敏捷度9999999999の俺にとっては、光の速度さえウスノロに見える。~貴族家を追放されたけど、外れスキルが化け物すぎたので、俺は幼馴染の王女と新生活を送ります。おや、いつのまにか実家が滅亡してる
どまどま
外れスキル所持者、侯爵家を追放される
「ルシオ。貴様を我がアルボレオ家から追放する‼」
突然投げかけられた言葉に、俺は理解が追い付かなかった。
「……え?」
「言ったろう。貴様のような無能は我が名家には不要。《外れスキル所持者》は《外れスキル所持者》らしく、豚の餌でも食ってるがいい」
「え……? え!? 待ってください、父上、父上っ!」
俺の必死の問いかけにも、父は聞く耳を持たない。
極めて鬱陶しそうな表情で、跪く俺を見下ろすばかりだ。
――外れスキル所持者。
18歳の誕生日に訪れる《スキル開花日》において、無能なスキルを授かった者に対する蔑称だ。
賢者スキルを授かった者は、魔法使いとしての道を志し。
剣聖スキルを授かった者は、剣士としての道を志す。
努力の有無にかかわらず、当人に決定的な才能を与える一日。それが《スキル開花日》である。
それだけに、この《スキル開花日》は運命の分かれ道とさえ呼べるもの。
この日に有用なスキルを授かれば将来は安泰だし、逆に無能スキルを授かってしまえば……たとえ貴族の息子といえども、その立場は一気に危うくなる。
特にスキルの有用性は、血筋によって決定づけられやすいものだ。
高貴な血を継ぐ貴族は、それだけで有用なスキルを授かりやすい。逆を言えば、貴族にもかかわらず無能スキルを授かってしまえば――その信用は地に堕ちるわけだ。
そして、俺がまさにその窮地に陥っていた。
スウォード王国における大物貴族――アルボレオ家。
先祖を遡れば王族にも辿りつく、由緒ある家柄で……俺という《外れスキル所持者》が発生してしまったわけだ。
そこで俺が授かったスキルは、《全力疾走》。
字面だけで見れば「全力で走れる」だけという、まったく使い道のわからないスキルであった。
そのスキル開花日から、一週間。
俺は肩身の狭い日々を過ごしていたが……父に呼び止められたと思ったら、まさかの追放宣告だった。
「う、嘘……ですよね? 父上。俺たちは家族なのに……こんなに簡単に追放だなんて」
思いがけず、声に涙がまじってしまう。
大好きな父だった。
俺が魔物に殺されかけそうになったときも、危険を顧みず助けにきてくれた。
自慢の父だった。
父のようになりたいと思っていた。
「ふん。貴様ごときを時間をかけて育ててしまっていたとは……。末代までの恥だな」
しかし父から発せられた言葉は、俺のまったく予想だにしない言葉だった。
「貴様は……わかっているのか。息子が《外れスキル所持者》だったときの衝撃を。私がどれだけ恥をかいたか……どれだけ馬鹿にされてきたか……おまえにはわかるまいッッッ!!」
パリィィィィィィン! と。
空いたグラスを間近に叩き落とされ、俺は思わず肩を竦めてしまった。
「うううっ!!」
「嘘ですよね、だと……? そう聞き返したいのは私のほうだ、このゴミクズが!!」
――駄目だ。
父は完全に理性を失っている。
俺の好きだった父は……もう、ここにはいないのだ。
「ふん。だがまあ……私も鬼ではない。このまま丸腰で追い出すのも世間体に悪影響を及ぼすからな……おい」
「かしこまりました」
父が顎をくいっと突き出すと、傍にいた女召使いが頭を下げて姿を消す。
そして戻ってきたときには、大きな布袋をその両手に抱えていた。
「うむ。ご苦労」
父はその布袋を受け取ると、小さく振ってみせた。
ジャラ……という金属音が聞こえたのをみると、どうやら金が入っているらしいな。
丸腰で追い出すのではなく、さすがに金を渡そうとしているのか……?
「ヒャァァァァァァァァァァァァァァァァアアアア!!」
次の瞬間、俺はありえない光景を目の当たりにした。
いつもは厳粛なはずの父が、聞くに堪えない奇声をあげ、なんと布袋を床にぶち落とすではないか。
ジャラララララララララ……と。
大量の準銅貨が、床一面に転がっていく。
「…………」
女召使いもさすがに驚いたのか、目を見開いたまま立ち尽くしている。
「金が欲しかったら! せいぜいこれを全部拾ってみるんだなぁぁぁぁぁぁぁ! 準銅貨じゃ、いくらかきあつめたって宿代で精一杯だろうがなぁぁぁぁぁぁぁああ!!!」
――ああ。
俺の好きだった父は。
俺がずっと尊敬し続けてきた父は……もう、ここにいない。
「父上……いままで、ありがとうございました」
俺は最後にそれだけを呟くと、ひとり、アルボレオ家を後にするのだった。
★
「暗いな……」
王都スウォードは、静かな宵闇に包まれていた。
まあ……もう深夜だからな。
逆をいえば、この時間にひとりで出て行っても……誰かに気づかれる可能性は低い。きっと父はそれも見越して、この時間に俺をアルボレオ家から追い出したんだろう。
「さて……。これから、どうするか……」
結局、準銅貨は一枚も拾わなかった。
もう貴族ではないとはいえ……俺にもわずかなプライドは残っている。あの場で惨めに準銅貨を拾うなんて、死んでも御免だ。
しかし。
「くっしゅん!!」
俺は思わず盛大なくしゃみをかましてしまう。
「寒いな……。どうにかして暖を取れないもんか……」
そう。
いまの季節は冬。
その深夜に追い出されてしまったわけだから、寒いことこの上ない。
だが当然、俺には便利な持ち物などあるはずもなく――
持っているのはただ、「全力疾走」というゴミみたいなスキルだけだ。
「こんなの使ったって、なんの意味もな――」
そう呟きながら、なんとなしにスキルを発動したときだった。
ドォォォォォォォォォオ! と。
俺の足が勝手に動き、そして止まったときには――なんと帝都の南門に立っていた。
「え……!? は!?」
いやいやいや。
おかしいおかしいおかしい。
どうなってんだ。
アルボレオ家は帝都の中心地にあるから、外周部まではかなりの距離がある。最近発明された魔導車でさえ、実家から南門までは数時間はかかるはずだ。
その距離を……俺はこの「全力疾走」で一瞬で走ってみせた……?
「ど、どうなってんだ……!?」
こんなこと、最新の魔法技術をもってしても不可能。
できるとすれば、ごく一部の凄腕魔術師のみが使える《空間転移》くらいだが……そんな荒業を、俺はこの一瞬でやってみせたのだ。
「うん。疲れてるんだ……。そうに違いない……」
俺は自分に言い聞かせるようにそう呟いた。
家を追い出されたせいで、きっとパニックを起こしてるんだろう。
こういうときは休むに限る。動き続けていてはいけない。
そんな思索を巡らせながら、帝都に身を翻そうとした、その瞬間。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁあああああ!!」
ふいに聞こえたその悲鳴に、俺は身を竦ませた。
この声。まさか……!
かつて王城で遊んだ幼馴染のことが脳裏に蘇る。常識的に考えて、深夜に郊外にいることはありえないはずだが――
いまの悲鳴を聞きつけるに、いちいち考えている猶予はなさそうだ。
「メルティーナ王女!! どこに!!」
「…………この声、ルシオ? ルシオなの!?」
俺が大声を響きわたらせると、懐かしい声が返ってきた。
「ここよ! 森のほう……!! た、助け……むがっ」
言葉の最後で言葉が途切れたのは……何者かに口を塞がれたということか。
やはり――ここは四の五の言っていられる場合ではない。
たしかメルティーナ王女の声が聞こえた方角は――
「スキル発動――全力疾走!!」
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