一章⑦
話が終わり、全員が元の席に戻ると、朔が改まったように話し始める。
「お前達に……特に華には一番関係深い話がある」
「なに?」
「先の彼岸の髑髏によって行われた学校の襲撃だが、それを受けて生徒の実技の向上にもっと力を入れるべきではと協会で話し合いが行われた」
「あー、あれはひどかったわよねぇ」
結界に閉じ込められた学校という狭い領域の中で
生徒のほとんどは妖魔に慌てふためき助けを求めるだけで、役に立ったのは一握りの生徒と教師だけだった。
術者を育成するための学校だというのに、現実は悲惨なものだ。
葉月を始めとしたAクラスの奮闘はあったものの、華がいなければ結界すら壊すのも難しかった。
華の式神である、葵と雅に助けられた生徒も多い。
あれほど早くに解決できたのは間違いなく華の存在があったからだ。
「今後、同じように学校が襲撃されるような事態がないことを願うが、万が一を考えて、生徒全員の力量をあげておく必要があるという意見が協会でも多く、実戦を想定し、教育方針を見直すことになった」
「どう変わるの?」
「これまでは主にAクラスに実戦を積ませていたが、これからは普段戦いには参加しないBクラス、Cクラスにもいざという時のために経験を積ませることになった」
「え~」
ひどく面倒くさそうな華の声が響く。
しかし、それ以上の不満の声は出てこない。華も分かっているのだ。
「はあ……。でもまあ、仕方ないか」
思わずため息が出てくる。
いくら突然のことだったとはいえ、妖魔を前になにもできず、戦う意思すら放棄して逃げ惑う生徒の姿を思い出すと、朔の言うように実戦経験は積むべきだと華も思った。
巻き込まれる華は不満だが、そうも言っていられない。
術者とは常に命懸けなのだ。
Aクラスのような実戦経験がほとんどないBクラスやCクラスには、そこを思い知らせておく方が今後のためになるだろう。
いざという時を心配する協会の意見はもっともだ。
毎度毎度華がいるとは限らないのだし、協会が助けてくれるとも限らない。
「Aクラスも授業内容が変わるんでしょうか?」
葉月のAクラスはすでにたくさんの実戦を重ねている。
危険な任務もあり、これ以上となるのか気になるところだろう。
望も真剣に朔の言葉を待っている。
「基本的にAクラスは変わらない。特に三年生は多くの実戦を重ねているからな。だが、多少は実戦を想定した授業が多くなるだろう」
「そうですか」
ほとんど変わらないと聞いて少し
「私は保健室でサボってようかなぁ」
「お前もちゃんと受けろ! そんなだから赤点ばっかりなんだろ!」
望がすかさずツッコむが、華は「ほほほほ」と高笑いする。
「あ~ら、私に
結婚当初、華に喧嘩を売って、式神同士の戦いであずはにコテンパンにされたことを言っている。
望もすぐに気づいたようで、恥ずかしそうに顔を赤くする。
「あれは! 少し調子が悪かっただけだ。俺の
「おほほほほ。じゃあ、リベンジさせてあげても構わなくってよ。またあずはに瞬殺されるでしょうけどね」
「言ってろ! 前の俺とは違うことを見せてやる!」
「どうやら葉月の前で恥をかきたいらしいわね。表に出なさい」
「やってやる!」
ドタドタと部屋から出ていった二人に困惑している葉月は、動じずにお茶を飲んでいる朔を
「あの、止めなくていいんですか?」
「ああ、ほっとけ。華はちゃんと手加減できるから問題ない」
「華が勝つ前提なんですね」
「当然だ。俺が嫁に選んだ女だぞ」
ニッと口角を上げる。そこには華への強い信頼が見て取れた。
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