どれが真実なのか
「おっ! 可愛いな」
レオンがいつもの登校路を歩いていると、ブロック塀の上で一羽のスズメが紙を咥えて座っていた。
レオンがニコッと笑ってそのスズメに顔を向けると、スズメはパタパタと羽ばたき、レオンの右肩にちょこんと飛び乗った。
「え? マジ?」
レオンは顔を動かさずに目だけをスズメに向けた。
何だよ。これをオレに渡そうとしてるのか?
レオンは左手でその手紙らしき物をつまみ取り、表書きを見てその場に固まった。
「ジーペン国 レオンへ ユーカより」
ゴクリと唾を飲み込み、驚きの目を肩のスズメに向けると、スズメはチュンと一声鳴いて飛んでいってしまった。
「ま、待てよ。どういう事だよ!」
周りにいた人々の視線を感じた。
レオンは恥ずかしくなって小走りで横道に入った。
周りに人がいないのを確認して、もう一度封筒を見る。
ユーカから手紙? 何でスズメが? もしかして犯罪? 開けたら爆発するとか? んーな訳ないよな。何か大切な事かもしれない。
レオンは恐る恐る封を切った。
何も起こらない。
写真が入っている。
「スゲー!」
思わず声が出て、手で口を塞ぐ。周りを見回したが人はいないようでホッとする。
その写真の美しさに目を奪われたが、次の瞬間レオンはフリーズした。
何で? 何でユーカがこんな所にいるんだよ?
中から手紙を取り出した。動揺して手が震えている。
一気に手紙を読んだ。
何が何だか分からないが、おちおちしていられない。学校に行くどころじゃない。レオンはもと来た道を全速力で走り、家に戻った。
もう一度きちんと手紙を読み直す。「時間が無い」と書かれている。ユーカの字に間違いない。信じるよ。信じるしかない。
レオンはユーカに言われた通りにSNSに投稿した。
☆
早速反応がたくさんあった。その反応は様々だったが、レオンと繋がっている人達の殆どは嘘の投稿ではないと信じてくれている。
テレビをつけてみた。ここ最近はピース島の話題で持ちきりだ。
「ここで速報です」
いつもの美人キャスターが真剣な面持ちで文面を読み上げる。
「まだ確かな情報ではないのですが、ジーペン国民の一人がピース島に拉致されたとの情報が入ってきました。ジーペン国の高校生一人が拉致されたという情報です。新しい情報が入り次第お伝え致します」
「拉致されたジーペン国の高校生から、同じくジーペン国の友達に向けて手紙と写真が送られてきているとの情報です。今、この情報がSNSを通して出回っているようですが、これを信じてはいけません。拉致された少女は書かされているのです。おかしな情報に惑わされないで下さい。確かな情報はこの画面を通して私の口からお伝え致します」
レオンはドンっと机を叩いた。
拉致だと? 違うだろ? 真実はこっちだ。こっちに決まってる。
信じてくれ、みんな。テレビの報道なんて作られた偽りばかりだ。
次の日、またスズメが手紙を届けてくれた。ピース島にはこっちの情報が届いているのだろうか?
偽りのテレビ報道に対する怒りのような物が、その文面から感じ取れる。
オレはそれを自分なりのやり方で全世界に伝えるしかない。出来るだけ多くの人達に分かってもらえるように。
★★
私は拉致されていません。私は書かされているのではないのです。
真実しか書いていない事を誓います。信じて下さい。
今、戦争という最悪の状況だけは避けなければなりません。私は実際の戦争を知らない子供ですが、ついこの前までジーペン国で戦争の事も学んでいました。被爆国として沢山の犠牲者を出した事を無駄にしてはならないと教えられてきました。だから私の国、ジーペン国なら私達の思いを分かってくれると信じています。そしてジーペン国はピース島を発見した国だからこそ、世界中に平和への思いを広める事が可能であると信じています。
私はこのピース島の真実を書いた手紙とピース島の美しい写真を信頼出来る友人のレオンに送っています。彼はそれを世界中に拡散してくれているはずです。
テレビの報道ではなく、それが真実なのです。
★★
少し恥ずかしかったけど、手紙の文章に自分の一言を添えた。
【これはユーカの字に間違いない。そしてユーカは嘘をつく事が出来ない奴だ。お陰でオレは傷つけられる事も多いのだけれど(汗)。彼女は書かされていない。これが真実なんだ。】
☆
「おかしな情報を勝手に流している高校生がいるみたいだから、気をつけなきゃね。今日もテレビで注意してたわよ」
「全く。きちんとした情報以外、見ないようにするわ」
「だけど、テレビの情報が正しいっていう考えは、本当に正しいのかな? その高校生が書いてる情報を見てみたけど、すごく熱くて真剣で、純粋な物に感じたよ」
「上手に書く人がいるのよ。あたかも真実のように。そんな手に騙されたらダメ。テレビが正しいに決まってるわ」
「この情報が正しいって決め付けずに、もっと自分で考える事を大切にしなきゃいけないんじゃないかな? もう少し、色んな情報を見ながら考えてみようよ」
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