第十一エロ それぞれの別れ

食堂のおばちゃんの話を聞いた一向は、それぞれの想いを胸に村で一休みする。


ぷーれいは他の町の存在を役場に知らせ、他の町との連携がいかに大切かを説いていた。


くびちとぱいおとハクダクはお風呂で、さっきのおばちゃんの話を繰り返し話していた。


「あーゆーのは失恋に入るんすかねー?」


「失恋とは違うんじゃないかしら?おばちゃんも幸せな想い出って言ってたし。」


「私達栗鼠族にはなじみのない感情かもしれませんね。恋愛とかは人間特有かもしれません。」


ハクダクが言うと、ぱいおは目を丸くした。


「そうなんすか?じゃあ好きな人と家庭を持つとかじゃないんすか?」


「んー。好きって感情がよく分からないですね。オスは色んなメスと関係を持って、メスはオスの子供を産む。子供が出来たらそれぞれのコミュニティを勝手に作るって感じです。」


「じゃああの一家っていうのは家族とかじゃないの?」


驚いてくびちが訊くと、反対にハクダクも驚いた。


「むしろその家族っていうのが私達には分かりません。」


3人揃って、変なのー。と言って湯船に肩まで浸かった。


ぶららとアンアンとあへはぶらぶらと街を散策していた。


「何もない町ね。」


とアンアン。


「小さい村だからね。ボクもここまで規模の小さい村は初めてだよ。」


なぜかぶららは無い胸を張っている。


「こんな遠くまで来ただけで私はワクワクしています。」


あへがピトっとぶららにひっつく。


「ボクに百合属性はないってばー。」


そう言ってあへを離すと、あへは今度はアンアンにくっついた。


アンアンは歩きにくいわよ。と言いながらも突き放すことはしなかった。


もふともと純純も町を散策していた。


「久しぶりのデートだねぇ。」


もふともが純純の腕を取って勝手に組む。


「デ、デートなんでしょうか?」


純純が苦笑いすると、もふともはデートだよ!と言った。


2人の前に助態とルブマが居た。


助態とルブマは買い物をしていた。


「ラーガまで近いならそんなに食糧はいらないんじゃないか?」


「そうですか?念のために多めに持っておいてもいいんじゃないですか?」


「荷物が多くなると歩きにくくなるだろ?」


「私は鍛えていますから!」


ふんっ。と無い筋肉をルブマが見せた。


それを見て助態が、全然ないじゃん!と笑いながらルブマの腕の筋肉をプニプニ触った。


「楽しそうだねぇー。」


その様子を見ながら、はぁとため息混じりにもふともが言う。


「もふともさんは…」


隣の純純が言うと、もふともは、あん?と返事をした。


「勇者様のことが、その…」


「あぁ。そうさねぇ。最初の頃とは印象が変わったかな。好きかどうかは正直分かんないけどまぁ、気になるっちゃ気になるよね。」


組んでない方の手をひらひらさせながらもふともが答えた。


ちょうど助態とルブマの元にぷーれいがやって来たところだった。


「助態さーん!」


思いっきり助態に抱きつく。


「なななな何やってるんですか!」


隣のルブマが怒るがぷーれいは相変わらず動じない。


「会いたかったです!」


そう言ってぷーれいは助態にキスした。


「なーにが会いたかっただよ。さっきまで一緒にいたでしょうが。」


ズビシッと、もふともが後ろからぷーれいの頭にチョップした。


「やりたいことは終わったのかい?」


はい!とぷーれいが元気に応え、一向はラーガの村に向かうことにした。



助態たち一向は、ラーガの村についてぷーれいと別れ、湖の畔のいつもの休憩ポイントに居た。


「毎度毎度あの娘は何で助態にキスするのかしら?」


くびちがむすっとして言う。


「好きだからじゃないんすか?」


キョトンとぱいおが言う。


「そうだけど、あの娘だけの助態じゃないのよ?」


そう言ってくびちが助態にキスしようとすると、ルブマに止められた。


「ダメです!」


「あらぁ?貧乳のくせに私に逆らうのかしら?」


「ひっ!胸は関係ないじゃないですか!この胸はアーチャーの宿命なんです!」


そう言いながら自分の胸をさっと片腕で隠している。


それを見てニヤリとくびちが勝ち誇ったような顔をした。


「ねぇ?助態ぃー。巨乳と貧乳、どっちが好み?」


自分の胸をことさら強調しながらくびちが問う。


「当然巨乳!」


即答だった。しかしこれに横やりを入れたのがぱいおだ。


「てことは、ウチの胸が一番っすね。」


両手で胸を上下に揺らしている。


「確かにぱいおの胸は揉みしだきたくなるなぁー。でもくびちのは美乳って感じでくびちの胸も好き。」


「最低っすね。」


さっと自分の胸を隠しながらぱいおが言う。


普段は鎧に隠れている分、休憩中の鎧を脱いだ時の胸が新鮮だった。


助態の股間が膨れるが、すぐにアンアンが吸い取ってしまった。


「これからカローンに潜入しようとしているのに、随分リラックスしてますね。」


あへが苦笑いするが、これがいつもだからともふともが一蹴した。


「それに先にリスの穴へ向かうしね!」


またまたなぜか無い胸をぶららが張った。


「ぶららさんってたまに威張るけど、基本何もしていないわよね?」


とアンアンに突っ込まれて、痛いところつかないでよー。と涙目になっていた。



「誰だよこんなの提案したのは!」


助態が悪態をつく。


それもそのはず。助態は今、岩南瓜に追われている。


事の発端は、どうせカローンに潜入するなら野菜軍団の実力を見てみよう。というぶららの発言だ。


発言した本人はいつも通りそそくさと逃げて、ぱいおの後ろに隠れている。


男だからという理由だけで、助態が岩南瓜の相手をさせられている状態だった。


「仕方ないでしょ。いつもあの娘が言うことは突然よ。」


くびちが隣で助態をフォローしている。


「それにしたって俺が野菜軍団の注意を引くってなんだよ!」


「あなたが男だからよ。みんな頼りにしてるわ。」


まだむくれている助態にくびちは辛抱強くフォローする。


「助態さんガキじゃないんすから、文句ばっか言わないで欲しいっす。」


逆隣でぱいおがはっきりと言う。


言い返そうとした助態の真横を真っ赤なカボチャが通り過ぎた。


岩南瓜の攻撃だった。


硬い自分自身が敵にぶつかることでダメージを与えてくる。


しかも動きが速い。


この硬さではルブマの弓矢は通らず、ぶららの素手も無意味だった。


「こいつの硬さは助態の下半身より硬いよー。」


殴って自分の手を痛めたぶららが言った言葉だ。


「俺の下半身の硬さなめんな!」


と助態は反論していたが、攻撃のほとんどが通じないのは厄介だった。


「避けな!」


やや遠くからもふともの声が響いたと思った瞬間、軽い爆発音がしてその直後に刃物が縦横無尽に飛び交った。


刃玉と呼ばれるアイテムを使ったのだ。


様々な種類の刃物が岩南瓜に突き刺さるが致命傷には至っていないようだった。


「これでも倒せないのかい!」


表情を見なくても、もふともが悔しそうにしている姿が助態の目に浮かぶ。


「でも傷が付いているならダメージ増加が狙えるっす!」


我慢スキルを使ってぱいおが自分へのダメージを減らしつつ、岩南瓜に刺さった刃物を更に奥深くへと刺していく。


その隙に助態とくびちが岩南瓜の背後に回った。


くびちは顔変化の魔法を使って見た目を岩南瓜にする。


「おい!」


助態が岩南瓜の背後から声をかける。


岩南瓜が振り向いて目に入るのは、自分と同じ姿をしたくびちだ。


戸惑い同様する岩南瓜の隙を狙って、助態とぱいおが挟み撃ちにする。


残っていたダメージもあり、やっとのことで岩南瓜を倒した。


「1匹倒すだけでもかなり時間がかかっているわね。敵が複数になったら確実に全滅するわよ?」


戦いを見ていたアンアンが冷静に分析した。


とりあえず戦闘という選択肢はなくなった。



一向は湖を出発して数日後にリスの穴に到着した。


ここでぶららとハクダクと別れた。


助態・純純・くびち・もふとも・ルブマ・ぱいお・アンアン・あへの6人と2種族はリスの穴を引き返してカローンの村へ向かった。


「さすがに危険度Cの野菜軍団は強いっすね。」


岩南瓜との戦いを思い返してぱいおが言う。


「私が知ってる情報だけど、岩南瓜は防御特化型、玉ねぎ爆弾が攻撃特化型だったはずよ。」


とくびち。


つまり、体当たりで大木に大穴を開けていた岩南瓜の攻撃は、あのレベルで低めということだ。


「そりゃ知りたくない事実だったねぇ。」


もふともが皮肉る。


「私の気配を消す力でしっかりと隠せればいいのですが。」


助態の腕の中で、モフモフの尻尾をナデナデされながらあへが言う。


「その力ってどのくらい効果があるの?」


ふと気になって助態が聞くと、尻尾をピクピクさせながらあへが答えた。


「私たち同じ種族以外に使ったことないので分かりませんけど、たぶん人間にも効くはずです。ただ、アンアンさんには効かない可能性があります。淫魔族は魔法耐性が高いので。」


「そんなのぶっつけ本番でヤっていいんすか?っつーか助態さんなんか触り方エロいっすよ。」


ぱいおがあへの尻尾を触る助態の手を指さしながら言う。


「すっげーモフモフなんだぜ?」


「マジっすか?」


そっとぱいがあへの尻尾に触れる。


「うっわー。本当っすね!これはくせになりそうっす。病みつきになっちゃうっす。」


涎を垂らしながらぱいおが言う。


「それで?私に効かない場合どうやって潜入するのかしら?」


やや苛立ち気味にアンアンがみんなに声をかける。


ちょうどアンアン以外の全員があへの尻尾に夢中だった。


全員のあへの尻尾を触る手が止まった。


誰も言葉を発しない。


それもそのはず。


そもそも兎獣族の気配を消す力すら試していない。


アンアンには効果がないかもしれないというのも、今知ったばかり。


対処法もどうやって潜入するのかも誰も考えているはずがなかった。


「いつも緊張感がないのは大目に見るけど、さすがに行き当たりばったり過ぎるんじゃないかしら?」


それから暫くの間、一向はアンアンにクドクドと説教をされた。


ぱいおが助態に、アンアンさんってお母さんみたいっすね。と言って助態は苦笑いで返した。



湖のいつもの休憩場所で、とりあえずアンアンに気配を消す力をかけてみたが、ものの見事に効かなかった。


「まぁ。私たち淫魔族はかなり強い種族だからね。」


「エロさもスパイシーSですもんね。」


自慢げに言うアンアンにあへが突っ込む。


「エロさは今関係ないでしょ?」


「スパイシーSって?」


助態が聞きなれない言葉に聞き返した。


「勇者様は知らないんでしたね。モンスターの危険度にはSの上にスパイシーSという最上級の危険度があるんです。」


純純が丁寧に説明してくれた。


『あぁ。SSみたいなもんか。』


「それよりもアンアンに効かないとなると困るわね。アンアンだけ待機させる?」


くびちの提案をアンアンが全力で拒否した。


「絶対に嫌よ!私は勇者様と一緒に居るって決めたんだから!」


「でも気配が消せないのはキツいっすよー。野菜軍団も大人数ですし。」


ぱいおがなだめるも、アンアンは一歩も譲らなかった。


「でも確かにアンアンさん1人だけ残すのは、なんだかのけ者みたいで私もいい気がしません。」


とルブマがアンアンを庇った。


「そりゃーウチだってのけ者にはしたくないっすよー。でも現状他に方法がないっすよ?」


「あの、そもそも私たちにその力がかかるのかもまだ分かってませんよね?」


ルブマとぱいおの言葉を聞いていた純純がもっともなことを言う。


全員が一斉に純純を見た。


「あの…?私、変なこと言いました?」


「その通りだよ純純!アンタは何て天才何だろうね!」


もふともが純純の両手を取ってキスを迫る。


「やめてくださいもふともさん。」


「あへ。俺にその気配を消す魔法をかけてみてくれないか?」


純純ともふともを無視して助態があへに言う。


残念ながら人間にもこの魔法の効果がないことが判明した。


「詰んだ。」


両手両足を地面に付けてまるで土下座手前のような恰好をして、助態が絶句した。


現状、カローンの村に潜入する方法がなくなってしまった。


助態は、戸惑うルブマの方を見てそれから途方に暮れた。


助態の気持ちとは真逆の、爽やかな風が湖から拭いて、カローンの村の方へ抜けて行った。

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