第十二エロ ティーパンの実力
カローンの村に潜入する方法がなくなった一向は、現状をどうするかを再度考えることにした。
更に、誰も口にしないが、これであへが完全なる役立たずになってしまった。
「ちなみになんすけど、カローンにはどれだけの野菜軍団がいるんすかね?」
岩陰に隠れておしっこをしながら聞くあたり、ぱいおらしい。
「さぁ?滅ぼされた時が100体くらいって聞いたことはあるけど?」
くびちがそう答えながら、あなたもう少し恥じらいなさいよ。とぱいおを注意する。
「いやー。漏れそうだったんでしょーがないじゃないっすかぁー。」
「男もいるのよ?」
「うげっ。忘れてたっす。助態さんは性欲の塊だからウチ襲われるかもしれないっすね。」
ケラケラ笑いながらぱいおが言う。
「ぱいおはツルツルらしいから興味あるな!」
そう言って立ち上がる助態を純純が殴って制止した。
「じょ・・・冗談だろ?」
涙目で助態が純純に言うが、怒った純純は助態の手には負えなかった。
「この変態!スケベ!ケダモノ!」
がん!がん!と1言1言に力を込めて殴る。
「でも何で野菜軍団の数なんか気になるんだい?」
助態と純純、そして純純を止めようとしているルブマとそれを見て笑っているアンアンとあへを無視してもふともが聞く。
「あーいやー。あまり数が多くないなら、少しずつ数を減らせるんじゃないかなー?って思ったんすよ。」
ぱいおの言葉に全員の動きが止まる。
「…なるほど…なぜ気がつかなかったんだろう?」
ポツリと助態が言うと純純が続けた。
「確かに危険を冒して潜入するよりも、数を減らした方が安全ですよね?」
「とゆーか何で潜入に拘ってたんすかね?ウチらアホみたいじゃないっすか?」
岩陰から出ながらぱいおはあへを見た。
「わっ!私のせいですか?」
見られたあへがショックという顔付をする。
「いんや。あの頃はモンスターを倒すという選択肢が無かったからねぇ。今はみんなで力を合わせれば1匹は倒せるって程度だろう?たくさん出てきたらそもそも太刀打ちできないんじゃないのかい?」
もふともが現実を突きつける。
「そうだった…戦うって選択肢はそもそもないんだった。さっきの岩南瓜との戦いでそれは再確認したんだった。」
うっかりしてた。と助態が言う。
「勘違いさせてしまったみたいっすけど、ウチが言いたかったのはあくまでも野菜軍団の数が少ないならってことっすよ?」
「でも今現状他に打てる手がないなら、野菜軍団の数を減らすしか方法はないんじゃないかしら?」
どう思う?とくびちが助態に問う。
「確かに今打てる手は数を減らすだけ…でも野菜軍団の増えるスピードが俺らが倒すスピードよりも速かったら意味ないんじゃ?」
「それは大丈夫。」
助態の言葉に聞き覚えのない声が応える。
助態が振り返ると、まるでサンバを今から始めると言わんばかりの恰好をした、長い金髪の巨乳スレンダーお姉さんが居た。
「「あっ!」」
誰ですか?と問おうとした助態の言葉を制止したのは、純純とルブマの声だった。
「知り合いかい?」
もふともが隣にいたルブマに聞く。
「はいっ!以前に野菜軍団から助けて貰ったんです!」
「私もです!」
ルブマの返事に純純も目を輝かせて頷いた。
「あれ?前に会ったことあった?まぁいいや。私はティーパン。よろしくね!勇者!」
にこりと微笑んでティーパンが助態に歩み寄った。
●
「んー…あんたの属性は不思議だねー。」
そう言うといきなりティーパンは助態の手を取った。
「なななななな!」
顔を真っ赤にしてルブマがつっかえつっかえ言う。
「ん?あぁこれね。」
これ。と言って助態と繋いだ手を軽く上に上げる。
「大丈夫。私勇者はタイプじゃないから。私は人の属性が何となく分かるんだけど、こうすると確実に分かるのさ。で、勇者の属性は性属性だね。聖属性なら聞いたことあるけど、性ってのは聞いたことがないからねぇ。」
そう言いながらティーパンは頼んでもいないのに、メンバーの属性を教えてくれた。
純純は光属性、くびちは火、もふともは風、ルブマは土、ぱいおは水、淫魔族は闇、兎獣族は土属性だということだ。
「ま、これを知ったところであんまり関係はないんだけどね。これから強くなりたいなら、自分の属性に合った武器やスキルを身に付けるといいよ。一応属性によって優劣関係もあるけど、かなり拮抗した時じゃないと意味ないしね。」
と付け加えた。
「で、助態さんの性属性っての何なんすか?エロに特化した属性とか?」
ぱいおがジト目で助態を見る。
「さぁ。私も初めて見た属性だからさっぱりね。で、話を戻すけど。」
勝手に属性チェックした上にそれはあんまり関係ないとして、ティーパンは最初の野菜軍団に話を戻した。
「野菜軍団が増える方法は自分の種を撒いて、育つのを待つ方法。まぁ通常の野菜とあんまり変わらないわ。だから増えるのは時間もかかるし、そんなに大量の種を撒くスペースがカローンにはないから、かなり増えているとは考え辛いね。」
「つまり、時間さえかければ野菜軍団の数を減らせるってことですか?」
ルブマが目を輝かせる。希望が見えたような目だ。
「…まぁ確かに数を減らすことはできるけど、野菜軍団がカローンから出て来ないならこちらから攻撃をしかける意味はないんじゃない?」
「まぁそうなんすけど…」
最もな意見を述べるティーパンに、ぱいおがルブマのことを簡単に説明した。
「なるほどねぇ。そういうことなら私も一肌脱ごうか。」
ぱいおの説明を聞いたティーパンが片腕でもう片方の腕を取ってぐいーと伸ばすようにストレッチしなが言った。
「ふぇ?いいんですか?」
ルブマが驚く。
「聞けば私にも原因がありそうだしね。私があんたを助けた時にカローンを攻めてれば、勇者たちにも迷惑がかかんなかったっぽいっし。」
「いえいえいえ。迷惑だなんて。」
両手をぶんぶん振って純純が否定するがティーパンは引かなかった。
「まぁまぁ。これも何かの縁だし。私も勇者の手伝いが出来たってみんなに自慢できるしさ。いいでしょ?」
助態に向かって小首を傾げる。
綺麗なお姉さんが一瞬にして無邪気な女の子に変身したかのようだった。
ドキンと助態の心臓が跳ねた。
「ま…まぁ。戦力が増えるのはいいことなんじゃない…ですかね?」
顔を赤くしながら助態が答える。
「んじゃ決まりー!」
ニカッと笑ってティーパンが突然呪文を唱えた。
「泉の扉は開かれた。シルフィードの羽に乗って今現れん!」
目の前に大きな蛇が現れた。しかもその体は銅で出来ていた。
「私は召喚戦士なんだ。今呼び出したのはユルルングル。」
みんなが驚いているのを見てティーパンが説明した。
「しょ…召喚戦士?」
その言葉に反応したのは、意外にもアンアンだった。
「知ってるの?」
キョトンとした顔でくびちが聞き返すと、アンアンはまさか!という顔で全員を見渡した。
「あらゆる生物と契約を交わして、それを自在に呼び出すのが召喚士よ?」
「そりゃあ。そうだろうね。」
何を当たり前のことを。という感じでもふともが言う。
助態も、全くもってその通りだと思って大きく頷いていたら、アンアンが目を見開いて声を張り上げた。
「そもそも!他の生物や種族が人間と行動を共にすること自体が珍しいの!」
「アンアンだってアタイらと行動を共にしてるじゃないか。」
またまたもふともがもっともなことを言い、助態は大きく頷いた。
「それは!勇者様が一緒だからよ!それに勇者様が一緒だって行動を共にする私たちは珍しい部類なの!でもね!」
さっきより声を大きく張り上げてアンアンが言う。
「召喚士は契約を交わすの!まず、人間と契約をする他の生物や種族も珍しいわ。余程ティーパンさんの実力がないと認めてもらえないから。」
そう言ってティーパンを見る。
「やだねぇ。褒めても何も出ないよ?」
ティーパンは、何でもないかのようにケタケタと笑う。
「何で契約しないんすか?」
「それはね。一度契約を結んでしまうと、呼び出しには絶対に従わなければいけないからよ。気が乗らないからとか、危険な場所だからとかで拒否できないの。」
やっと真面目に聞いてくれる人が居てほっとしたように、アンアンは聞いてきたぱいおにだけ説明するように話し続ける。
「契約者の命令は絶対よ。死ねと言われたら死ななければならないの。」
「えぇ。マジっすか。」
ぱいおが物凄く嫌な顔をする。
「契約する人の器が大きくないとそもそも契約してくれる生物がいない。契約してくれる生物を探すのも大変だし、召喚士はかなり珍しい職業と言えるわね。それに召喚戦士ってことは戦士としても戦えるってことでしょ?」
そう言ってティーパンを見る。
「そうね。まぁ私の場合は戦士は副業みたいなもんで、本業は召喚士よ。」
そう言うと更にティーパンは呪文を唱え始めた。
「サラマンダーの息吹。ノームの地響き。合わさり鬼の形相にならん。」
くりぬいたカボチャの中に火がともったものが現れた。
「野菜軍団は基本火と水に弱いからね。ジャックランタンとユルルングルで攻めましょ。慌てて逃げてきたものを私たちで討ちましょう。」
よろしくね。とティーパンが言うとユルルングルとジャックランタンは、カローンの村へ向かった。
「生物を2体も召喚…それなのにまだ魔力に余裕がありそうなんて…化け物だわ…」
アンアンだけがティーパンの実力を正確に理解していた。
●
ティーパンによって召喚された、ジャックランタンとユルルングルは命令されたままカローンの村へ向かった。
ジャックランタンは燃え盛る炎を、ユルルングルは濁流を使って野菜軍団を追い詰める。
案の定、村からは逃げ出してくる野菜軍団が何体もいたが、そのほとんどがティーパンによって倒された。
「ほとんど一刀…」
ティーパンが手に持つ大刀を見ながらアンアンが絶句する。
あれだけ倒すのに苦戦した岩南瓜でさえ、ティーパンにかかれば一撃だった。
「す…凄いです!」
ティーパンの実力に惚れ惚れしているのはアンアンだけではない。
隣でその実力をまじまじと見せつけられたルブマが思わず叫んでいた。
「全然凄くないっての。私レベルなんてたくさんいるよ?野菜軍団は危険度Cなんだから。あれくらい簡単に倒せないと!」
そう言ってやって来るダンスパプリカをまた一刀両断した。
「それに、私から見たらあんた達の方がよっぽど凄いわよ?契約もなしに他種族を仲間にしてるんだから!さすがは勇者ってところね。」
にぃっと笑って目の前の2匹の女体人参を倒す。
「ア…アタイらって必要ないんじゃない?」
もふとももティーパンの実力を認める。
「訓練だと思いましょ?あそこに玉ねぎ爆弾がいるから、全員で倒してきて。」
ティーパンに指示されて、全員で野菜軍団内最強攻撃力を持つ玉ねぎ爆弾に向かって行った。
玉ねぎ爆弾はその名の通り、玉ねぎ頭のモンスターだ。
頭部の玉ねぎは爆発するが、すぐに再生する。
「つまり、何度でも爆発攻撃が可能ってことよ。注意してね。」
くびちが盾役のぱいおに注意する。
「爆発はさすがにウチの我慢でも耐えらんないと思うんすけど…」
不安そうにぱいおが言う。
「そうね。だから我慢は使わずに避けてちょうだい。」
「えぇ!そんな簡単に言われてもウチ運動とか苦手なんで攻撃を避けるとかはちょっと…」
「大丈夫ですぱいおさん!」
戸惑うぱいおの手を純純が握る。
「ティーパンさんが言うには、玉ねぎ爆弾は攻撃力はあるけど動きは遅いって言ってました。」
「純純さんまでぇー…人ごとだと思ってぇー。」
渋々ぱいおが岩陰から玉ねぎ爆弾に向かって行く。
「じゃあ私も向かいます。」
あへが自分の気配を消す。
「はぁー。ほんとに意識しないとあへがどこにいるか分かんなくなるねー。」
もふともが感心する。
そのままあへはぱいおの脇を通り過ぎ、玉ねぎ爆弾の背後を取る。
「私がルブマさんの弓矢を大きくして、みんなで矢を放つと…」
アンアンがそう言ってルブマの弓矢を大きくした。
「くびちが考えた作戦、なかなかだよな。」
助態がにこっと笑うと、くびちは照れた。
「わ、私もティーパンに負けてらんないと思っただけよ。」
オホホと笑ってごまかすあたり、くびちらしい。
くびちの作戦は単純だった。
ぱいおを囮にして玉ねぎ爆弾の注意を引く。
ぱいおとは角度は違うが同じ方向に巨大弓矢がある。
前方に玉ねぎ爆弾が気を取られていスキを突いて、背後からあへが攻撃を繰り出すというものだ。
「兎獣族は本来、攻撃力が低いけど、玉ねぎ爆弾も防御力が低いなら十分倒せると思うわ。」
そう言いながらも、倒せなかった時のために念のための準備をする。
しかしあへが背後から玉ねぎ爆弾を攻撃するとあっけなく倒せた。
「…野菜軍団ってもしかして、集団だと厄介だけど、1匹1匹を丁寧に攻略すると大したことないのかも…」
助態がティーパンを見ながら言う。
「なるほど…あぁ見えてティーパンさんも1匹1匹を丁寧に攻略してるってことですね。」
ポン。と手と手を合わせてルブマが言う。
「確かに玉ねぎ爆弾の攻撃は脅威だけど、動きが遅くて防御力も低いとなると、あれ1匹じゃ全然脅威じゃないよなー。」
頭の後ろで手を組みながらもふともも同意する。
「それなら今度は、もう少し少人数で野菜軍団を倒してみたらー?」
1人で大人数を相手にしているティーパンに言われ、戦いの練習だと思い助態達は野菜軍団を少しずつ倒していった。
●
「結局…ほとんどティーパンさんが倒しちゃったな…」
カローンの村を占拠していた野菜軍団を全滅させた後、助態が隣の純純に力なく微笑む。
「そうですね。あんなに強かったら、みんなのこと守れていいんでしょうね。」
ぽーとしながら純純はティーパンを見ていた。
「すげーっすティーパンさん!ウチも召喚魔法覚えたくなってきたっす!」
ぱいおが興奮して話す。
「魔法はそう簡単に覚えられるものじゃないわ。可能性があるとしたら勇者かヒロインの純純、それと魔法が使えるくびちくらいだね。」
ぽんとぱいおの頭に手を置いて軽くティーパンが撫でる。
「おぉぉー!これがもふともさんが感じていた百合属性!ウチ今何だかティーパンさんにときめいたっす!」
「大胆な告白ありがとう。」
ティーパンがいたずらっぽい笑みを浮かべる横で、もふともがぱいおに、
「アンタにアタイの何が分かるって言うのさ!」
と言っていた。
そんな2人を見てくびちがクスクス笑っている。
やや遠くから助態と純純は更にそんな4人を眺めていた。
カローンの村はある意味で無事だった。
村人は全員無事で、野菜軍団の種を撒いたり種を植える場所を作らされていた。
「暫くは復旧作業に時間がかかるんだろうけど、時間があるならいつか世界を見て回ってみな!色んな実力の人がいて楽しいぞ!」
そう言って何事もなかったかのようにティーパンは去っていった。
「どこに行くんだろうな?」
助態の呟きは、誰の耳にも届かなかった。
遠くに見える夕陽と遠ざかるティーパンの影を助態はずっと見つめていた。
激動の時間だったような、一瞬だったような。
助態にはどちらか分からなかったが、ひとまずはこれで旅は終わった。
嬉しいような寂しいような気持ちは、村を吹き抜ける風が一緒に連れ去ってしまった。
横一列に並んだ仲間たちを見ると、助態は何だか変な気持ちになった。
生きていた頃には絶対に出会わなかった人物、種族、世界。
そして体験――
湧き上がってきた感情に急に助態は恥ずかしくなる。
「さぁ!村の復興だ!忙しくなるぞ!」
そう言って助態は心の中だけで、仲間たちに感謝した。
ありがとう――
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