第2話  チート能力で『エピックウェポン』が出来ちゃった日

 ドアを開け中に入るも、工具やインゴットなどの素材が棚に並んでいるだけでそれを売る店主が見当たらない。


 物を売るにしては少し無用心すぎるのでは? とか思うが、出来心で商品を持ち去ると外で鶏が追いかけてきたりするんだよね、知ってる。


 とか懐かしいことを思い出したが、実際は駄菓子屋の店番スタイルなのかもしれない。店の奥に暖簾のかかった通路があるので、そこで店主が何かをしているのだろう。


 駄目もとで声だけでもかけてみよう。返事がなければ次の鍛冶屋に向かえばいいだけだし。


「ごめんくださーい、誰かいませんかー? 売って欲しいものがあるのですが」


 ………………返事なし。


 今日は休業日なのかもしれない。さっさと次の店へ向かおう。


 ドアに手をかけ出て行こうとすると「あなたはだーれ?」と後ろから声をかけられ驚く。


 振り向くと十歳に届いているかどうか微妙なラインの、かわいらしい女の子がそこにいた。頭からポンポンと伸びた金髪のツインテールが非常に似合っている。身長は十五歳の俺のキャラより頭二個分くらい小さいかな。


 この幼い容姿で店主ってことはないはず、ここの工房の娘さんだろう。


「売って欲しいものがあるんだ。店主さんはいるかな」 


「店主? お母さんなら、大事な会合があってお家にいないの。だからユイリが代わりにお店番してるんだ、偉いでしょ? ふふん」


 胸をそらせ、どや顔を見せるユイリちゃんカワイイ。


 本サービスが始まったら一部の方々から絶大な人気を得るだろう。 


「偉いねぇ、ユイリちゃん」


 目の前の女の子のかわいさもさることながら、もっと驚くべきことに気づいた。


 キャラクターと会話がなりたっているのだ。


 すげーなこのゲーム。どういう仕組みなんだろう、ディープラーニングとかそんなの?


 ま、専門外のことを考えても仕方ないか。考えたところで分からないので時間の無駄だ。


 小難しいことより自分が興味わいたのは、ユイリちゃんの声を当てている声優さんの事だ。


 俺の好きな声質と演技なのだが、深夜アニメやゲームで聞いたことがない。


 自分のアンテナに引っ掛からないってことはデビューしたての新人さんかな? 終わったらカミシマ君に聞いてみよう。


「何を買いに来たの?」


「お兄ちゃん、鉄鉱石を売って欲しいんだけど、ある?」


 序盤で作れる武具で一番必要な素材は鉄鉱石。合成素材をサーチしているときにやたら目に付いた素材だった。自分が今までやってきたゲームと一緒で、ここでも定番素材なのだ。


「あるけど……」


「あるけど?」


「お客さんが来たら、帰ってくるまで待っていてもらえって、お母さんが」


「うん? ユイリちゃんはお店番しているんだよね?」


「そうだよ……。あ! そういえばお兄ちゃん、お外暑かったでしょ?」


 カミシマ君と飲みすぎたからなーまだ体がポカポカしている。


 飲み過ぎはよくないねって、ユイリちゃん話題を変え過ぎじゃない?


「う、うん?」


「お飲み物出すから奥でゆっくりしようよ」


 なんでか知らないが、ユイリちゃんはここで俺を引き止めたいらしい。願いどおりこのまま待つべきか迷うな……。時間がなくなる前に次の鍛冶屋に行ったほうがいいかも――


 チラっとユイリちゃんを見ると、上目使いでウルウルさせた瞳をこちらに向け、露骨な引き止め工作に入っていた。


 まぁね? 小動物のようにかわいらしい女の子の笑顔を曇らせるのは男としてどうかと思うわけ。などと言い訳を思いつき「カミシマ君、あとどのくらいゲームやってて大丈夫?」と外へ問う。


 ……………………あれ? 返事がない。


 お互いアホみたいに飲んだしトイレにでも行っているのだろうか? だとするとカウンター席でスーツ姿のおっさんが一人で変なもんかぶって座っているわけで……なんという悲惨な光景。  


「誰とお話してるの?」


「いや、こっちのお話」 


「そっかぁ、お兄ちゃんここで立ったままじゃつらいでしょ? 一緒に台所にいこう?」


 ここは小さな女の子の優しさに甘えておこう。それに食事描写がどこまで作りこまれているのか興味がわいた。


「いいけど、お母さんが戻ってくるまでだからね?」


「うんっ!」


 喜びのジャンプでユイリちゃんのツインテールがゆらゆらと揺れ、スカートがヒラヒラとはためいた。このモーションのあざとさに開発者の本気を見た。ガチな人がいるなこれは……。


「今日はもうお店閉めちゃうね、お兄ちゃんは奥の台所で待っていて」


 何故このタイミングでお店を閉めるのか……だいぶ気になったが黙ってユイリちゃんのいうことを聞いて奥へ向かった。


 道なりに進んで目についた場所が台所だった。


 大きめの木製テーブルに揃いの椅子が八脚ある。家族と職人の分かな? ユイリちゃん以外誰もいないのが気になるが出かけているか、未実装なだけかもしれない。


「はい、お水」


 店を閉め終え、戻ってきたユイリちゃんからお水をもらう。


「ありがとう」


 椅子に座り一気に水を飲み干す。『冷たい水』がのどを通り過ぎていった。アルコールばっかり飲んでいたから心地よい。


「今日はユイリがお昼ご飯の当番なんだぁ」


「へぇ、お店の手伝いもしているのに偉いね」


「えへへ」


 ユイリちゃんの笑顔に危うく父性が芽生えそうになった。いかんいかん、ゲームだぞこれ。


「う~ん」


 まな板の上に鶏肉や野菜を用意したユイリちゃんがうなる。


「どうしたの?」


「お母さん、ユイリの包丁研いでおくって言ってたのに研いでないの! これじゃお肉ぜんぜん切れないよ」


 ユイリちゃんのためにカスタムしたであろう小ぶりの包丁は、確かに刃の部分がガタついて見えた。


 そのまま使い続けたら指に怪我をしてしまうかもしれない。手助けしなければ。


「それくらいだったら俺できるし、やろっか?」


「本当!? でも、お客さんにこんな事頼んだらユイリ後でお母さんに怒られちゃう……」


 シュンとしてしまったユイリちゃんを励ますために殊更愛想よく


「休憩させてもらってるし、そのお礼ってことで。まぁ任せてよ」と言った。


 一人暮らしが長いこともあって家事は一通りこなせる。包丁研ぎもその中で培った技術の一つだ。薄給の人間が、刃こぼれするたびに新しいのを買ってなんかいられないしね。


「砥石ある?」


「これ~」


 鍛冶屋さんだけあってか、様々な種類の砥石がある。


 その中から自分の家で使っていたのと同じ感触の奴を選び、作業へ移った。


 無心で研いでいく。


 その際出るこの『シャーシャ』音が好きでやっているところがあるわ。はぁ落ち着く。


 シャーシャーと無心にやること数分。あるタイミングで音がスースーと変わってきていた。この音が変わっていく感じが好きだ。達成感があるし。 


 色んな角度で光に照らし、表面を確認すると包丁が持つ本来の輝きが戻っていた。腰に縛ってあるアイテムと通貨を入れた布袋も、強烈な光を放ち俺を祝福してくれているみたいだ。


「よし、我ながら完璧な出来栄え!」


 満足のいく出来だったので、つい大声を出してしまった。寂しい一人暮らしの弊害である。


===============


 システムメッセージ



 開発者権限デバッグモード


 鍛冶スキルが発動しました。


 error error error error error error error error


 error error error error error error error error


 error error error error error error error error


 error error error error error error error error


 error error error error error error error error


 error error error error error error error error




 DATA ID:3201


 カグツチアキラの精霊合成に伴い『火のピクシーストーン』をロストしました。


 ワールド内3本目のエピックウェポンが誕生しました。



 エピックウェポン:ユイリ愛用包丁+99


 銘 カグツチアキラ


 装備可能レベル1


 (ユイリ及び近親者専用装備:Lv毎のステータス補正を無効)


 STR+50


 DEX+50


 LUC+50


 INT+50


 クイック詠唱+100


 対魔物火属性効果




特殊効果 


 装備するキャラに以下のパッシブスキルが付与されます。


 料理補助IV


 調理時指を切らない


 殺菌効果絶大アップ


 フラグ回避IV


 不幸なフラグを全回避する


 ゴブリンキラーIV


 ゴブリンキラー効果絶大アップ


 ゴブリン系全般に対し特攻を得る


 クリティカル+100 回避+100


 家内安全IV


 家内安全効果絶大アップ


 アイテムドロップ効果絶大アップ


 範囲工房及び住居内






 魔王にエピックウェポンとカグツチアキラの存在が知られました。






 魔王軍のヘイト値が30上がりました。


 魔王軍が侵攻準備を始めました。


===============

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る