『結界師の一輪華3』

プロローグ

 そこは国内にある、とある山。

 木々が生い茂り、太陽が高い位置にあるにもかかわらず薄暗い山の奥深くで、それは行われていた。

 術者協会による、よんしきから五色へと昇級するための試験だ。

 試験内容はこの山に住まうようはらうこと。

 しかし、五色への昇級試験だけあって、この山にいるのはただの妖魔ではない。

 幾人かの術者が挑むも、祓うことがかなわなかった妖魔なのである。

 これ以上の被害者を出さぬために山に結界を張って妖魔を封じ、討伐を五色の術者に依頼しようとしていたところ、ちょうど五色への昇級を望む者が出てきたために、試験の課題へと変更された。

 今回、五色の試験に挑戦しているのは、さんこうろうゆきざさ

 雪のように白い髪としさを感じさせる意志の強い目を持った青年だ。

 スラリとした長身で、モデルのように端整な顔立ちをしている。

 二十四歳という年齢ながら、すでに次期当主に指名をされている三光楼のおんぞうだ。

 雪笹がこの山に入って、すでにずいぶんと時が経っていた。

 五色の試験を受けるだけあって、雪笹は決して弱いわけではない。

 それなのに時間がかかっているのは、つまりそれだけ強い妖魔であることを意味している。

 なかなか妖魔を倒せない雪笹に、山に結界を張っている術者達は心配していたが、定期的に山を下りてきて報告をしているので、今のところ試験は続いている。

 これ以上かかるなら試験の中止もありえるが、雪笹自身は続行を望んでいた。

 五色の術者になるのが難しいのは雪笹も承知の上。

 最高位の五色の術者とは術者の最後のとりでなのだ。

 この程度の妖魔を討伐できなくては五色を名乗ることなど許されない。

 実際に、すでに五色を得ている術者達は、この山に住むのより強い妖魔と戦う機会もざらにある。

 五色の漆黒を得るのが簡単では意味がないのだ。

 だからこそ、五色の漆黒を持つ術者は尊敬されされる。

 一進一退を繰り返しながら、雪笹は妖魔と戦い続けた。

 そしてようやく妖魔との決着がつき、まんしんそうで山を下りると山に結界を張っていた術者達が出迎える。

「お疲れ様でございます」

「妖魔は無事に討伐した」

 雪笹の言葉に、術者達はにわかにざわめく。

「おお! それはおめでとうございます!」

 妖魔を一人で祓えたということは、試験に合格したことを意味する。

 術者の一人が雪笹に恭しく差し出したのは、漆黒のペンダント。

 雪笹は不敵な笑みでそれを受け取ると、自らがそれまでつけていたいろのペンダントを外し、漆黒のペンダントを首から下げた。

 まるで元よりそこにあったかのように、黒く輝く漆黒のペンダントを身につけ、雪笹は満足そうにした。

「やっと手に入れた。少々さくに遅れを取ったが追いついたな」

 ニヤつくのを抑えきれずにいる雪笹に、術者の一人がおそるおそる口にする。

「朔様というと、あなたが山にもっている間にいちみやを継ぎ、ご当主になられましたよ」

「なんだと。それは本当か?」

 雪笹はひどく驚いた様子で聞き返す。

「ええ」

「だが、あいつはまだ結婚していないだろ。柱石の結界はどうするつもりなんだ」

「いえ、すでにご結婚なさり、柱石の引き継ぎは完了していると聞いております」

「はあ!?」

 雪笹はこの時ばかりは体の疲労も忘れて大きな声を上げる。

 それだけ雪笹には信じられないことのようだ。

「あいつが結婚したとか、まじかよ。いったいどこのご令嬢だ?」

 雪笹は一瞬思案した後、納得したような顔をする。

「あー、そう言えば、一ノ宮の分家に人型の式神を持つ女がいたな。ずいぶんと優秀だと聞いたことがある。最年少で瑠璃色を手にしたいちの嫡男の妹だったな。そいつか」

 なるほどとつぶやく雪笹に、またもや言いにくそうに術者の一人が口を挟む。

「おそらく雪笹様のおっしゃっている妹とは別の妹だと思いますよ」

「ん? どういう意味だ?」

「妹は妹でも、優秀と言われている妹の方ではなく、落ちこぼれで有名な妹の方とご結婚されたようです」

「は?」

 意味が分からない雪笹は首をかしげた。

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