飲酒勇者、焼き鳥を作る。

金澤流都

命をバラして焼いて食う

 飲酒勇者竜太郎一行は、とある問題に直面していた。兵糧、つまり酒の肴の不足である。飲酒勇者を名乗るだけあって、旅の途中でも夜になれば焚き火を囲んで一杯やる。酒については土地土地でその土地ゆかりの酒を買って飲むが、しかし安定的においしい肴を食べるのは、なんだかんだ言ってけっこう難しいことだった。

 村人が気前よく、魚や家畜の肉や野菜をご馳走してくれる土地は限られている。いま竜太郎たちは、トレントが農民を苦しめる土地にいて、トレントを倒し村人たちを救ったばかりだった。もちろん村に、竜太郎たちに振る舞う宴会の肴なんていうものはない。竜太郎たちは、村人たちがトレントの慈悲で与えてくれた木の実で醸した酒を手に、なにも肴のない状態に陥っていた。

 そして問題はもう一つあった。卵から孵ったときに竜太郎の顔を見てしまい、一緒に冒険についてきているモンスター、暴れニワトリがどんどんでっかくなり、毎朝ものすごい声で鳴くのである。女神からどんなに飲んでも二日酔いにならないスキルを与えられている竜太郎はともかく、それ以外の面々は、二日酔いの朝に、暴れニワトリのアホみたいにでかい声に苦しめられていたのである。

 飲酒勇者一行の紅一点、盗賊の娘シーリャが、眉間に皺をよせて、暴れニワトリを見る。さっきからずっと暴れニワトリが騒いでいる。暴れニワトリは雄鶏なので、卵を産んでくれるわけではない。シーリャは二日酔いでずきずき痛む頭を抑えて立ち上がると、一発暴れニワトリを蹴飛ばした、が、暴れニワトリはばさばさと羽ばたいて人を馬鹿にした顔をしている。

 ほかの飲酒勇者パーティの仲間たちも迎え酒のあと、もう暴れニワトリを連れていくのは限界だ、という結論に至った。飲酒勇者こと竜太郎は、その日の夜、パーティのリーダーとして、暴れニワトリを肉にする決断を下した。


 夜、焚き火を囲んで竜太郎は宣言した。

「これ以上の兵糧の不足はまずい。ニワトリだったら若いころにさばいたことがある」

 竜太郎はそう言うと、暴れニワトリの首をがっと掴んだ。暴れニワトリは名前通り、ばたばたとひどく暴れている。

「え、ちょ、竜太郎。ホントに肉にしちゃうの」

 二日酔いもすっかりおさまったシーリャが戸惑いの声を上げる。そりゃ二日酔いの朝に暴れニワトリが大声で叫ぶせいで頭が痛いのは確かだ。だが、なんだかんだ、「愛着」みたいなものが湧いてしまっていた。

「だってこいつを肉にしないと、きょうの肴がないぞ。逆にこれだけの大きさだ、肉にすれば当分肴には困らない」

 竜太郎は躊躇せず、暴れニワトリの太い首をばきっと折る。暴れニワトリはがっくりと動かなくなった。本当に一瞬で、暴れニワトリは虹の橋を渡っていってしまったのである。

 シーリャだってニワトリを肉にするのを見たことがないわけじゃないし、ここまでのグロテスクなモンスターとの戦いを思うとぜんぜん怖いことはない。でも、一緒に旅をしてきた暴れニワトリが、肉になってしまうのはショックなことであった。

 竜太郎は慣れた手つきで暴れニワトリの羽をむしり、モツは冷凍魔法であとで食べられるようにし、肉もモモだムネだ手羽先だと分解していく。

「よし。きょうの肴は焼き鳥にしよう。塩がいいんだよ。タレだと甘すぎるしこの世界じゃ手に入らない」

 竜太郎はそう言い、暴れニワトリの肉を手際よく近くの木からとった枝に刺していく。それを火にかけると、香ばしい香りが漂ってくる。

「……暴れニワトリ、結局焼き鳥にしちゃったね」

 シーリャはそう呟いた。手には焼き鳥の串が握られていた。

「そうだな。でも家畜は食うためにいる。暴れニワトリも酒の肴になれて幸せだろうよ」

 竜太郎は清々しく笑った。間違ったことはしていない、と信じているのがわかる顔だった。

「うん。……かったぁ。歯ごたえ半端ないよこれ!」

 シーリャは悲鳴をあげた。暴れニワトリの肉は、日ごろ暴れ回っていただけあってめちゃめちゃに硬かった。

「……雄鶏は早めに肉にしたほうがよかったんだな……でも噛めば噛むほど味があるぞ。トレント酒のスモーキーな味わいにぴったりだ!」

 硬い焼き鳥を咀嚼して、竜太郎は村人に分けてもらったトレント酒を煽った。

「竜太郎さあ、本当に酒が好きだね……」

 シーリャが呆れてそう言う。竜太郎は、

「どんな食べ物でも始まりは命だからな。酒もそうだ。酵母菌が働いてくれて初めて酒になる。おいしい酒なんだから、手をかけておいしくした肉で食べればうまいに決まってる。しかし硬いなあ」と、笑顔で答えるのだった。

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飲酒勇者、焼き鳥を作る。 金澤流都 @kanezya

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