墨の香りのおばあちゃん

和登

墨の香りのおばあちゃん

ガラナ入り炭酸ジュースとハラスにぎり

列車の道のりは少しながい


街をでて牧場に畑に山に森

いつものきぶんは旅きぶんに

出かける前のことなんて

泡と一緒にはじかせ消そう


自然の中を列車は進む

歴史と知恵が進ませている

当然のように進ませている


吹きさらしのホーム風避け付きのエスカレーター

到着駅は街より寒い


降りると目につく郷土土産は

甘く上品な香りを放つ

来るたび新しくなるそれらをじっとみて

あとの楽しみであると思い直す


駅西口を出たならば

あとは真っ直ぐ流れでつける

東口から出た時の

気付きもどるまでの半刻は忘れない


御歳88歳のおばあちゃん

平家住まいの一人暮らし


おばあちゃん家は大きな通りの少し奥

車がしっかり三台入る駐車場

そこを抜ければ漬物倉庫

続けてガラス張りの温室廊下

外の寒さもなんのその

アロエと菊が仲良くしている


玄関までのスロープも

犬にカエルにハリネズミ

猫にキツネにコロボックル

置物の動物園が開園中


キンコンコーンキンコンコーン

あらいらっしゃい寒かったでしょ

トントントコトン

わたしは靴脱ぎ手洗いに

おばあちゃんは台所へコーヒーを汲みに

さっき入れたばかりだから少し熱いよ

青地に草模様の描かれたコーヒー皿

一緒に郷土土産も出てきてる

やっぱりさっきのもってたか

しっとりとした甘さとほんのり苦み


昨日もね曾孫ちゃんたち来たんだよ

やーやーおばあちゃんファミコンで遊べるかって

年寄りの家にそんなハイカラなものがあるかいって

でもあるんだよねわたしがつけたし

やーやーやー賑やかだったわ


先週ね友達と温泉に行ったらば

みんなカラオケをしないからね

まずは一曲って歌ったんだ下手だけどね

そしたらねみんながぞろぞろ歌うんです

まーまー自分らのほうが上手いんだって

楽しそうだねえ


はーはーはと笑っているおばあちゃん

楽しかった思い出をいっぱいもってて

頼んでも頼まなくても話してくれる


なんでこんなにお客がくるのか

不思議だと聞いてみたなら笑って言った

好きなことペラペラペラと喋ってるだけ

こっちも楽で相手も楽なんでしょね

コーヒーくらいしか出ないけど儲かりますよ

はーはーあはは


夕ご飯はいいのかい

おやつたくさんで帰るまで大丈夫だよ

玄関の壁に掛け軸「破顔一笑」

おばあちゃんの字ちから強い字


御歳88歳のおばあちゃん

みんなが好いていてわたしも好いている

墨の香りのおばあちゃん

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墨の香りのおばあちゃん 和登 @ironmarto

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