんのキングコブラ小さいってアンアンさんが言ってましたよ?」


にやにやしながらぱいおが助態の股間に視線を落とす。


「ちっ!小さくねーし!何なら見せてやろーか?」


ズボンに手をかけながら助態が言うが、純純が殴って止めた。


「純純いっつも俺にキツくないか?」


殴られた後頭部を擦りながら助態は涙目で言う。


「純純さんも私もえっちぃことが嫌いだからです!」


なぜかルブマが無い胸を張って偉そうにしている。


「それよりも助態さんとルブマさん、ほんとに何もなかったんすか?」


ぱいおが先ほどの話を蒸し返す。


「何もないんですよー。」


泣きまねをして悲しそうにルブマがそれに答える。


「助態さんヘタレっすね。」


「なぬ!何で俺がヘタレになるんだよ!」


くわっ!と助態が酷い顔でぱいおに迫る。


「うわ!汚いっすよ!やめてくださいよ。」


ぱいおが本気で嫌がる。


「汚いってなんだよ…傷つくぞ?」


「あなたは何で迫らなかったの?」


くびちがルブマに言う。


さすがはくびち。女性陣の中では一番余裕がある。


「え?何でと言われましても…助態さんいっつも腑抜けてましたし…なんか冒険してない助態さんは私が好きな助態さんじゃなかったんです。」


「あー。なんか分かる気がする。」


もふともがルブマの言葉に同意すると、くびちもなるほどね。と納得したようだ。


「勇者様、カローンで何をしていたんですか?」


純純がちょっと驚きながら聞く。


「何にも?」


その言葉を聞いたぱいおが大きくため息をつく。


「そりゃルブマさんも呆れるっすよ。助態さんマジでなんなんすか?ほんとクズっすね。」


「ぱいおはまだまだお子ちゃまね。助態は何もしないクズなところがいいのよ?」


くびちが助態を慰めるように頭を撫でた。


「うわー。くびちさんってダメ男が好きなんすねー。」


「発情女にそこの変態はちょうだいいんじゃないのかい?」


ふん!と鼻を鳴らしながらもふともが助態を変態呼ばわりした。


いつも通りの緊張感のない6人だったが、平和なやりとりはここで終わりとなった。



「こいつは何てモンスターなんだ?」


怒り気味に助態が聞く。八つ当たりにも見える。


「フレイムコブラってゆー毒を持った危険度Aのヤバいモンスターだよ!」


八つ当たりされたもふともが答えながらコブラが吐き出す炎を避ける。


さっきまでの楽しかった雰囲気が一瞬で消えた。


発見したのは純純だった。


木の上にいたフレイムコブラを発見して、みんなに警告した。


間一髪でくびちと助態が避けたところだった。


「毒!?火ぃ吹いてんけど?」


もふともが避けているのを見ながら、更に助態が言う。


「知らないよ!フレイムって名前なんだから火くらい吹くだろーよ。それよりも毒がヤバいから気を付けな!」


短剣をコブラに投げつけながらもふともが言う。


「毒ってどこにあるの!?」


「知らん!」


即答だった。


おい!とツッコミたかった助態だが、それどころではない。


コブラが吐き出す炎は辺りの平原を焼き尽くしていた。


「この辺にフレイムコブラがいるなんて情報はなかったのですが…」


助態の隣の純純が怪訝な顔をする。


「でも居るぞ?」


「だからおかしいって言ってるのよ。とにかく逃げるしかないわ。」


ずいっとくびちが助態の前に出る。


「ふぉぉぉぉー!」


ぱいおが奇声でコブラの気を引く。


更にくびちが最近覚えた風魔術、そよ風で地面の草を巻き上げる。


「後は頼んだわ。」


そう言ってぱいおと共にくびちはさっさと逃げた。


「え?」


助態がそう言った時にはもう遅かった。


純純・くびち・もふとも・ルブマ・ぱいおの女性陣5人は遠くまで走って逃げている。


「俺が囮かー!」


そう叫びながら必死にカバンの中を漁る。


「シャー!」


獲物を逃がしたコブラが怒りの雄叫びをあげている。


「あった!これだ!」


助態が水色のゴムでできたようなボールを投げる。


水球と呼ばれる水風船と全く同じ性質を持ったアイテムだ。


水球がフレイムコブラに当たった瞬間に破裂し、中の水を浴びせた。


突如のことに驚くコブラ。


助態もそのすきに何とか逃げ延びた。



「死ぬかと思った。」


息を整えつつ助態が言う。


純純が助態の背中を擦りながら何度もお礼を言っていた。


「勇者様本当にありがとうございます。いつも私たちのために囮を買って出てくれて。」


「…?」


背中を擦られながら助態は純純をまじまじと見てしまった。


あれをどう見たら、自分から進んで囮になっているように見えるんだ?助態は純純の目は節穴なんじゃないか?と訝しんだ。


「で?くびちとぱいおとルブマは何やってんだ?」


助態は先に逃げていた純純たちを追っただけだ。


前回来た時は、リスの穴より先はすぐに雪に埋もれてしまって、よく分からなかったが、どうやらごつごつした岩が多い岩場のようだ。


助態、純純、もふともの先の大きな岩の向こうで、どう見てもくびち、ぱいお、ルブマがモンスターと戦っていた。


「モンスターと戦ってるんだ。」


軽い感じでもふともが言う。


「そうか。俺もそんな感じがしたんだ。…で、この目の前にいるのは?」


目の前の白色のスライムを助態は指さす。


「モンスターです。」


丁寧に純純が答える。


「あぁそうかよ!」


近くにあった大きめの岩をスライムに叩きつける。


「スライムに打撃系は効かないよ!」


もふともが制止するが遅かった。


助態が岩で押しつぶすと、白いスライムの液が辺りに飛び散り、それぞれが白いスライムとして復活した。


「スライムって無敵なの?」


驚きながら助態が聞くが、純純は首を左右に振る。


「そういうわけじゃないんですけど、魔法攻撃でないと倒せないんです。」


「他にも火で炙るとか水で流すとかあるけど、こいつは粘着スライム。ただ引っ付いて傷ついた箇所から生き物の体液を吸い尽くすヤバいやつだ。」


もふともが、自分の体に引っ付いた粘着スライムを剥がして遠くに捨てる。


「近づけなければいいってことか。酸スライムに似てるな。」


助態は木の棒で、スライムを遠くにそっと押しやる。


「大抵のスライムは近づかなければ問題ないんです。」


純純は恐る恐るスライムをつまんでは投げるを繰り返していた。


そのため、遠くで粘着スライムが増えていた。


「純純、ちょっとストップ。」


ぱし。と助態が純純の手を取って投げるのをやめさせる。


どうやら無意識だったようだ。


純純は顔を赤らめながら、ごめんなさい。とか細く言った。


どうやら手を握られているのが恥ずかしいようだ。


「やっかいなのが発情女たちが戦っているスライムさね。雷スライムって言ってさ、遠くからも攻撃できる上に好戦的。岩場を利用してなんとか攻撃を防いでるけどいつまでもつか…」


純純の手を握る助態の手を離させながら、もふともが解説する。


「更に悪いことに、粘着スライムを吸収してやがんのさあいつ。」


あいつ。と言ってくびちたちが戦っている雷スライムを睨む。


「え?ちょ、ちょっと待って。スライムって吸収もできるの?」


慌てる助態を見てもふともは目を丸くする。


「当然だろ?分裂ができるんだから合体もできる。同じスライム系統なら別種族でも吸収合体もできる。吸収合体したら当然その特性も受け継ぐ。」


「どうやらこの辺には、スライムの巣って呼ばれるモンスターの住処があるようなのです。前来た時はなかったので、新しくできたんだと思います。」


困惑している助態に純純が付け足したが、助態の思考は追いつかない。


分かっていることは、粘着スライムをこれ以上雷スライムに吸収させてはいけないということ。



くびち・ルブマ・ぱいおの3人は目の前の雷スライムに苦戦していた。


まずくびちの攻撃以外にダメージを与える方法がない点が1つ、そして雷スライムの攻撃は基本的に防御不可能な点が1つ。


「あの、私役に立ってますか?」


岩陰に潜みながらルブマがぱいおに問う。


「知らないっすよ。ウチだって攻撃を防げなきゃ存在価値ないっすよ。」


「囮よ。」


そんな2人にくびちが短く残酷な宣告をした。


「ふぇぇー。やっぱりぃー。アーチャーには囮スキルはないですよぉー?」


さっきからちょいちょい雷攻撃に狙われていたルブマは、知りたくもなかった現実を知って泣いている。


「泣くんじゃないわよ!あなたいつも物陰に潜んでいるだけだったでしょうが!」


「そうっすよ。ウチなんて毎回この豊満なボディーをモンスターに晒してるんすよ?たまにはルブマさんも体はってくださいよ。その貧相な体を!」


ぱいおがルブマの無い胸を揉む。


「なななななな!何するんですか!胸が無いのはアーチャーの宿命なんです!何度言ったら分かってくれるんですか。」


目の端の涙を指でピッと拭き取って、ルブマがキッとして言う。


やや遠くからやり取りを見ていた助態が呆れる。


『何やってんだか…』


「ルブマ、ぱいお、交代しよう。粘着スライムをこっちに近づけないようにしてくれ。くびちともふともと俺の3人で何とかこいつを倒してみる。」


「無理だと思うよ?」


そう宣言した瞬間、背後から聞き覚えのある声がする。


「ティーパンさん!」


ぱいおが尊敬の声を出すと、や。とティーパンが片手を挙げた。


見ればすでに尻尾に火が灯っている人間サイズのトカゲを召喚している。


「こいつはサラマンダー。名前くらい聞いたことあるでしょ?」


助態の視線に気がついて召喚獣を紹介した。


後ろから来たということは、粘着スライムと戦ったはずだ。


しかし粘着スライムが居たであろう場所には、戦闘の跡がない。


「あの、粘着スライムは?」


「あぁ。こいつが食ったよ。」


さも当然かのようにティーパンは答え、サラマンダーを前方の雷スライムへ向かわせた。


「え?食ったってサラマンダーって火とかを吹くんじゃないんですか?」


「吹くよ?でもトカゲだからね。お腹がすけば生き物を食べることもある。」


当たり前だろ?という顔で助態を見る。


「それよりも勇者。世界は大変なことになっている。勇者がここにいるってことはその異変を察知したんだろう?」


真面目な表情でティーパンに言われた助態は、口をあんぐりと開けたまま、呆然とたちすくむ。


ちょうどサラマンダーが、自分よりも大きい雷スライムに舌を伸ばしてぺろりと平らげたところだった。


助態の口はますますあんぐり開いた。


「やはりそうか。以前こんなところにはスライムの巣なんてなかった。モンスターの生態系が変わっている。その調査をしようとしたんだが、ちょうどいい。私もあんた達と暫く行動を共にしよう。」


助態の間抜けな顔をどう取ったのか、ティーパンはどうやら、助態たちもモンスターの生態系がおかしいことに気が付いていると思っているようだ。


「ウチらは、カローンみたいにモンスターに占拠された村があるっていう噂を聞いたんすよ。」


ぱいおが自分達の目的を話すと、驚いたことにティーパンもその噂を聞いたことあると答えた。


「それも多分、モンスターの生態系が変わったせいだろう。私はその原因を探る。まずはモンスターに占拠されたという村を探してみようか。」


「あ、はい。それで俺達、とりあえず今までの仲間を迎えに行ってるところなんです。もう少ししたら願望の宿があると思うんですよね。そこで淫魔族のアンアンをもう一度仲間にしようかと考えています。」


助態が今後取るはずだった自分達の行程を話すと、ティーパンが笑った。


「本当に勇者は面白いな。」


助態たちは困惑して顔を見合わせる。


「ごめんごめん。いやー異種族を平気で仲間にするとか言ってる君たちが不思議でねー。ほんと、面白いよあんた達。」


「そういえば、他の種族が仲間になるのは珍しいってティーパンさん言ってましたもんね?」


思い出したように純純が言う。


ティーパンはまだ笑っている。


「そりゃそうだ。他の種族にとってあんた達の仲間になるメリットがないだろ?ま、勇者とヒロインの特権だねぇ。」


一同は、サラマンダーの火で炙った兎を食べてしばらく休憩した。


これから先は、モンスターが活発化してかなり危険だとティーパンは言った。


休める時に休んでおくべきだとも。


それでも助態は、ティーパンが仲間に加わったことでとても心強く感じていた。


それこそモンスターなんて敵なしだとさえ思っていた。


しかしその考えは大いに間違っていたことに、あとから気づかされた。

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