名作のその後の物語

風見☆渚

長靴を脱いだ猫

事の発端が何だったのか・・・

その理由すらわからぬまま、300年という長岐に渡りお互いを削り合う戦争が続いていた。

そして、戦争が長引けば長引くほど、各国では民や資源の枯渇していく現状を恐れていた。

しかし、ある日突如現れた一匹の妖魔の存在により長く続いた戦争はあっという間に終結したのだった。

猫の姿をしたその妖魔は人間の言葉を交わし、良くも悪くも頭の回転が速く人間以上の知恵を持っていたのだ。

その妖魔の助言により、各国の代表が集められお互いの利益を守るための平和条約が結ばれた。ある一国を除いて・・・


世界が平和になり、丁度50年の節目の出来事だった。

戦争終結の英雄として崇められている猫は、妖気をまとい通常の猫では考えられない程に長生きする種族であった。そんな猫も、さすがの寿命という命の限界に逆らう事は出来なかったのだ。

そして、88年という長い猫生を終えようとしていた。

世界平和の英雄である猫の延命処置を施すため、国境を越え多くの名医が猫のもとへと訪れた。しかし、猫の寿命もここまでとなってしまった。


ここは、猫が終の棲家として選んだ国にある城内に設けられた英雄猫専用の寝室。

この国は、猫の助言によって戦争で唯一大きな利益を残すことが出来た国である。

人間でも持て余すほどの大きな部屋の中心にあるベッドには、余命幾何かの猫が横たわり、その横で国の代表である王が猫の前足を優しく握りしめ猫の最期を見守っている。

部屋には、国王と猫。あとは使用人が数名。


そんな英雄たる猫の最期の日。

彼は、戦争終結時の思い出話を語り出した。


「あのにゃ、最後にどうしてもお主に話しておきたかった事があるのにゃ。」

「ファルコン、突然何を言い出すんだ。」

「この国の王であるお主には、知る権利がある。」

「今はそんな事よりも、自分の体を」

「いいのにゃ。自分の体は自分が一番わかっているのにゃ。」

「それでも・・・」


残酷な戦争を平和へと導いた英雄の最期の言葉。

息絶え絶えに語る内容がどんなモノなのか。

どんな話であれ、最期の話だ。

そう思った国王は、涙を堪えながらゆっくりと語り出す猫の言葉に耳を傾けた。


「あぁ、わかった。それで話とはなんだ。」

「あの戦争は、偶然じゃなかったにゃ。」

「・・・それはどういう事だ。」


もしかすると、歴史が覆す何かなのだろうか。

そう感じた国王は、生唾を飲み込んだ。


「戦争が始まる前、おいらのご先祖様はこの国でとっても裕福な暮らしをしていたらしいのにゃ。でも、そんな暮らしは長く続かなかったにゃ。」

「何があったんだ。」

「おいらもまだその時は生まれてにゃかったから、お父ちゃんから聞いた話だにゃ。

実は、この話は誰にも言ってはいけないとされている極秘事項なのにゃ。」

「そんな大事を話してしまっていいのか?」

「いいのにゃ。オイラは子孫を残す事が出来なかったにゃ。ゴホッゴホッゴホッ

だから、これで長寿猫は絶滅するにゃ。

だから、しゃべっても誰も怒らないにゃ。ゴホッゴホッゴホッ」

「無理してしゃべらなくてもいいんだ。すぐ良くなるから。」

「だから自分の体は自分が一番わかってるって言ってるにゃ。」

「わかった。続けてくれ。」

「あの戦争は、ご先祖様の秘密を隠すための戦争だったにゃ。」

「!! 」

「オイラのご先祖様は、この国の当時の王女様ととっても仲良しだったのにゃ。

ある日、その王女様が大事していたプリンをこっそり食べてしまったのにゃ。」

「プリン?今はそんな話」

「まぁ、黙って聞くにゃ。」

「あ、あぁ。」

「食べた後に怒られる事を察知したご先祖様は、偽プリンを即席で作ったのにゃ。

で、そのプリンは大々的に披かれる外交パーティーで出されるプリンだったのにゃ。その事を知ったご先祖様は慌てたけど、もう遅かったのにゃ。

パーティーの途中、そのプリンを口にした王女様はあまりのまずさに大勢の前で胃の中身全部を吐き出し醜態をさらしてしまったのにゃ。犯人を必ず探し出すと激怒した王女様にご先祖様は当時敵対行為が噂されていた国の仕業とウソをついたのにゃ。それがきっかけで戦争が始まったのにゃ。」

「それって・・・」

「そうにゃ。あの手この手で戦争を裏から操ったご主人様だけど、結局戦場の流れ弾で死亡。その後、ご先祖の子供が後を継いで裏から戦争の実権を握ったにゃ。」

「そんな事が・・・」

「その後は、巡り巡ってオイラもその戦争の舵取りを引き継ぐことになったにゃ。

けど、途中で飽きたから戦争やめさせたのにゃ。」

「え・・・?お前達一族が・・・」

「ふっふっふ・・・そんなに見つめるなにゃ。

こんなカラダじゃ、褒めても何にもでないにゃ。」

「え・・・いや・・・」

「あとは、天使のお迎えを待つだけだにゃ。」

「ちょっと待てよ!」

「皆まで言うなにゃ。感謝の賛美をもらえるほどの事はしてないにゃ。」

「そうじゃなくて」

「お主との日々、楽しかった・・・にゃ・・・

あと、お主の大事していたプリン、あれもオイラが美味しく頂いたにゃ。

でも、偽プリンは作らなかった・・・にゃ・・・」

「ファルコン!ファルコーーーン!!

そんな話は、ちゃんと墓場まで持ってけよーーーー!!!」


複雑な感情の国王を残し、猫はそのまま息をすることなく眠るように死んでいった。

その後、長岐に渡り続いた戦争はプリン戦争と名付けられ、後世に語り継がれていったのだった。

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名作のその後の物語 風見☆渚 @kazami_nagisa

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