ユーカが書いた手紙

「その手紙はどうやってレオンの元に届けるんですか?」

 こんな最果ての地で書いた手紙がレオンの元に届くとは思えない。


 オーサは至極当たり前のように言う。

「鳥たちが駅伝の襷を繋ぐように配達してくれる。何かトラブルがあったとしても、それを見ている者が必ずいて代役になってくれるから、手紙は必ずレオンの元に届く」と。

 ユーカはオーサが駅伝の事を知っている事に驚いたが黙っていた。


 ユーカはオーサに頼まれた事を書く前に、レオンに向けて手紙を書く事にした。まずレオンに今のこの状況を分かってもらわなくてはならない。


【レオンへ


 ユーカです。突然ごめんね。今、信じられないような事が起こっているんだけど、絶対に嘘は書かないから信じてほしいの。

 ピース島が今、世界中の話題になってる事は知ってるでしょ?

 私は今、そのピース島にいるの。

 たぶん私は突然別の学校に転校したって話になってると思うのだけど、一瞬のうちにピース島にやってきてしまったんだ。

 詳しい事を書いてる余裕は無いのだけど、これから世界中で戦争が起こるか平和になるかは、私とレオンの行動に大きく左右されそうなんだよ。


 分かってほしいのはまず、私は捕らえられてここにいるんじゃなくて、私が来たくて来たって事(来たいと思って来れる場所じゃないし、これは謎だらけなんだけど)。この手紙は書かされてるんじゃなくて、自分の意思で書いていて、嘘は無い事を信じて。


 ピース島の長はオーサと言って、とても偉大な人。彼がいう通りに動いていけば、戦争は起きずに世界平和を実現出来ると思うんだ。

 ピース島の真実と、ここの写真を合わせて何回か送る事になると思うから、レオンにはそれを拡散してほしいの。私の今の状況を知らせてほしいの。強調してほしいのは「私は真実しか書かない」って事。

 私達のクラスにも知らせてほしいし、レオンは世界中にいっぱい友達がいるでしょ。

 

 オーサは手紙の送り先は大統領でいいか? って聞いてきたけど、私は否定した。国のトップは信頼出来なくても、私達の若い力って案外強いんじゃないかって思う。

 レオンなら、何か上手くやってくれるんじゃないかって思って。オーサは私と若い力に懸けてみようって言ってくれたの。


 私が一方的に書く事しか出来なくて、勝手にレオンを巻き込んでゴメン。でもレオンしか浮かばなかったから。

 時間が無いの。誰かに相談する前に、まず早急に手紙の文章と写真をSNSにあげて! ちょっと恥ずかしいけどレオンに向けて書いてるこの手紙も一緒に。

 私を信じてくれるよね? そして私はレオンを信じていいよね? 


 ユーカより】


 そして、全世界の人々へ向けたメッセージをオーサに従いながら書いていった。それは世界中の人たちに知ってほしい「ピース島の真実のお話」。


 ★★


 全世界の人々へ


 私はこのピース島の長、名前はオーサだ。

 ジーペン国がピース島をなぜ発見出来たのかは分からない。世界中がその発見に驚きの反応を示し、様々な噂が飛び交い、各国が躍起になってピース島の調査に乗り出している事は承知しておる。

 その為に今、多くの民間人が犠牲になっている。これ以上多くの犠牲者を出さない為にも、この島の事を世界中の人々にきちんと知ってもらう必要があると、私は考えた。

 ピース島の真実を話す事は、我々自身の首を絞める事になるかもしれないが、それが最良であると判断したのだ。


 この島はなんと、およそニ億年前に誕生していたと言われている。地球上の大陸が現在の原型を成した頃に。

 地球上に様々な生きものたちを誕生させたと言われている神鳥かみのとりはこの地で生まれたとされている。

 今から二十万年前に地球上に人類が誕生した頃、この島にも人が住んでいたと考えられている。


 なぜ今までこの島が発見されなかったのか。そこは謎だらけなのだが、この島自体が神様によって特別に作られたとしか言いようがない。地球上にそういう場所が必要だったという事なのだろう。


 では、なぜ今になって発見されてしまったのか? テクノロジーが神の力を越えてしまったという事なのか?


 現在、ここにはプカック族と呼ばれる先住民族が百人程暮らしている。文明の利器は何一つ無く、彼らは太古から変わらない生活を営んでいる。生活の基盤は狩りだ。

 ただ一点、ここ三十年の間に変わった事がある。今、ここにはプカック族以外に二人の人物が住んでいる。三十年前にジーペン国からやってきたという現在五十歳になるミッチという男性と、つい一ヶ月程前に同じくジーペン国からやってきたユーカという十七歳の少女だ。


 ピース島は不思議な島だ。世界中の誰にも見えないはずなのに、この島が必要だとする人物には見えるのだという。そして必然的にここに導かれるというのだ。

 ジーペン国のミッチとユーカはこの島が必要とした人物だという事だ。

 そして長い長い歴史の中で、他の地からここに足を踏み入れる事が出来たのはこの二人以外には一人もいないのだ。誰も足を踏み入れる事は許されない。残酷なようだが、従わない者に与えられるのはのみだ。


 二人に共通しているのは、自然が大好きだという事、この島の長である私と同じ価値観を持っている事、島の者たちとコミュニケーションが取れるという事。そしてそれぞれの持つ特技がこの島を守る為に必要だという事だ。


 三十年前、ミッチは野生動物写真家になりたくてジーペン国の大学に通い始めていたが、自分のやりたい事はここでは出来ないと思い当たり、導かれるようにピース島にやってきた。

 そして三十年間、ピース島で野生動物を追い続け、彼にしか撮れないような瞬間や、ここにしか存在しない美しい風景を撮り続けている。


 ユーカは高校を卒業したら野生動物の事を学ぶ専門学校に入ろうと思っていた。正義感と行動力に長け、優しさと強さを兼ね備えた少女だ。私は本当は彼女が高校を卒業するのを待ちたかったが、どうやら待っている時間は無さそうだという事に気づき、一ヶ月程前にここにやってきてもらったのだ。

 それはどうやら正しかったようだ。取り返しがつかない事態になる前に何とか対処できそうだ。


 ピース島の真実を知らせる事で、ここは人類が犯してはならない領域だという事を全世界の人々に分かってもらえると信じている。

 私は人間はそれほど愚かな生きものではないと信じたい。これから何通か送る手紙とミッチの写真から、大切な物を感じ取って頂きたい。


 ★★


 ミッチが撮った写真を一枚だけ入れた。それは先日、オーサが島の人達を集め、島の力が集結した時の写真だ。そこには大きな白い虹が架かっている。

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