米寿祝い
郷野すみれ
米寿祝い
今年はおじいちゃんは『ベージュ』らしい。
「あのさ、ベージュって何?」
僕はお母さんに尋ねる。
「おじいちゃん、今年は88になるから、それをベージュって言うんだよ」
お母さんは僕の疑問に答えてくれた。
「なんでその色なの? だってどっちかって言うと白髪とかでホワイトとかグレーっぽいのに」
お母さんは不思議そうな顔をした後、何かに大家経ったようにうなずいた。
「そっちの色もベージュじゃなくて、米に寿って書いて米寿って言うんだよ」
「どうしてお米なの?」
「88を漢字で書くと『米』の漢字に見えるからだったはず。昔の人が考えたのよ」
昔の人は変なことも考えるものだ。
***
おじいちゃんのベージュのお祝いの当日。
いいご飯屋さんでお祝いと言うことで、僕はちょっと窮屈なスーツを着せられていた。小学校の卒業式用に買ったスーツだけど、ちょっと前から着てるので少しきつい。大きくなってるけど、果たして来年の卒業式で着られるのだろうか。
「おじいちゃんおめでとう」
叔母さんがお祝いを述べて花束を渡す。大人たちがお酒を飲んで盛り上がってきた頃に、叔父さんがおじいちゃんにこんなことを質問した。
「今までの人生の中で印象に残っていることはなんですか?」
「ちょうど淳太くらいの歳の頃、港町だったから戦争で、船から銃撃されたことかな。バババと音が鳴って、低い姿勢になって避けた。あの頃は学校で勉強ではなく武器を作っていたんだ。あと数年したら徴兵されていただろうな」
僕の名前を出されたのと、今までテレビの中だけと思っていた戦争の話題が一気に身近になって顔を弾かれたように上げる。
もしおじいちゃんがそこの地域で死んじゃっていたら、もしくは徴兵されていたら今おじいちゃんの隣で穏やかな笑顔でら笑ってるおばあちゃんと会うこともなく、お母さんも生まれず、僕も存在しなかったのかと思うと不思議な気持ちがした。
米寿祝い 郷野すみれ @satono_sumire
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