第3話 ゴルゴ13は笑っている
20年くらい前新しい部署に配属された。
着任してその部署のフロアに行くと女性職員が僕の机のある「島(チームの机が集まっているところ)」に案内してくれた。
島には男が一人だけ坐っていた。僕が近づくとその男はさっと立ち上がった。俊敏と言っていいような速さ。
「ゴルゴがいる!」僕は思った。髪型もゴルゴ13にそっくりだし、何しろ目つきが鋭い。ちょっと緊張した。
男は僕の顔を鋭い目つきで見つめた。僕も見つめ返した。
と、男はにっと歯を見せて笑った。
「ゴルゴが笑った!」僕はびっくりした。
男はやや甲高い大きな声で「やあいらっしゃい!お待ちしてました。一緒に頑張りましょう!」と一気に言った。
随分愛想のいいゴルゴだ。
男はUと名乗った。半月ほど前に彼も着任したという。
「机の引き出しに必要な文房具入れときましたよ」とUはにこやかに言った。ずいぶん親切なゴルゴだ。
その日から僕はUと机を並べて働くことになった。
このチームの上司はものすごく偏屈な人間で「俺はこの仕事はやる気がしない。いつ辞めてもいい。お前らでちゃんとやっとけ!」と言い放っていた。
Uはいつもこの上司に怒られていた。というより虐められていた。今ならパワハラだ。
ただ、Uの言うことやることがピントがずれているのも事実だった。チームの他のメンバーからUは東大卒と聞いた。僕は他にも東大卒の奇想天外、奇妙奇天烈な奴らをたくさん知っていたからそれほど驚かなかったけれど、Uも中々のものだった。ただ人は良かった。親切ではあった。
Uはあるキャビネットに雑然と入れられていた過去の資料を黙々と毎日整理していた。上司の指示ではない。自発的にやっていた。
僕は整理整頓が苦手な方なので感心していた。UはUなりに埋もれている資料を活かそうとしているのだと思って、ちょっと見直した。
Uはカテゴリー別に資料を分類し、さらに年月順にファイリングしていた。目次を作り、資料にタグをつけていた。
毎日黙々と作業していた。
ある日僕がPCでレポートを作成している時、Uが僕の名前を呼んだ。
隣のUを見た。
Uはゴルゴ13の鋭い目つきで僕を見つめた。そして口を開いた。
「私は資料をファイリングしてます。だいぶ片付きました」
僕は言った「ええ、おかげでキャビネットもすっきりしましたね。ありがとうございます」。
Uは一層鋭い目つきで僕を見た。何か気に障ることを言って怒らしちゃったかな、ちょっと僕は不安になった。
Uは鋭い目つきのまま元気よく言った。
「ファイリングするのはいいんですけどね、私はこの資料を何に使えばいいんだかさっぱりわからないんですよ!」
僕は思わず「何に使うか分からないでファイリングしてたんですか?」と口にしてしまった。あんまりびっくりしたから。
「そうなんですよ!さっぱりわからないんですよ。どうしましょうか?」
ゴルゴは一瞬笑顔になって歯肉を見せた。が、また鋭い目つきに戻って僕を見た。
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