一章⑥
「最悪だ……」
しかし、本当に最悪だったのは屋敷に帰ってからだった。
この日は美桜の帰りが遅くなるというので、美桜を抜いた四人で夕食を食べることになった。
すっかり試験結果など忘れ去っていた華に朔が問う。
「華、試験の結果はどうだったんだ?」
途端に華の顔が固まった。むせそうになりながら問い返す。
「な、なんで朔が知ってるの?」
「さっき望が俺に見せに来てたからな」
ぎろっと
「ふふん。今回初めて葉月を抜いたんだ」
なんとも恨めしく感じられる表情をしている。
華はじとーっとした
「どうせ
「うぐっ」
華の言葉に望は言葉を失うほどショックを受ける。
葉月を抜いて浮かれているようだが、この様子だと桐矢は抜けなかったらしい。
分かりやすい男だ。
「うるさい! これまでずっと葉月が一番だったんだ。そんな葉月を抜いたんだからすごいことなんだぞ!」
「葉月は一瀬の馬鹿親父共のせいで精神的に余裕なかったんだから仕方ないよねー。弱ってる女の子に勝って胸張るのって一ノ宮の人間としてどうなの?」
「…………」
反論の言葉もないようで、望はずーんと落ち込み始めた。
「俺はただ葉月に勝てたのが嬉しくて、兄貴に見てもらいたかっただけで……。他意はなくて……。でも葉月にしたら弱ったところを攻める極悪非道な奴になるのか?」
ぶつぶつとなにかを呟き始めた。
「望、私は気にしてないから」
そう葉月が声をかけるが、本人は聞こえていないようだ。
華の言葉は思ったよりクリティカルヒットしてしまったらしい。
すると、横から朔の手が伸びてきて華の額に強烈なデコピンをする。
「あいた!」
なにをするんだと朔を睨めば、満面の笑みで手を差し出す。
「で、お前の結果はどうだったんだ?」
思わず華はちっと舌打ちした。
望の方にうまく話題をすり替えられたと思ったのに、なんとしつこいのか。
「あれだけ勉強していたんだからもちろん赤点は回避したんだろうな?」
これはマズイ。
華はとりあえず「あはははは……」と笑ってみたが、朔と視線を合わせることができない。
ギラッと目を光らせた朔は口を開く。
「
「はーい、ご主人様~」
すぐさま現れたケモミミツインテールで、いつもと変わらぬメイドスタイルの椿に、朔は命じる。
「華の部屋に行って探ってこい」
「アイアイサー」
「ちょっ、まっ!」
華が慌てて追いかけようとするが、がっちりと朔に腕を摑まれてしまう。
「朔、放して」
「諦めろ」
「お願いだから放して~」
必死に手を伸ばして抵抗する。
もうその様子だけでどんな点数だったか分かるというもの。
少しして戻ってきた椿の手には、くしゃくしゃになった答案用紙が……。
「終わった……」
がっくり肩を落とす華は、頭を抱えることで問題のブツを視界から遮り現実逃避する。
カサカサと朔が答案用紙を広げている音だけが響き、チラリと朔の顔を
「お前、本気か?」
その表情からは、怒っているのか
朔は深いため息の後、その答案用紙をあろうことか望と葉月に渡した。
「ぎゃあ! なにしてんのよ!」
よりによってその二人に渡すとはなにを考えているのか。
内容を確認した二人は、
椿にまで
「お前、これはヤバイだろ」
「華……」
素直に感想を口にする望と、華に気を遣ってそれ以上の言葉が出てこない葉月。
どっちの反応も華にグサグサ刺さる。
何故これまで勉強してこなかったのかと華を後悔が襲うが、それもこれもあの両親が悪いと責任転嫁することで心の平穏を保つ。
「ここまでひどいとはな」
呆れた朔の声が聞こえる。
普段なら
「仕方ない。望、葉月。お前達がこいつの勉強を見てやってくれ」
「えー!!」
不満の声をあげた華と同時に望まで声を大にする。
「いくら兄貴の頼みでもここまでの奴に教える自信はないぞ」
指をさして否定された華はカチンとくる。
「そこまで言わなくてもいいでしょう! これでも頑張って勉強したんだから!」
「どこがだ! 葉月の爪の
「悪かったわね! 双子でも頭のよさは比例しないのよ!」
ぎゃあぎゃあと騒ぐ華と望をオロオロと見守る葉月。
朔は二人にそれぞれチョップする。
今回は手加減されているいつもよりちょっと痛い。
朔が試験結果を問題視しているのが伝わってくるようだ。
「静かにしろ。望、華に教えるのは大変だとは思うが、一ノ宮の嫁がこんな点数では他家に笑われる。お前だけが頼りだ」
「俺だけが頼り……」
「ああ」
大好きな兄に頼られて
望は態度をコロリと変えた。
「よし、俺と葉月で一ノ宮の嫁にふさわしくなるよう、みっちりとしごいてやる。ありがたく思え!」
「ええ~」
不満いっぱいの華に対し、朔がすごむ。
「母上にこの答案を見せられたくなかったら大人しく言うこと聞いとけ」
「ひどいっ!」
「母上にバレるよりはいいだろう?」
「うぐっ」
確かにその通りなので反論できない。
「二人に勉強教えてもらえ。いいな?」
「はい……」
華は観念してがっくりと肩を落とした。
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