一章④
「ほんと、なんで今なのよ」
遅すぎる。
誰に対して文句を言えばいいのだろうか。分からない。
『あるじ様?』
心配そうに様子を
「大丈夫よ、あずは。それよりも、やっとあずはと話せるね」
『うん。嬉しい』
「私も嬉しい」
弱いはずの
しかし、今のあずはからはとても強い力を感じる。
このままではすぐに周囲に気付かれてしまうだろう。
「あずは、力を抑えられる?」
『やってみる』
しばらく様子を見ていると、光り輝くような色鮮やかさがあずはから消え、これまで通りのあずはに戻った。
それと同時に、あずはから
『あるじ様、どう?』
「うん、上手にできてるよ。これからは必要な時以外はずっと力を隠しててね」
『他の人に教えないの? せっかくあるじ様、強くなったのに』
「教えない。これは私とあずはだけの秘密ね」
あずはは不思議そうにしつつ、華が望むならと深くは考えず返事した。
『分かった』
華とて考えなかったわけではない。
そして、よくやったと
葉月の
だが、それがどうしたというのか。
これまで彼らが華に対してしてきたことがなくなるわけではない。
それが、力を得た、ただそれだけでころりと変わる様など見たくもない。
それに……。と、華は葉月のことを考える。
期待を一身に受けた葉月の殺人的なスケジュールと、周囲からの重圧を。
優等生の仮面を
認められたいと思っていた時はとうの昔に過ぎ去っている。
だからこのままで。
葉月の出涸らしのまま、生きていってやる。
両親の思う通りに生きてなどやるものかと、これまでの育ち方ですっかりひねくれてしまった華は、力を隠していくことを誓う。
「誰かの意味のない期待はいらない。そんなものゴミ箱に捨ててやる。私が目指すのは葉月のような優等生なんかじゃなく、自由に生きること。誰の思惑にも左右されたりしない、私が私らしくいられる生活の死守!」
そのためにはこの力は内緒の方が絶対にいいはず。
今更手のひらを返したようにまとわりつかれるのは華の望むところではない。
爪の先ほども親と周囲の人間を信用していない華の最良と思う選択。
「いつかこの家を出るまでは大人しくしていよう」
紗江のように華のことを見てくれている人には申し訳ないが、静かな暮らしを続けるためには必要なことだと自分を納得させた。
いつの日か、この家から解放される日まで。
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