第6章 理想の人と冬
「最近寒くなってきたね」
そうでもないよ。だってこの前紅葉見たじゃない。そんなすぐ寒くなるの?
「あれから結構経ってると思うけどな〜」
そうなのかな?私わかんないや。
「春来はいつもそんな感じだよね。」
ここにいると何日経ったかもよくわかんなくなっちゃうんだよね。
「そうなんだね、次で最後だよ春来!」
なんのことだろう。最後?
「そうだよ、マフラー巻いて雪見るんでしょ??」
まだ覚えてたんだ、いいよそんなの。雪なんてここじゃ滅多に降らないんだからさ。それに私は毎日白い壁に囲まれてるからさ。
「雪と壁は全然違うよ、それに今日は雪が降るんだよ。」
降らないよ。そんな都合のいいことないよさすがに。
「春来は疑い深いなあ、僕が降るって言ったら降るんだよ。ほら春来!一緒に見に行こう」
行けないよ私は、この部屋から出れないんだもん。
「それにね、春来。冬には星も見れるんだよ。こんな話知ってる?マシュマロ座って言って見た人を幸せにするっていう伝説の星座!見てみたくない?」
そんなの御伽噺でしょ。高校生にもなってそんなの信じてるわけないよ。恥ずかしいよ。
「恥ずかしくなんかないよ。だって本当にあるもの。」
葵くんはロマンチストなのね。
「ばかにしてるね!春来ひどい」
そんなことないよ。
「じゃあ僕を信じて」
それはまた別だよね。
「これが最後だよ」
いきなり葵が真面目な顔になった。
「僕のこと信じてくれる?」
私は静かに頷いた。すると葵は微笑んでベッドに座っていた私の両手をそっと引っ張る。
「春来、俺が目を開けていいって言うまで絶対開けちゃだめだよ?わかった?」
わかった。開けない。私は静かに目を閉じた。それからそんなに経たない内に葵の声が聞こえた。
「春来!春来!もういいよ!目を開けて!」
え、なんで外に、なんで屋上にいるの。
「凄いでしょ!見つからないように連れて来れたよ!」
いやさすがにそれは無理があるよ。でも嬉しい。葵はすごいね。
「春来が喜ぶなら俺はなんだってするよ。ほらマフラーだよ。」
マフラーも持ってきてくれたの?
「だって春来が欲しいって言ったから。それにほら!雪が降ってるから寒いでしょ?」
私は上を見上げた。本当に、葵が言った通り雪が降っていた。白い花達が私の額を濡らしていた。葵は私の手を握った。私もその手を握り返した。
「雪って綺麗なんだね。」
そうだよ、雪は特別なんだよ。私は冬が一番好きなの。
「春来、見てよ!星が沢山!」
私が再び空を見上げるとそこには、満天の星空が広がっていた。
綺麗。プラネタリウムみたい。
「春来」
なに?
ふと横を見たとき、葵の手が私の手から離れていった。そして葵は星たちに吸い込まれるようにして空に高くに上がっていったのだ。信じ難い光景に私は何も言えず、ただ葵の事を見上げていた。
「ほら!春来。マシュマロ座は本当だったでしょ?」
私は柵を飛び越え、空へ向かって思い切りジャンプした。
願いを叶える星座 流花 @Rina_integral
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