一章⑧
会話に加わっていないのは星蘭も同じだが、どことなく華だけが疎外感というか置いてけぼりを食らっていた。
華とて鈍くない。わざとなのは言われなくとも空気で分かる。
彼女達とは初対面のはずなのだが……。
もともと面倒くさがりな華は深く考えないたちなので、そっちがその気ならこちらも無視しようと我関せずを貫くが、あまり気持ちのいいものではない。
朔が特に口を出さないところを見るに、反応する必要はないということなのだろう。
そちらで盛り上がるなら帰りたいのだが、逃がさんぞと言わんばかりに朔に腕を
面倒なのに捕まったと、華はうんざりしながら話が終わるのを待った。
こんなことならフレンチフルコースにつられるのではなかったと後悔するが、今さら遅い。
「そろそろお
華は心の中で「まったくだ」と、浮かべた文句の言葉が口から出そうになったがぐっとこらえた。それよりは、ようやく解放される喜びが勝った。
最後に牡丹は華を見て、ふっと意味深げに笑う。
「今度の学祭も我が第四が圧倒しそうですわね」
そう言い残して牡丹は星蘭を伴い去っていった。
「学祭?」
首をかしげる華の中に疑問符が浮かぶ。
そんな華の頭に朔の手が乗せられた。
「なに?」
「いや、ちゃんと大人しくしてて偉いと思っただけだ」
「人をいくつの子供だと思ってるのよ」
不服そうな
すると雪笹が突然くくくっと笑った。
「牡丹もまだまだひよっこだな」
「どういう意味?」
雪笹の
モデルのように背の高い雪笹の顔を見るには自然と見上げる形になる。
「牡丹は桔梗と同じで次期当主候補だ。けど、牡丹の奴は、これだけ華の近くにいて華の力に気づいている様子はなかった。俺は初対面ですぐ気づいたのになぁ。そこはやっぱり大人ぶっていてもまだ学生。未熟な子供ってことなんだろ」
雪笹は少し期待外れと言いたそうな顔をしている。
「いや、そりゃあ、漆黒のお二人さんと比べちゃかわいそうでしょうよ」
言ってはなんだが、華はこれまでに漆黒の術者である朔と肩を並べて、いくつもの問題を解決してきた。
その上、普段から日常的に強い
己の持つ力の強さにも、それを長年隠してきた力の制御にも自信を持っているのだから、そう簡単に見破られてはかなわない。
まあ、朔によると、力が急に強まった十五歳の誕生日の翌日には、兄の柳に見破られていたようだが、あの時はまだ力の制御が甘かったので仕方ないと思っている。
「いや、桔梗の二条院は
朔からも
「まだ高校三年生でしょう? 厳しくない?」
「華ならだいたいの相手の力量を測れるだろ」
朔は当然のように聞いてくるので華は苦笑するが、できるかと問われたらもちろんできると答える。
「まあね」
牡丹は確かに強い力を持っているようだったが、自分には及ばないと華は判断していた。
「でもさ、そういうのは経験次第なんじゃないの?」
まだ若い十代の小娘にどこまでのレベルの高さを望んでいるのだろうか。
そもそも漆黒二人からしたら、華ですら未熟なひよっこである。
「まあな。だが、牡丹は無駄にプライドが高いせいで、それが実力を伸ばすのを邪魔している。このままでいたら次期当主の椅子は遠いだろうな」
「だな」
朔の厳しい批評に雪笹も同意している。
華は五家のことに関しては無知と言っていいので、否定も肯定もできない。
「まあ、他の五家の当主候補でも、華の力を見破れるほどとなると限られてくるだろう。それなりの経験と力がないと無理だ」
「逆にそれができたら実力は折り紙つきってことか」
「そうだな。力がある者とない者との差が分かりやすくはっきりするだろう。一度当主候補達の中に華を放り込んでみるか」
「それナイスアイデアだな。楽しそうじゃん」
あくどい顔をする朔の冗談ともつかない言葉に、雪笹はケラケラ笑う。
「人で遊ぼうとしないでくれる?」
この二人ならば本気で実行しそうなのが恐ろしい。
他家の当主候補の中に放り込まれるなど冗談ではない。
これまで出会った五家の直系の人間を想像すると、望んで関わりたいとは思えなかった。
騒がしいのは望と桔梗で十分である。
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