焼き鳥
赤城ハル
第1話
冷蔵庫から焼き鳥のタレを持ってダイニングに戻ってくると、彼女は串から鶏肉を外していた。
食べ方は人それぞれ。けれど本人の分だけならまだしも、俺の分を含めた全部となると俺は声を上げざるをえなかった。
「何してるの?」
「ん?
なぜか彼女は無邪気に言う。そして最後の一本の焼き鳥から鶏肉を外す。
その顔は作られたもので、顔の下からどす黒いものがあると分かる。
……こいつわざとだ。絶対分かっててやっているな。
心の中で溜息を吐く。
「は? なんで? 意味が分からないんだけど」
とりあへず俺は不機嫌にかつ苛立ち気に質問する。
「え? 串で食べる派?」
それでもにこやかに彼女は聞く。どこか小馬鹿にして言い方だ。
「初めから串に刺されていただろう? それじゃあ、串で食うって分かるだろ?」
俺は椅子に座り、タレをテーブルに置く。
「今から刺し直す?」
「いい」
そして無言の夕食が始まった。
「えー、そんなに串で食べたかったー?」
箸でつまみながら焼き鳥を食べる俺を見て彼女は面白そうに聞く。
「串で食べるのが普通だろ?」
「それじゃあ、からあげにレモンをかけるのは?」
彼女の口元だけ笑っている。
ああ、なるほど。そういうことか。
あれは一昨日のことだったかな?
俺がレモンを絞ってからあげにレモン汁をかけたのだ。それで、かけない派の彼女と揉めたのだ。
言っておくがすぐに謝ったぞ。
それなのに、彼女はずっと文句を言うので、少し論理的に言い返したら、さらに機嫌が悪くなったのだ。
でも──。
「それとこれとは違うだろ?」
「はあー! 同じだし!」
ここでようやく彼女は感情を出した。
「からあげにレモンは常識的だろ? でも焼き鳥を別けるのは常識外だろ」
「なんでそうなるの?」
「串で食べないなら、初めから串に刺さないだろ? でも、からあげにレモンが付いていることはレモンかけるのが普通だってことだろ?」
「はあー? それじゃあ、なんでレモンをかけるの? 意味あるの?」
「……マイルド」
たぶん。実際は何でレモンかけるのか知らない。
「意味分かんない!」
彼女はぷりぷりして焼き鳥を箸でつまみ、口に入れる。
「お前だって焼き鳥は串で食べるだろ?」
「別に! どっちでも!」
嘘つけよ。まったく意地になって。
「とりあへず、次からはからあげにレモンはかけないから、焼き鳥も別けない。分かった?」
「はいはい」
「絶対別けるなよ。言ったからな」
「フン!」
取り合ってくれない。
鳥だけに。
焼き鳥 赤城ハル @akagi-haru
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