焼かれた鳥の気持ち

冬城ひすい

美味しく食べてくださいね?

わたくしは何度も何度も考えます。


”なぜ鶏という種族に生まれてしまったのだろう”と。


望んで人間という種族の食べ物になりたいわけはありません。

痛いのは嫌ですし、狭苦しい鳥小屋に詰められているのもつらくて仕方がありません。


それでもわたくしは鶏。

そうあれと生まれ落ちてしまったからには誇り高く生きて見せます。


朝には人間たちの目覚ましになります。


コケーコッココ、コケ!


わたくしたちは人間に育てられやがては食べられます。

最後のその瞬間まで尊く人間の役に立つよう、尽くすのです。


朝鳴きを終える頃、ちょうどわたくしたちの飼い主様がやってきます。


「ボブ、カミラ、シュヴィ、ロッド――」


これはいつものルーティンと言うべきでしょうか。

人間にしては珍しく食用の肉塊でしかないわたくしたち一羽一羽に名前を付けてくれているのです。


ちなみにわたくしの名前はエリザベス。

飼い主様が言うには”柔らかくて、可愛らしいから”らしいです。


……照れ殺しにするつもりですか……。


朝の点呼が終わると食事の時間です。

もぐもぐもぐもぐ。


美味しくて、幸福な気持ちでいっぱいです。

そんな日々も鶏として生まれてしまったからには終わりを告げるのです。


それでも最期に一つだけお願いを。


”――どうか、わたくしたちの命を美味しく食べてくださいね”



♢♢♢



僕は養鶏場を経営している。

そこでは可愛らしい鶏をたくさん飼っている。

名付けもしてしまうほどに触れあうのが大好きだ。


本当は鶏の一羽一羽に名付けをすることはタブーなんだけどね。

だって、出荷の時に悲しくなってしまうから。

愛着が沸いてしまえば、それは養鶏する者として失格だ。


それでも一つの命として真正面から見てやりたい。


「今日もたくさんいなくなっちゃったな」


特に印象深い鶏はエリザベスだった。

普通の鶏たちとはどこか溢れ出るオーラが異なっていた。

高貴というか、まるで人のような意志を感じたのだ。


そんな彼女も今頃はどこかの誰かに美味しくいただかれていることだろう。


「おじさん、たれモモとたれ皮、つくねにレバーもお願い!」

「あいよ!」


トン、と皿に載せられた出来立ての焼き鳥が湯気を立てている。

香ばしい香りが鼻腔をくすぐる。


「はむ……むぐむぐ……美味い!」

「あんちゃん、上手そうに食うなあ。もう一本負けとくよ!」

「ありがとう、おじさん!」


今日も今日とて、どこかで美味しい焼き鳥が焼かれ続けている。

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焼かれた鳥の気持ち 冬城ひすい @tsukikage210

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