第3章 才能


私は人よりも上手く歌が歌える。人よりも髪が綺麗である。人よりも顔が整っていて、人よりも上手く笑える。それらは私を『天才美少女』と呼ばせるのに十分なものだった。周りの大人たちは私のすることはなんでも応援してくれた。だから私は歌うことが大好きだった。そんな私のことをよく思わない人は少なからずいて、『可愛いだけで歌はそこまで』だとか、『春来ってリズム感ないし歌下手じゃない?』だとか、聞こえてくる声に私は耳を塞ぎたくなった。聞こえてくると言っても、実際聞こえてくるのはほんの少しの声であって、『見えない誰か』の声に私は最も恐怖を感じていたのだった。私を可愛がってくれる人達は気にしなくていいよと言ってくれたので、私は気にしないことにした。いつしか大好きな歌は仕事へと、大人たちの応援は期待へと変わっていったのに気づいた。偉い人たちの目を見るのが怖くなった。私は声が出なくなった。

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