2 美女、微笑む
「あー……
「ミチル、気にしない、気にしない。いっぱいあるし、あ、
一番楽しんでいるのは
もちろん、気配り上手の満がさり気なく彼女の皿に入れた料理はちゃんと食べている。おちょぼ口を小さくあけて、食べる仕種も静かで上品だ。
今日の集合場所、『
「おまたせ。で……こちらが
隼人の紹介をぼんやり聞きながら、僕と双子は彼女の顔に見取れてしまった。どこをどう見れば、隼人の説明になるんだ? えぇと、隼人はなんて言ったっけ? 笑うとまん丸な目が溶けて、横に伸びた口がビロン、だったっけ? たしか、そんな感じだ。
やや瓜実顔の色白美人、彼女を一言で言えばそんな感じ。僕が知っている限り、初めて隼人が美人を連れてきた。美人と言うのは、あくまで僕の主観だけれど。
腰まで届く黒髪を低めの位置で一つに束ね、
彼女は、隼人に紹介されると、ゆっくりとした動作で深々とお辞儀した。そして、
彼女の目は
でも、この微笑は……アルカイックスマイル? うーーん、ちょっと違うかもしれない。何しろ不思議な雰囲気の持ち主だ。
服も明らかに和服をイメージしたデザインで、似合っているのだけど、古風と言うか、垢抜けないと言うか、ま、隼人は怒るかも知れないけど、変わっていると言えば変わっている。
満だけは彼女のムードに飲まれることなく、いつも通りアッケラカンと、
「ささ、クミナちゃん、乗って、乗って」
と、彼女にボックスワゴンの後部シートに座るよう勧め、
「ほれ、隼人!」
と、ボケっとしている隼人をその隣に押し込んだ。
朔が二列目の奥に座り、続いて僕が後部シート、隼人の隣に座ろうとして、満に朔の隣に引っ張られる。
「気を利かせろ」
ボソッと朔が僕の耳元で
満が助手席に座り、奏さんが乗り込めば、車は二股川に向かって走り出す。
ここ八王子から圏央道、東名高速と乗りついて、大きな渋滞がなければ、ざっと一時間と少しで着く。
圏央道に乗り入れた頃、僕はこの席割りが失敗だったと思い知る。後ろの二人、隼人と彼女が言葉を交わす気配がまったくない。もともと無口な朔は窓の外を眺めているだけだし、ムードメーカーの満は奏さん相手に、ひっきりなしに喋っていて、後ろの僕たちにも話しかけようとしたが
「危ねぇから、おとなしく座ってろ! グチャグチャ言うな、うっさい!」
と、奏さんに一喝されて小さくなった。
僕はと言えば、車に乗るとすぐ眠くなる隼人が心配で落ち着かない。隼人のヤツ、眠くなると背中に顔を埋めたがって、
盗み見すると、いつの間にか隼人は窓に寄っていて、彼女との間は余裕で一人座れるほど空いている。足を組み、立てた肘で顎を支え、グラサンで見えない目は開けているのか閉じているのか? 彼女の様子も知りたいところだが、僕のところから彼女を見るには身を乗り出さなきゃ無理そうだ。
「ほっとけ」
モジモジ動き回る僕に肘打ちをして、朔がボソっと僕にだけ聞こえる声で
お
二股川こども自然園は広々とした公園だったが、隼人が予約したバーベキュー広場は駐車場から近く便利な場所だった。案内図を見ると、ヤギやウサギ、モルモットなどの小動物がいる『ふれあい動物園』があったり、大きな池 ―― 高台にある駐車場からよく見える―― やアスレチック公園、奥にはザリガニ釣りができる沢も配置されている。梅園、桜山という表記もある。もともとあった里山と池を活かして作った公園で、聞くと地元では、公園ができる前から桜の名所なのだそうだ。
荷物を
二人が何か言葉を交わす。すると紅美那さんが隼人に寄りかかり、隼人がその肩を抱いた。
……隼人――やめておけ、どうせまた泣くんだから。そして泣かせることになるんだから。
奏さんの移動に気づいた隼人が、彼女と手を繋いで広場に向かって行った――
バーベキューもひと段落つき、売店から買ってきたソフトクリームを舐めながら、満が言う。
「へぇ……池の向こうの山を越えたところにある家に住んでいたんだ?」
紅美那さんが、そっと頷く。
「今も家族はそこの家に住んでいるんだけど、彼女はあの洋館に移っているんだ」
と、続けたのは隼人だ。
「
自分の分の肉を焼きながら奏さんが口を挟む。奏さんはいつも、みんなのお腹が満足するのを見届けてから食事する。たとえ食べ尽されて、自分の分がなくなっていても、美味そうに食べるみんなの顔が俺のご馳走だ、と気にしない。
「それもあるけど……彼女の家には問題があってね」
「問題? なに、なに? 何が問題なの?」
無遠慮に、しかも楽し気に聞く満の背を朔が
「朔っ!」
と、怒りだす。
「うん、古い家でね……」
そんな朔と満を気にすることなく隼人が言った。
「妖怪に好かれちゃったみたいなんだ」
朔の鼻にもソフトクリームを食べさせようとしていた満、それを阻止しようとしていた朔、口元に焼けた肉を運んでいた奏さん、そして僕、が一斉に動きを止めて隼人を見た。
「もちろん退治してくれる、よね?」
やられた……これが隼人のコンちゃん、じゃなかった、魂胆か!
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