五時から半額です焼き鳥は

つばきとよたろう

第1話

「小鳥、男の先輩から呼び出しだよ。体育館の裏で待っているって。ヒューヒュー、あんたもなかなかやるね」

 大げさに茶化すクラスメートに、教室の数人が振り向いた。注目を集めた。幸い放課後の教室は、既に生徒の半数がいなくなっていた。

「男の先輩?」

 尾道小鳥にはそんな先輩、思い当たる節がなかった。小鳥のように小首を傾げる。体育館の裏へ向かう途中も色々と、相手のことを想像したが、やっぱり誰の顔も思い付かない。


 待っていたのは、背が高く色白で、どこか人の気持ちを穏やかにさせてくれる男の先輩だった。知らない人だ。小鳥に気づいた男の先輩は、恥ずかしそうに手を振った。


 小鳥の家は、母子家庭で弟がいる。だから、夕食の支度は彼女が担当することになっている。学校の帰り安売りスーパーに立ち寄って、百グラム九十八円の鳥むね肉や、一玉百円のキャベツを買い求める。セーラー服とスーパーの買い物カゴがちょっと不釣り合いだ。そんな生徒、恐らくクラスにはいない。放課後はみんな部活や塾通い、友達とカラオケに行ったりボーリングをしたりで忙しい。


 その日、思わぬ出来事で遅くなった。弟はお腹を空かせて待っているだろう。料理を作っている暇はない。


 スーパーでは五時になると容器詰めされたお惣菜が、半額に値引きされる。


 今日はこれにしよう。

 二本で百四十円の焼き鳥に半額のシールが貼られている。


 遅くなった。普通なら出来合いのお惣菜を食べさせることはしない。でも今日は特別だ。少しは嬉しかった。みんなとは違うと思っていた。人並みの高校生らしい幸せが訪れるのだと思っていた。でも、小鳥は自ら否定した。


 人に好きと言われて悪い気はしない。が、それを断ることは、別に自分が悪いことをしていなくても罪悪感にとらわれる。

「俺と付き合って欲しい」

 男の先輩は、長い世間話や言い訳を言った後、真っ直ぐに小鳥の瞳を見た。小鳥は躊躇わなかった。

「ごめんなさい。私、弟の世話しないといけないから、そんな時間ないの」


 小鳥は、スーパーで買った半額の焼き鳥を手に家へ急いだ。


なあ、東。焼き鳥好きか?

眼鏡の白髪のおじいさんは関係ないだろ

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

五時から半額です焼き鳥は つばきとよたろう @tubaki10

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ