焼き鳥はいつ食べても美味い

御影イズミ

タレも塩もどっちも美味しい!

 真っ暗闇の九重市を歩く長月遼と久遠響は、普段以上の疲れた顔を見せていた。

 オカルト的な事件が多いこの都市では彼らのようなオカルトマニアが遊びに行くことはよくあるが、洒落にならない事件に発展することがある。

 今日の2人はまさにそうだった。現世から幽世へと送られたときには肝が冷えたもので、一生出られないんじゃないかと危惧したほど。


 なんとか脱出に成功し、更には元凶までなんとかしたので普段以上に疲れているというところだ。口数の減った2人は家へ戻るために歩いているが、ヘトヘトな身体は塩分などの栄養分を欲している。

 ふと、真っ暗闇の中に一つの明かりが目に映る。なんてことはない、普通のコンビニエンスストア。こんな時間でも食事にありつける、ありがたい場所。遼は隣を歩いていた響に声をかけて、コンビニへ足を運ぶ。


「ひーくん……ちょっと、なんか買ってかない?」

「さんせー。おなかぺこぺこやぁ」


 2人の腹は盛大に音を立てる。出かける前にしっかり食事をとったはずなのに、事が終われば胃の中は空っぽ。故に2人はまっすぐコンビニへと入った。


 夜だと言うのにまだホットスナックも残っている。どれを買おうかと悩んだ遼はふと、焼き鳥に目をやった。

 保温器の中に入れられた焼き鳥達は購入者をまだかまだかと待つように並べられている。甘辛い味のタレで焼かれた焼き鳥も、塩で味付けされ焼かれた焼き鳥も、均一に。


「ひーくんってどっち派閥だっけ」

「俺はタレ派。りょーくんは塩派やろ?」

「うん。昔、和馬が買ってきてくれたやつが美味しかったんだよね」

「あー、カズ君買ってきたやつ。アレ美味しかったよなぁ。何処で買ったのか知らんけど」


 家で食べるためのおつまみと飲み物を購入し、焼き鳥を数本購入した遼と響。それぞれの味付けごとに袋に入れてもらい、コンビニの外に出てすぐに食べ始めた。


 温められた焼き鳥は、もも肉はふわっと、鶏皮はむちっとした食感がたまらない。甘辛いタレも、しょっぱい塩も、それぞれまた違った味付けが食感と合わさって口の中にふんわりと広がった。

 もも肉の焼き鳥は噛む度に肉汁がじゅわっとあふれ、口の中で弾む。それでいてタレも塩も程よい味付けだから、肉汁と合わさって喉を通り抜けて、鼻の中が濃厚な香りで満たされる。

 鶏皮の焼き鳥はむちむちとした食感に加え、鳥の脂がタレと塩どちらにも絡む。濃すぎない味付けのおかげで鳥の脂もスッキリと喉を通り、胃の中を満たしてゆく。


 1つ食べればまた1つ。刺さっていた肉も鶏皮もあっという間に遼と響の口の中に収められて、気づけば串だけしか残らなかった。


「はー、美味しい……。この時間に食べる焼き鳥最高」

「家帰ったらお夜食用意されてるんやろけど、こればっかりは我慢出来ひんかったからなぁ。ゆーや君には内緒にしとかな」

「だなぁ。……あ、でも夜食も焼き鳥だったらまた最高。酒飲みたい」

「あー、ほんなら今連絡入れてお夜食何にしてるか聞いてみる? そんで、お酒買ってこーや。どうせあっちでは用意されてへんやろ」

「お、賛成。じゃあ俺ちょっと優夜に連絡入れるわ」

「はいよ~」


 そうして遼は家に連絡を入れて、夜食が何かを聞いてみる。

 ……今日の夜食も、焼き鳥だったそうな。

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