3 目玉、合致する
「妖怪の正体は判ってる。『
本来、毎年決まった日に人家を襲い、
「土着の妖怪で、年に一日しか仕事をしないはずなのに、
なるほど、人間を
「
それであの洋館に退避させたってわけか。それにしても菩提寺? 紅美那さんのご実家は名家なのかもしれない。
「まぁ、ボクの見解はちょっと違うんだけど、それは後でいいや。ターゲットを見つけられればはっきりする」
そう言うと、隼人は池を見た。それから、
「紅美那さんはここで待ってて。
それじゃ、行くよ、と立ち上がった。
行くよ、って、どこに行くんだろう? 隼人は公園から出るつもりはないようだ。この公園のどこかに、妖怪が
池の
ふれあい動物園を
「稲?」
隼人が僕に聞く。
「そうだね、稲だね」
「……こっぽっち作っても、茶碗何杯にもならない」
「そうだね、子どもたちに稲作を……」
「あ! カエル!」
僕の説明なんか、隼人、実は聞いちゃいない。カエルを追って、水田の奥のほうに続く道を行く。って……カエルって、どこさ? 僕を見て
「いっくよぉ~」
と、
途中で隼人が振り返る。
「ミチル! バンちゃんを
隼人、少しは僕の事、
「バンちゃんを虐めていいのはボクだけだ!」
考えちゃいなんだね……
「朔、防犯カメラ、大丈夫そう?」
「……問題なし。ここなら死角だ」
「じゃあ、行こう」
サングラスを外すと、僕を引っ張って、隼人が山に分け入った。
隼人の右目は全てを焼き尽くす『ラーの目』で、左は全てを見通す『ウジャトの目』だ。ウジャトの目を使って
すっかり山に囲まれ、どちらに行けば元の道に戻れるか判らなくなりそうな頃、隼人が足を止めた。
「いた。ウジャトの目を使うまでもなかったね。朔にはよく見えてるだろ?……バンちゃん、何かあったら退避、よろしく。なんか、大丈夫そうだけど」
なんか大丈夫、って何が大丈夫なんだい、隼人。戸惑う僕とは裏腹に、朔はニヤリと頷く。
ちなみに、僕の武器は瞬間移動、と言ってもせいぜい10メートル。だけど割とこれ、役に立つ。障害物があっても問題なく移動できる。跳躍も可能だがこっちは障害物を避けられない。木が乱立する山の中では水平移動のほうが有効だ。ついでに言うが、至近距離で相手の目を覗きこめれば、意のままに操る事も僕には可能だ。
で、右目のラーの目しか、これと言って武器にならない隼人は、戦闘能力ゼロと言っても過言じゃない。ちょっとした魔法みたいなことはできるみたいだけど、戦闘の役には立たない。
ラーの目にしたって全てを焼き尽くしちゃうんじゃ、こんなところで使ったら山火事になる上、自分たちまで黒焦げだ。だからか、隼人がラーの目を使うところを僕でさえ見たことがない。
危険が予測できる時、隼人は必ず僕を
「朔、行けそうか?」
と、隼人が問えば
「フン、楽勝だな。どうする? ヤるか? 捕らえるか?」
と、朔が答える。
「生け捕りで……」
「なら、満、行け」
朔に命じられた満がキョトンとする。
人狼の朔は頼もしい戦闘員だ。
「行けって、どこによぉ?」
弟の満は朔に比べれば戦闘能力が低い。僕にさえ喧嘩じゃ勝てない。だけど
チッっと舌打ちして、朔が満に何か
「あれね、あの妖怪ね。判った、任せて」
ん? あの妖怪? あの……?
僕の様子に隼人がクスリと笑う。
「この山、妖怪
「妖怪砦?」
「ここから見えるだけでも5体の妖怪がいる。ここに来るまでには何体いたかな。数えてないや。バンちゃんには見えないかもね」
「えぇえぇえ? 襲ってこないのか?」
「バンちゃんだけなら襲ってくるかもだけど、ボクや人狼を襲う気はないみたい。ほら、ボクや人狼兄弟は『神』だから。ヤツら、神には弱いみたい。ひれ伏してるよ。ウジャトの目が放つ光が怖いのかもね」
……フン、どうせ僕はただの『お化け』だよ。
満が木立に入り込み、下草がこんもりと茂った場所で足を止める。少し
「ミチル、こっちに来て姿を現せと、伝えて」
僕の横で隼人が声を掛ける。隼人の目からはもう光が出ていない。
すると、すぐそこに圧を感じる。そこだけ空気が重くなった感じだ。見ているとどんどん重くなって、やがて小柄なお
「
しわがれた声が聞こえる。
「この山の向こうの民家に
婆さんの言葉使いに、隼人、つい釣られちゃってる。朔が笑いを
「あの屋敷には我が身と同じ
「……その妖に何用ぞ?」
「
―― 妖怪って山に住んでいるものなんだ? そして体を横にして眠るんだ……
「かの妖は人に添い、人に守られあの
「ふーーーん、それで夜な夜なあの家の門を
隼人、口調が元に戻った。きっと面倒くさくなったんだ。
「さようで!」
お婆ちゃんが急に顔をあげ、隼人を見た。
うひゃあ、一つ目じゃん。通常ならふたつ並んでいるのがくっついたか、って程、大きな目が物欲しそうにギョロリと僕を見る。
隼人が三つ目入道の奏さんを連れてこない理由はこれか。婆さんに、奏さんの3個目の目を欲しがられると
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