変わり果てた鶏
ゆりえる
気付くと鶏に、そして、ある日……
他の家の人々と比べた事が無いから、断定は出来ないが……
家族の中で自分は、ペットに対し、かなり愛情を注ぐタイプなのだと思う。
随分昔、その頃はまだ青函トンネルという存在も無く、北海道と青森を行き来する交通機関は連絡船のみだった。
ある日、その青函連絡船に乗って津軽海峡を越え、秋田の従姉の家へ、物心がついてから初めて遊びに行った。
従姉の家には、外にケージが有った。
そこには、見た事も無い、不気味にも見えない事も無いような、謎の鳥が飼われていた。
黑い毛がモサモサして、腰近くの高さまで有り、ブヨブヨの表皮、特に顎の赤い部分はとても異形に思えた。
暫しの間、私が驚いて見入っていると、祖母がその鳥の名は、『七面鳥』だと教えてくれた。
あまり好みの外見ではなかったものの、それでも見慣れて来ると、妙に愛嬌を覚えるようになり、外出時と帰宅時に見かける度に話しかけていた。
ところが、自分が北海道に戻る前日、いつものケージの中に七面鳥の姿は無かった。
どこかに逃げたのかも知れないと思い、あちこち探し回ったが、どこからも現われる事は無かった。
その夜、最後の夕食という事で、私の大好きな特製のきりたんぽ鍋を作ってくれた祖母。
その辺りで、きりたんぽ鍋には、比内地鶏などを使う事が多いようだが、その日は違っていた。
なんと、きりたんぽ鍋には、あの七面鳥が使われていた!!
いつしか友達のような気持ちになっていたあの七面鳥が、見る影も無く、きりたんぽ鍋に入っていると知り、哀し過ぎて、一気に食欲も失せた。
それでも、私の為にと思い、たった一羽しかいなかった七面鳥で、特製のきりたんぽ鍋を作ってくれた祖母の気持ちには応えてあげたくて、少しだけ口に含んでみた。
いつもの鳥肉のきりたんぽとは風味が違ったが、美味しかったのだけが、まだ救いだった。
「これも食べてみ」
出されたのは、マグロのトロを淡くしたような色合いだが、口に含むと、思いの外、淡白な味わいの刺身だった。
それは、刺身にしては生臭みが無く、醤油だけで美味しく食べられていると
「それは、七面鳥だ」
と祖母に言われ、もう泣きたくなった!
そんな風に、たった数日間でも、動物に愛着の湧いてしまう自分だが、自分が育てた生き物に対しては、より愛情が強くなりやすかった。
自分の幼少期、お祭りで、色とりどりに染められたヒヨコが売られていた。
弟と一羽ずつ買ってもらう事が多かったが、ほとんどの場合、そのヒヨコ達は短命で、僅か数日だけで命を閉じてしまい、その度に自分達は大泣きしていた。
ところが、小学二年生の時に購入した二羽のヒヨコは、買った時には、濃い緑色と濃いピンク色をして、とても可愛いヒヨコだったが、少し経つと、その色をどんどん薄れさせ、二羽とも見事な鶏にまで成長した。
毎朝「コケコッコー」と、元気に目覚まし時計のように鳴いて朝を知らせ、鶏の姿になってからも、自分にとっては、とても可愛い存在達だった。
かまくらが作れそうなほど雪が積もったある日、母の友人夫婦が、久しぶりに遊びに来た。
遊びに来たと思っていたが、実は、そうではなかった。
不意に、鋭い出刃包丁を取り出し、自分と弟の目の前で、鶏を捕まえ、首を切り落とした。
食べられるくらいにきれいな真っ白だった新雪が、そこだけ、血の色に染まった。
それも衝撃的だったが、首を切られても、首から血をポタポタと白い雪の上に落としながら走り回っている首無しの鶏の姿が、小学二年生の自分と、まだ保育園児だった弟にとって残酷過ぎて、トラウマになった。
以来、お祭りでヒヨコを見ても可愛いとは思ったが、二度と購入する事は無かった。
あの二羽の鶏の肉は、我が家と友人宅で一羽ずつ食べるかと尋ねられたが、母は私と弟の気持ちを察し、丁寧に断った。
後から聞いたが、その鶏の肉は、焼き鳥にして友人夫婦二人で食べ、とても美味しかったのだとか……
それ以後、しばらくの間は、鳥肉を見るのも食べるのも無理な自分達だったが、時の浄化作用と自分達の食欲というのは強烈過ぎて、過去の痛いトラウマも真っ
ほどなくして、鳥肉も、普通に購入し、焼き鳥にしても、何事も無かったかのように食べている自分達がいたのだった。
【 完 】
変わり果てた鶏 ゆりえる @yurieru
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