一章④
「そうだ、華。今度の休みは予定を空けておけ」
「なんで?」
「前に言ってただろ。高級フレンチフルコース」
それを聞いた瞬間、華の表情がぱっと華やいだ。
「連れてってくれるの!?」
「ああ、約束だからな」
「やったー」
華は目を輝かせながら手を上げてくるりと回った。
高級フレンチフルコースは、雪笹に押しつけられた妖魔によって負傷した見返りにと、朔が提示してきたお
華は高級フレンチフルコースと引き換えに許してあげたのである。
「要望通りに、最高級のフルコースを予約しておいたぞ」
「
日本を牛耳る五家の一つである一ノ宮の当主が最高級というほどの料理だ。
そんじょそこらで食べられるものではないのは確かである。
喜んでいると、ジリジリと朔が寄ってきたので華はゆっくりと後ずさるが、朔は構わずに近づいてきて華を壁に追い詰める。
逃げようとするも、顔の横に両手をついて阻まれたので、壁ドン状態だ。
キスされそうなほど近くにある朔の不敵な笑みを見た華は身の危険を感じ、口元をひくつかせる。
「な、なに?」
「当日は式神達を全員留守番させとくんだぞ。あずはもだ」
「どうして?」
「せっかくのデートにお邪魔虫は必要ないからな」
「デート!?」
「騒ぐほどのことじゃないだろ。夫婦が一緒に出かけるんだから、世間一般でそれはデートだ」
間違っていないのかもしれないが、それはあくまで普通の夫婦の場合だ。
華と朔は契約により結ばれた結婚。
いつ離婚してもおかしくないのである。
されど、それを口にしたら逆上した朔になにをされるか分からないと、さすがに最近学習してきた華は口をつぐんだ。
「絶対に留守番させとくんだぞ、いいな?」
「留守番と言ったって……」
念を押された華が困った顔で朔の背後に視線を向けると、彼岸の髑髏のボスをも瞬殺したピコピコハンマーを手に、雅が朔の脳天を狙っていた。
華の命令があればすぐにでも攻撃できるように。
「雅、さすがにそれは危ないからしまいなさい」
「あら、残念です……」
雅は言葉通り残念無念という表情でピコピコハンマーを消した。
雅の武器としてネットで買い、彼女専用の
葵の持つ大剣と同じようなものだ。
葵の持つ大剣も、元はネットで買った
華が作った武器は我ながら
そんなものが無防備な朔の脳天に振り下ろされたら普通はただではすまない。
まあ、五色の漆黒の術者である朔ならば、簡単にあしらえそうではあるが。
「
天女のように
「お前の式神は本当に過保護だな」
「それを分かってて留守番させろなんてよく言うわよ」
留守番と聞いたらあずはと嵐は問題なく言うことを聞いてくれるだろうが、葵がぎゃあぎゃあとうるさくなるのはまず間違いない。
「それでも置いていけ。じゃないとフルコースはなしだ」
「そんな!?」
華は衝撃を受ける。
これは本気で対策を練らねばならないかもしれない。
うーんうーんと
「じゃあ、当日は
華の狙いを理解した朔は口角を上げる。
「そうだな。椿も
椿を苦手としている葵にはかわいそうな気がするが、フルコースには代えられないと、華は葵に
あとは雅だが……。
「雅、ちゃんとお土産買って帰るから、留守番よろしくね」
途端に不満そうな顔をする雅だが、直情的で子供っぽいところがある葵と比べると、雅は聞き分けがいいほうなので渋々だが
「主様がそうおっしゃるなら……」
「ありがと~」
華の頭の中はフルコースで占められ、「フッルコース、フッルコース♪」と歌うように口にしながらニコニコと機嫌よさそうに笑う。
そんな華に、いまだ壁ドン状態をキープしていた朔が、ちゅっと頰に口づけた。
途端に固まる華。
拒否されないのをいい方に受け取った朔が、今度は唇にキスをしようと顔を近づけると、背後からピコピコハンマーが振り下ろされた。
朔は最初から想定していたようにさっと
ドゴッという激しい音を立てて壁には大穴が開いてしまった。
それを見た朔は頰を引きつらせる。
「華……。こんな危険物を軽々しく与えるなよ。当たったらどうするんだ」
「朔が悪いんでしょうが!」
硬直から解けた華が朔のすねを
その後、脱衣所の大穴を見た美桜から屋敷内でのピコピコハンマー禁止令が出された。大穴のことを𠮟られた華は理不尽さを感じるのだった。
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