12 悲恋、物語る
「
窓越しに、手にしていた物を奏さんに渡してから、
「おう、判ってるって」
奏さんは受け取った物を、
「こっちはどうする?」
横断幕の
「それは、そうだねぇ、どうしようか……念のため、雲大寺の
隼人が言うと、
「んだな、いったんは
奏さんが事も無げに言う。霊体が二体? 聞いただけでも腰が抜けそうだ。
「二体の霊体って、なんだったの?」
隼人はチラリと僕を見ただけで
「先に車に行ってる。奏ちゃん、頼むね」
と、ブッシュの迷路に入っていく。
「バン、さっきお城の姫君の悲恋を話したじゃないか」
朔と協力して横断幕を巻き取りながら奏さんが言う。
「花嫁はその姫君。翌日の婚礼のための衣装を若武者のために着ていたんだ。自分が
若武者に想いを寄せるのは姫君だけじゃなかった。姫君の
侍女は姫に言った。若武者の
「ところが、皮肉なことにその侍女を、愛する若武者が殺してしまった」
もう若武者のもとにはいけない、姫の
「だけどそう簡単に、恋心は消せないんだな」
姫君は
「もちろん侍女は若武者を恨んじゃいない。それは姫も知っていた。でも、まぁ、そのままじゃ姫の気が済まなかったんだな、きっと」
満月の夜になると二人は月から抜け出して、若武者の姿を探し求めて地上を駆け巡る。だが、首のない侍女には若武者が見つけられない。
「姫君も、若武者を見つけたところで殺す覚悟ができていたのか怪しいもんだ」
奏さんは、横断幕を巻き終わっていた。
「こないだ雲大寺に預けた
侍女の顔に十二単を着せて描いた絵だ。何かの
「首なし馬がこの辺りを駆けまわるようになったのはそれからだ」
絵に憑りついた怨霊の怨みにリンクしたと隼人は推測した。だから隼人はまず、あの衝立を供養することにした。
思った通り、供養されたことで絵に顔が戻り、侍女の首に戻る事が出来た。それがさっきの出来事だ。供養の後、初めて首なし馬が地上に降りて、自分に首が戻ったと知ったんだ。
「ま、そう言う事だよ」
横断幕を奏さんが抱え、朔が掛軸の入った桐箱を運んだ。
「ねぇ、
車に向かう道すがら
「蓑借り婆はついでだな。朔が運んでる掛軸をあの婆さんは
「そっかぁ……で、頬撫ぜは?」
「あれは妖怪『小袖』の情報を聞くために会いに行った。小袖から手が伸びる妖怪―― 妖怪と言うより怨霊なんだがな」
車の荷台に横断幕と、朔から受け取った桐箱も積み込みながら奏さんが言った。
「ほら早く。何のんびりしてるんだよっ?」
とっくに車に乗っていた隼人が怒りだす。
「みんな、早く乗りなよ! ボクを
「怒んないでよ、隼人。あたしが隣に座ってあげるから」
「だめ! ボクの隣はバンちゃんって決まってる!」
隼人は
国道16号を南下して、129号線に入る。
サザンビーチだ
昼間なら渋滞する道もスイスイで、それでもやっぱり車も人影も絶えない。24時間営業の店も点在している。海を見ると深夜だと言うのに砂浜を散歩する人がいる。
目的地の
僕たちが採ったルートとは
そんな由北ヶ浜で、隼人は何をしようと言うのだろう。
駐車場で車を停めると奏さんが
「隼人、着いたぞ」
と、隼人を起こす。
僕の背中に顔を埋めたまま、
「夜明けまであとどれくらい?」
と隼人が問う。
「1時間ってところだな」
「そう……それじゃ少し海岸を歩く。場所を決めたら呼ぶよ。バンちゃんとミチルは一緒に来て」
車を降りると
「ここからじゃ日の出は見えないみたいだね」
ぽつりと隼人が言った。
東はすぐそこに、鎌倉幕府を守った山々が
「ここだ。見つけた」
と、足を止めた。
「ミチル、奏ちゃんと朔を呼んできて。桐箱を忘れないでね、って」
「うぃ、隼人。すぐ呼んでくるよ」
満が嬉しそうに走り出す。朔も満もやたらと走るのが好きだ。走りながら、笑い転げているときもある。やっぱり犬っころだ、と、こっそり僕は思っていた。
すぐに奏さんと朔、満が姿を見せた。ゆっくり歩いているのは、奏さんが桐箱を抱えていたからだろう。大事な桐箱を落としでもしたら大変だ。
日の出までもうすぐだ。空は白み始めている。
「太陽の光が届けばボクの時間だ。始めよう」
太陽神ホルス、隼人がまっすぐ海を見てそう言った。
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