ローズ・フォル
手に乗せていたアゴがガクッと落ちた。
「んくっ」
ウトウトしていた様だ。
目を擦る。記事を書き上げてる途中だ。早く終わらせなくては。
最近は徹夜で書きすぎてた。そろそろじっくり休もうかな。
顔を上げる。
────と、赤い髪の可愛らしい顔の少女がニヤニヤとこちらを見ていた。
「可愛らしい寝顔だねぇローズちゃん。ヨダレ垂れてるよ」
可愛らしいのはお前────
ガバッと立ち上がる。視界が広くなり、周りが見える。
制服に身を包んだ少年少女が驚いた顔でこちらを見ている。
前の方には眉間に皺を寄せた女性がおり、口を開く。
「フォルさん。次に寝てる所を見つけたら窓から投げ落とします」
口から「ぴゃい」と聞き慣れない高い声が出た。
どうやら私は夢を見ている様だそうに違いない。
さっきから何度もそう思いながらとんがった自分の耳を触っている。
しっかりと先端まで触る感触があり、ぷにぷにと柔らかい。
しかも自分で若干動かす事が出来る。やり方も何故か分かる。
授業中、自分の頬っぺを抓って見たが痛いだけだった。
それを見ていた前の席の少女が反対側を抓って「すっごい柔い!」と喜んでいた。痛かった。
まあ、夢の中でも痛い時は痛いと言うし、夢で間違いないでしょう。
「今日のローズちゃんはいつもに増して不思議ちゃんだねぇ」
隣から私の顔を覗き込みながらあの少女が話しかけてくる。
前の席の子はどうやら私の友達らしいが、名前が分からない。耳は普通の人間の耳だ。
「そ、そうかな」
「うん、なんだか自分自身を触りながら確認している感じ」
鋭い、まさにその通りだ。こう話しながらも私は自分の耳を触っている。
「これみよがしに耳触ってー」
少女は頬をプクッと膨らませる。
「別に触ってもいいよ?」
「!?」
少女は驚いた顔をして立ち止まった。
急に立ち止まるから私の胸が顔にぶつかった。
「わぷ、ホントに良いの……?」
少女は少し頬を染めて言う。え、何か不味いの?
少し不安になるが、訂正する気は無い。
不思議と彼女に対して安心感を抱いているのだ。
取り敢えずトイレに行きたくなり席を立った私に無言で着いてくるぐらいなので、仲は良いんだろう。
うん、と頷くき顔を少し横に向ける。
少女は「えっここで……!!?」と小さく呟きながらもおずおずと手を伸ばし、触った。
指先が触れた瞬間、「うひゃっ」と高い声が出てしまった。
それで確信する。これエッチなやつだ。
慌てて顔を引き「ここまで!」と強く言う。
少女も顔を赤くしながら、ブンブンと顔を縦に振っていた。
「えっかわいい……」
鏡を見て思わず声が出る。
目を引く翠の短い髪と桃色の瞳。小麦色の肌。そして足先が見えない程のでっかいモノ。
「ナニそのホントに可愛い物見た時の反応。どれどれ私にも見せ……あっかわいい」
彼女はかなり冗談が好きらしい。最初はニヤニヤとしながら言って最後にはホントに驚いた様な顔をする。
さっきの出来事で一瞬かなり気まずくなったが、彼女は何とか冗談を言って空気を紛らわせてくれた。
あんなシーンで頑張って空気を変えるのは勇気がいる。良い友達だ。
「私、自分の顔じっくりと見た事なかったよ」
私もおどけた様に答える。
「普段ボーッとしてるしタマに髪跳ねてるから、なんか信憑性あるなぁ」
彼女はクスクスと笑い、個室へ入っていった。
鏡をもう一度見る。
「…………」
右手を上げると勿論、鏡の私も右手を上げる。
やはりこれが私で間違いない。
こんな見た事も想像した事も無い子に、夢で成る事あるんだなー。
なにか無いかな、とスカートのポケットに手を入れると小さなノートの様な物があった。
生徒手帳だ。
表紙を開くと私の顔と名前が乗っていた。
ローズ・フォル、16歳。
私はローズ・フォルと言うらしい。彼女はローズちゃんと呼ぶから、ローズが名前だろう。
ほーっと思っていたら、彼女が個室から出てきた。
「あれ、まだ鏡見てるの? もうチャイムなっちゃうよ」
キーンコーンとチャイムが鳴り始めた。
「いやー今日も疲れたねー」
彼女と下駄箱で靴を履き替える。
体育の時も思ったが、足元が見づらいので履き替えるのが大変だ。
「いやー、体育の時のローズちゃんは眼福でしたねぇ」
今日の授業はランニングで、それはもう揺れた。
元は小さいので初めての体験だったけど、服と擦れてめちゃくちゃ痛かった。
それに視線が凄い。圧すら感じる。
でも、それは彼女が隣で視線への壁となってくれたので気にならなかった。イケメンだよ、彼氏になって?
「じゃあ、それがお代って事でこれからもお願いね?」
「────1本取られたー! でも、間近で見れるからそれはそれでアリか……」
彼女は隣でフンフンと頷く。その頬が少し赤く見えた。
「……あ、あのさ」
彼女が少し言いづらそうに口を開く。
「ちょ、ちょっと寄りたい所あるんだけど、いい?」
なにやら凄い緊張している様だ。
「うん。いいよ」
「よし、よし……」と彼女は呟き「こっちだよ」と手を引く。
連れられたのは少し高い所にある公園だった。
あまり人が来ない様で、他と比べて草が生えている。
肌寒い時期の様で、日が落ちるのも早い様だ。空がほんのりと赤く染まっている。
公園の端、展望台の様に開けた所で彼女は足を止めた。
彼女はそこで背を向けたまま、数度リズムを取るように体を揺らしてからこちらを向いた。
何か凄い決意を感じる……。
「ろ、ローズちゃん」
「ひゃい」
少し緊張して噛んでしまった。この口は少し滑舌が悪い。
「きょ、今日のアレって、告白……だよね」
今日のアレと言われて真っ先に思い出すのは勿論耳を触らせたあの出来事。
…………エッチなやつだと思ってから何となく分かっていた。
今日一日一緒に過ごして、彼女は大体の事は上手く流せると解った。
そんな彼女がホントに驚いていたのだから、それだけの事を言ったと。
ホントに驚いただろうし動揺しただろう。
断るとしても、これからの関係が悪くなるかもしれないなど色んな不安が出たはずだ。
本当に申し訳無い。
「うん、その────」
「ローズちゃん!」
「ひゃい!」
彼女は気合いの入った勢いで私の手を取る。
「私も、入学式でひと目見た時から大好きでした! 大好き!」
そしてそのまま私の口に口を合わせた。
合わせた!?
反射的に手を突き出そうとするが下の方に抑えられており、上げられない。
そのまま10秒くらいして、ぷはっと離れたと思いきや思いっ切り抱き締められた。
「あの時、こんな場所で!? って思ったんだけど、嬉しいのと興奮で即触っちゃった! ごめんね?」
耳元から元気な声が聞こえる。吐息も掛かり、その、凄い。
「もうこのままお家に連れて帰りたいけど、今日はまだ木曜だから、明日にしようね」
腰の辺りに回されていた手がそっとお尻のラインをなぞる。
「ひゃぁぁ」
口からか細い悲鳴が溢れる。
それを聞いた彼女はガバッと離れ、手を引いた。
「が、我慢出来なくなるからそんな声出すのダメ! ほら、帰ろ?」
「だ、だれのせいだと……!」
「明日は迎えに行くから、待っててね!」
そのまま頬の赤い彼女と、やいのやいの言いながら帰った。
「はふぅ……」
布団に入り一息つく。
この夢なっがい、寝るとこまで来ちゃった。
今日の出来事を思い出す。
最初から濃いが、告白に印象を全部持っていかれてしまった。
数時間経ったがすぐにあの事を思い出してしまう。
正直全く悪い気がしなかった。
最早この夢で性癖が歪んでしまった感すらある。
目覚めたら忘れてしまうのだろうか……?
それはそれで常人に戻れて良い気もするが、悲しい。
帰った後は特筆するものも無い。
母と父の身長がヤケに差があった事ぐらいだろうか。母はスラッとしていて、父は髭モジャでこう、小さかった。
あ、後、ヤケにサラダの量が多かったのと、ヤケに美味しく感じた。
天井を見ると、ほんのりと淡いピンクの光が反射していた。
机の上にケースに収めてあった、ピンク色の宝石の様な物が光っているのだ。
フットライト程度の淡い光なので、あまり気にならない。
…………不思議な世界観だ。
目覚めたらこの世界観で物語を書いてみてもいいかもしれない。
PiPiPi────
「むぅ……?」
アラームに起こされ、上半身を上げる。
すっごい濃い夢を見た。内容を完璧に覚えている。
でも、少し悲しいな。せっかく彼女が出来たのに……。
寝ぼけ眼でスマホを探す。
あれ? いつも枕元に置いてるのにな……。
机に目をやると淡いピンクの光が見えた。あぁ、今日も綺麗だ────
え?
「ローズ! アカネちゃんが迎えに来てるわよー」
スラッとした母がガチャと部屋に入ってくる。
「ぇあ、アカネ? ってだれ」
母は呆れた顔で私に言う。
「何言ってんの、高校入学してからずっと一緒にいるじゃない。……え、赤い髪の子。そうよね? 私がボケてる訳じゃ無いわよね?」
母は少し狼狽えた。
「ま、まあ顔はよく覚えてるから、まあいいわよね。あ、それよりあんたあの子と付き合い始めたんだってね?」
「なぇっ!? なんでそれを……」
「さっきあの子から元気に報告されてねえ。今日は連れて帰るって言ってたから、晩御飯要らないわよね」
「え? あ、うん」
「下着2〜3枚は用意しときなさいよ。あと、サキュバスとの夜は長いんだからしっかり水分取るようにね。じゃ、着替えたら降りてきなさいよー
「…………」
バタンとドアを閉めて母は降りていった。
…………アカネって言うんだ…………。
……………………ってサキュバスって言った!?
異世界少女達の尊瞬 ホイスト @hoisuto
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