吾輩は焼き鳥である

天田れおぽん@初書籍発売中

第1話

 吾輩は焼き鳥である。名前など無い。


 焼き鳥といっても、最初から焼き鳥だったわけではない。数日前までは走り回ったり、追いかけたり、突いたりしていたのである。人生とは残酷だ。


 活発に動き回っていたゆえか、たまたま止まってしまったせいか、吾輩、なんとトラックに轢かれてしまった。


 運ワルゥー。


 飛行機のタービンに突っ込んだとか、猟師に撃たれちゃったとか、ガラスに気付かずぶつかったとか、死に方には色々あるわけですよ。


 何でよりによって、トラック?

 鳥なのに交通事故? 


 こう、もっとカッコよく死ねなかったもんかね。

 猛獣に喰われるとか、仲間を庇って死ぬとか、色々あるジャン?

 まぁ、なんというか、カッコワルゥ~な死に方をしたわけですよ。


 そのせいなのか、なんなのか。

 吾輩は中世ヨーロッパのような世界に転生してしまったのである。


「まぁ、焼き鳥よ」

「美味しそうね」

「……」

 吾輩を見て若い娘たちがキャーキャー言ってらっしゃる。


 正直言って、ココでの生活は不満だらけなのであった。吾輩、現代日本で生まれ育ち、エサにも住み家にも不自由せずに暮らしてきたのだ。


 焼き鳥になってまで、生き長らえたくはない。


「おじさーん。この焼き鳥、いただくわ」

「まいどありー」


 しかも調理担当、オッサンだぞ? むさくるしいったらありゃしない。吾輩は繊細な鳥なのだ。こんな乱雑に捌かれて、タレに漬けられ焼き焼きされるなんて。吾輩に対する冒とくだ。


 だから、逃げてやるっ。


「あっ、コリャいかん」

「キャー」

「焼き鳥が逃げたわー」

 オッサンの手が戸惑うように空を切り、吾輩を喰う気満々だった若い娘たちは悲鳴を上げた。


 ケッ、喰われてたまるかよ。


 吾輩は心のなかで悪態をつきながら、串を足代わりにすたこらサッサと森のなかに逃げこんだ。


 自由だー!


 吾輩は歓喜の声を上げた。


 この森の中でモンスターに喰われ、喉を串刺しにして仕留めたことで吾輩は英雄になるのだが、それはまた別の話なのである。

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