第4章 理想の人と夏

今日も変わらない。ベッドしかない部屋。届かない天井。優しい看護師さん。



「退屈?」


そう言ってベッドに寝転ぶ私の顔にぐっと近づいてきた。今日も葵が私の部屋にいる。いつからだったか思い出せないのだけれど。気づいた時にはそれが当たり前になっていた。目、おっきい。いつも寝癖なくて羨ましいな、まつげ長い。


「恥ずかしいからあんまり褒めないでくれる?」


全く照れてないくせに。いつも余裕な顔しててむかつく。私も言いたい。あんまり見つめないでくれる?




「ああ、ごめんごめん。あ、そういえばさ、廊下でおばさんたちが話してたんだけど、春来って歌歌うの?今度聞かせてよ。」


歌?私歌なんて、歌わないよ。というか歌えないよ。


「え、そうなの?」


うん。




「ねえ、僕春来にずっと聞きたいことがあったんだ」


なに?


「春来が前に言ってた好きな人と花火が見たいって」



ああ、言ったねそんなこと。でももう見れないよ。花火は空高くに咲く花だから。ここからじゃ見れないんだよ。



「ねえ、好きな人ってなに?だれ?」


そんなの葵に決まってるじゃん。他の人知らないし。


「僕のどこがすきなの?」


顔。


「だよね、春来、花火見ようよ。」


だから見れないって、どうやって見るのよ、無理だよ。


「見れるよ!春来、ほら!」


葵は両手を大きく広げて、カーテンを勢いよく開けた。そこには、大きな花が空いっぱいに咲いていたのだ。私はすぐに窓のそばに駆け寄った。葵の手が私の首の前を通って肩にのった。私の頭の上に顎をのせる。


「ね!見れたでしょ?」


なんで知ってたの?今日花火だって。


「毎年この時期になったら花火大会やってるの知ってたから。ここからも見えるかなってね!春来が楽しそうでよかったよ。」


すごいね、花火って綺麗だね。


「どう?好きな人と花火を見た感想教えてよ」


なんかその言い方いやだな。でも嬉しい。やりたいこと2つも叶っちゃったよ。


「それはよかった!」


ありがとう。葵。

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