二章①
華の力が覚醒してから数年。
早いもので華は高校三年生、十八歳となった。
覚醒してから徹底的に隠し続けたおかげで、双子である葉月にすら気付かれてはいない。
まあ、そもそも葉月と顔を合わせることすら少ないのだから当然と言えば当然かもしれない。
しかし、暇があれば様子を見に来てくれる
術者の力を持ちながらも、実践で使えるほどではない者は、術者の家系を補佐するため術者の家に仕えたりするのだ。
柱石に関することは門外不出の極秘事項なので、秘密を守るためにも一般の人を雇えないというのもある。
なので、使用人といえども力に対しては敏感だ。
そんな使用人にも今のところは落ちこぼれと見られている。
時々顔を合わせる両親から嫌みを言われる度に、紗江の方が怒りの交じった悲しそうな顔をするので心苦しいが、本当のことを言うわけにもいかない。
どこからばれるか分からないのだから。
だが、真実がどうだったとしても、華は両親の言葉を気にしなかっただろう。
紗江のおかげでとっくの昔に吹っ切ることができていたのだから。
なので、毎度毎度の両親のとげのある言葉も華にとっては馬耳東風状態。
しかし、殊勝に聞いているっぽく振る舞うので、両親は言いたいことをぶつけると早々に満足するようだ。
ここ数年でずいぶんと演技が上手くなった気がする。
将来は女優になろうかなどと、冗談交じりであずはと話していたりするのは二人だけの秘密だ。
そんな華が通う高校は、術者を養成する
本当は普通の人間が通う学校がよかったのだが、一瀬家の者はすべからくこの黒曜学校に入学しているとあって、ほぼ強制的なものだった。
いくら華が落ちこぼれと認識されていても、式神を作れるほどの力がある以上、他の選択は許されなかった。
黒曜学校は生徒の術者の能力の強さごとにランク分けされクラスが決められている。
優秀な者が集まるAクラス。普通なBクラス。そして、術者としては弱いCクラス。
落ちこぼれを演じている華は当然一年生の時からCクラスだ。
入学式でCクラスに分けられたと落ち込む生徒達の中、心の中でガッツポーズをしたのはきっと華だけだろう。
人目がなければ、勝利の
両親は華のクラス分けを見ると、さっさとその場を離れていった。
もう失望するだけの期待は小指の先ほどもないといったところか。
いや、一応確認に来たのだから、わずかばかりは期待していたのかもしれない。
これまでは葉月と比べて弱いと決めつけていただけで、世間一般の評価は違うのかもしれないと。
だが、葉月ではない他者と比べても落ちこぼれと知らしめられて、残っていた興味も
華としてはウェルカム。試験にひたすら力を隠して臨んだのは、そんな両親の興味を引きたくない故なのだから、すべて華の思惑通りである。
今さら手のひら返しで
最初から葉月と分け隔てなくとまではいかずとも、きちんと華にも親として関心を向けていたら華も喜んで力の覚醒をすぐに話し、家のために尽力しただろうに。
今や華の両親への情は他人よりも希薄だ。
両親は自分達の
今後も気付かないことを切に願うばかりだ。
そうして、ひたすら底辺で過ごしてきた高校生活は、一部のことを除いてとても過ごしやすいものだった。
優秀な者の集まるAクラスともなると、一年生の時から実践授業が行われたりする。
それは実際に現場へ出て、柱石を狙う
もちろん最初は現役の術者の補佐程度だが、二年生、三年生にと上がるにつれ、それはより本格的な戦いへと変わっていく。
三年生になれば、Bクラスですら現場に連れ出されるようになる。
その一方で華のいるCクラスはというと、実戦に出られるほどの力を持った者は皆無なので、のんびり安全な学校で授業を受けている。
危険な場所に出ることもなく、出たとしても後方支援程度だ。
とはいえ、その後方支援も立派な役目である。
戦える者は戦い、戦えない者は後方にて補佐をしたり戦いの後始末をしたりするのだ。
決して軽んじていいものではないが、やはり学校内でランク分けされている以上、AクラスやBクラスの生徒からは蔑みの対象となってしまうのは仕方がない。
それは葉月という優秀な姉を持つ華に対してより顕著に表れていた。
華が学校を歩く度に聞こえてくる、
慣れっこだが、
その問題さえなければ、楽しい学校生活ではあるので、残念でならない。
まあ、葉月と比べられ蔑まれることを承知の上で力を隠しているのだから、文句を言えたことではないのだが。
「あっ、華ちゃんのお姉さんだ」
そう声を上げたのは、華の友人の
薄茶色のボブカットの髪で、ほわほわとした柔らかい雰囲気を持った優しい子だ。
華を葉月の妹としてではなく、きちんと個人で見てくれる貴重な人間。
その肩には式神であるリスが乗っていた。式神としては弱い方に分類されるが、小動物のようなかわいさのある彼女にはぴったりの式神だと思う。
多くの人は、葉月と似た顔をした華のことを珍獣でも見るかのような興味津々の目で見てくる。
そして最後は葉月と比べて、嘲るか、かわいそうな子を見る目を向けてくるのだ。
けれど、鈴はとても自然だった。
葉月の妹と知っても、それがどうしたの? と言わんばかりに。
鈴と出会えたことだけでも、この学校に入学したかいがあったと思っている。
鈴の声で窓から外を見下ろせば、葉月がたくさんの同級生に囲まれているのが華にも見えた。
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