外れスキル無双
「スキル発動――全力疾走!!」
俺がそう叫んだ瞬間。
周囲の風景が――変わった。
さっきまで郊外にいたはずが、一転して鬱蒼とした茂みのなかへ。
所狭しと立ち並ぶ樹木や、背の高い雑草の数々……
王都のごく近くに存在する、《レスター森林》という場所だな。魔物も出るには出るが、基本的にはのどかな場所であり、散歩や運動にうってつけの場所として知られている。
そんなレスター森林において、明らかに奇妙な光景が広がっていた。
スウォード王国の第一王女、メルティーナ・リア・スウォード。
王国でも身分の高い彼女が、黒ずくめの男に取り押さえられていたのだ。両手は力づくで後手(うしろて)に重ねられ、口もまた片手で塞がれている。
「むー!! むー!!」
メルティーナがすがるような声で、俺に助けを求めてくる。よほど怖い目にあったのか、その瞳は涙に濡れている。
「な……馬鹿な……‼」
メルティーナを取り押さえていた黒ずくめの男が、驚きの声を周囲に響かせる。
頭部も黒フードで隠されているため、その表情までは伺い知ることができない。だが相当に驚いていることは、その素っ頓狂な声から推測することができた。
「ま、まるで気配を感じなかったぞ……! 貴様、どうやってここまで来たのだ……!」
「ん……? どうやってって……」
たしかに、どうやって来たんだろうな。
スキルを発動しても、勝手に適当な場所に飛ぶわけではなく。
《全力疾走》を用いた上で、行きたい場所に向けて歩き出せば――
次の瞬間には、その場所に辿り着いているというイメージだろうか。
今回で言えば、俺はメルティーナの声がした方向へ歩き出しただけ。
つまりここまでの話を総合すれば、
「歩いて、かな」
――こういうことになる。
「な、なんだと……⁉」
俺としては素直に答えたつもりだったんだが、男にとっては不快だったのかもしれない。
「ふん……我らを煽るとは良い度胸だ。表の人間に教えてやるよ。本当の強さというものをな……!」
そこまで言うなり、男はヒューと口笛を鳴らし――
その瞬間、驚くべき現象が発生した。
「「「グルァァァァァァァァァァァァァァァア……!」」」
「なに……⁉」
なんと、突如にして三体ものオークが出現したのである。
「く……」
単体ではそこまで脅威的な魔物ではないが、三体となるとかなり厄介かもな……。俺も侯爵家の跡継ぎとして、剣の腕を磨き続けてはきたんだが。さすがにこの状況はさすがにやばいかもしれない。
真正面から正々堂々戦うのは、さすがに厳しいものがあるだろう。
「はっはー! 貴様のような青臭いガキなぞ、オーク程度で充分だ! 存分にいたぶられ、痛みのなかで死ぬがよい!」
――であれば、正々堂々戦わなければいいだけ。
(スキル発動……全力疾走)
俺はそう呟くと、まず一体目のオークに向けて歩き出す。
「ギッ……?」
そのオークがぎょっと目を見開いたときには、時すでに遅し。
横一文字に放った剣撃が、オークの胴体をぴたりと捉え。
オークの胴体が、綺麗に切り裂かれた。
「……なるほど」
真面目に剣の修行をしてきたとはいえ、俺の実力はそこまで高くない。
本来なら俺にオークを瞬殺することは不可能だが、《全力疾走》によって速度が増している状況なら話は別ということか。
スキル《全力疾走》。
父にあれだけ罵倒され続けたくらいだし、《外れスキル》だということに変わりはないだろうけど。
それでも、意外と有用性はあるのかもしれないな。
「……さて、こんなもんかな」
数秒後。
ドサリ――と。
俺が地面に着地し、そして剣を鞘に収めたときには、すべてのオークが地面に伏していた。
まさに悲鳴を上げる間もない、一方的な蹂躙。
父が求めていた《剣聖》スキルにかかれば、オークどころか、もっと強い魔物を瞬殺できるらしいけどな。《外れスキル》を授かった俺には、せいぜいオークくらいが限界だろう。
「な……ば、馬鹿な……!!」
黒ずくめの男が、明らかに悲痛な大声をあげているのが聞こえた。
敏捷度9999999999の俺にとっては、光の速度さえウスノロに見える。~貴族家を追放されたけど、外れスキルが化け物すぎたので、俺は幼馴染の王女と新生活を送ります。おや、いつのまにか実家が滅亡してる どまどま @domadoma
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