一章⑦
***
食事を終えた華は、満足そうにポッコリしたお腹を
「はぁ、食った食った。もうこれ以上食べられない」
「食いすぎだ。限度を考えろ」
「よくあれだけ入ったよな。チケット渡したのマズったか? カフェに入り浸らないか心配になってきた」
朔と雪笹が
お腹がいっぱいになるのは当たり前である。
「さて、満足したし帰ろ」
「ちょっと待て」
華が帰ろうとすると、慌てたように朔が止める。
「なに?」
「もう帰るつもりか?」
「違うの?」
「なんのために式神達を置いてきたと思ってるんだ。せっかくだから他にも寄っていくぞ」
華としてはお腹がいっぱいなのでこのまま帰っても全然問題ない……というか、むしろ帰りたいのだが、朔の目を見る限りは許してくれそうになかった。
「じゃあ、俺も~」
「お前は帰れ」
ちゃっかりついてこようとする雪笹を朔が冷たく睨む。
「いいじゃん」
「邪魔だ。デートだと言っただろうが! 食事を一緒にするのは許したが、これからは夫婦の時間だ」
「えー」
雪笹が不満そうな声を上げているが、その顔は朔の反応を楽しんでいるようにも見える。
仲良く言い合いするのはいいのだが、自分は解放して欲しいなと華が思っていると、華達に声をかけてきた人物がいた。
「一ノ宮様。三光楼様」
名前を呼ばれ、朔達も言い合いを止める。
目を向けた先から、二人の少女が歩いてきた。
年齢は華と同じぐらいだろうか。
どちらもとても綺麗な顔立ちをした子である。
「
「
「お久しぶりです、お二方とも」
牡丹と呼ばれた女の子は、朔と雪笹に向かってにこりと微笑む。
その笑みには品があり、やんごとなき家の生まれを感じさせた。
腰まであるロングヘアーは傷みを
所作も指の先まで綺麗で、まさにお嬢様という雰囲気。
ややつり目がちだが、それが余計に気位の高さを表しているように見えて違和感がない。
そんな彼女の一歩後ろには、まるでお姫様に仕える騎士のように
出しゃばることなく無言で朔と雪笹に深く一礼した。
「こんなところでお会いできるなんて偶然ですわね」
「そうだな。元気にしていたか?」
「ええ、もちろんですわ。一ノ宮様もお元気そうでなによりです」
牡丹は話し方からしてお嬢様っぽいと、華は感心する。
華の周囲にはいないタイプだった。
「三光楼様も漆黒になられたそうで、おめでとうございます」
「ああ、サンキュー」
ずいぶん朔と雪笹と親しげだ。
漆黒と口にするからには術者の家系であることだけは分かった。
そして、術者の中でも五家の当主と次期当主に気軽に話しかけられるような立場の相手だと。
じーっと華が牡丹に視線を向けていると、ふと目が合い、何故かギッと睨まれた。
「え?」
どうして睨まれたのか分からない華は驚くというよりぽかんとする。
すると、朔が華の背を押して前に出した。
「華、こいつは四ツ門牡丹。名前で分かるだろうが、五家の一つである四ツ門の直系の娘だ。歳は望と同じだったから華とも同じ歳だな」
「おー」
お嬢様っぽいと思ったが、正真正銘のお嬢様であった。
直系ということは桔梗と同じだが、同じ五家のお嬢様でもこうも雰囲気が違うものかと、複雑な気持ちになる。
桔梗には悪いが、第一印象だと、この牡丹という少女の方が五家のお嬢様らしく見える。
オドオドした桔梗は、よくも悪くも五家のお嬢様──しかも次期当主候補とは思えない。
この牡丹も当主候補だったりするのだろうかと華が問う前に、朔は牡丹の後ろにいた少女の紹介をする。
「もう一人は
星蘭は紹介されるや華に一礼した。
そのお辞儀の仕方は美しく、きちんとした教育を受けているのが一目で分かった。
「四道星蘭でございます。お気軽に星蘭とお呼びください」
慌てて華も頭を下げる。
「あ、どうも、華です」
大した作法の覚えもなく、ただ頭を下げるしかできない華を、牡丹が馬鹿にするかのように小さく笑った。
「一ノ宮様、こちらの庶民はどなたです?」
「庶、みん……」
いや、確かに五家に比べたら華の生まれた一瀬は庶民だろうが、一般家庭よりは裕福である。
それは置いておくとしても、初対面の人間を庶民呼ばわりとは失礼にもほどがある。
少しイラッとした華だったが、相手が四ツ門のお嬢様とあってはことを荒立てるわけにもいかず、無理やり笑ってみせた。
「こいつは、華。俺の嫁だ」
「まあ、本当ですか? あまりに見苦しい所作をする平凡な方でしたので、てっきりいつも一ノ宮様の周りを飛び回ってはつきまとう、目障りな羽虫かと思いましたわ。あなた、もう少しマナーを勉強されることをお勧めしますわよ」
これは
それならば二倍の値で買ってやろうかと、華が笑顔を引きつらせていると、朔のため息混じりの言葉が落ちる。
「牡丹、俺は華にそういうのは求めていない」
「ですが五家の当主の嫁でありながら、それではいけませんわ。せめて星蘭の小指の先程度の優雅さは学びませんとね」
めちゃくちゃ
かわりに何故こんなに
「それより一ノ宮様、ぜひ当主襲名のお祝いをしたいと父が申しておりましたわ」
「ああ、そうだな」
「三光楼様もそのお歳で漆黒になられたのですから、お祝いをさせてくださいな」
「いや、そんな
「十分に大袈裟ですわよ」
ふふふっと、これまた上品に笑う牡丹は、華のことなどまったく見えていないように朔と雪笹と盛り上がっている。
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