限界突破の鍛冶スキル999、俺にしか作れない最強武器『エピックウェポン』を持った仲間がどんな強敵も簡単に倒すので《魔王》も《未来の嫁たち》も俺に興味津々なようです

安部けい

第1話 開発者公認で出来上がったのは『鍛冶スキル999』のチートキャラ

カグツチアキラ

レベル1

年齢 15歳

種族 ヒューマン



生産スキル

鍛冶スキル0→999

調理スキル0→1

ステータスを変更しました。



こちらのキャラクターでよろしいでしょうか?

Yes / No



 こんなもんでいいだろ、Yesを押してっと。

「あははははっ。鍛冶スキル999て、極端なスキル振りをしたね、高坂くん」 

「あれ? ダメだった?」

 


 カミシマ君の笑い声がした方を向くが、ヘッドマウントディスプレイを装着しているのでモニター内の現実と見間違う景色が動いただけだった。

 


「いや、いいけどねぇ。本サービスではそこまで数値は上昇しないだろうなぁって。会議では生産スキルの上限は100になるって言っていたしぃ……」

 


 今やっているのは、カミシマ君の会社で作っている『VRMMO』のテストプレイ。

 キャラメイクの段階で自由に振れるスキルポイントは1000あった。生産と戦闘の初期値がどちらも一桁なので大盤振る舞いだろう。 

 


 想定外のスキル値じゃテストにならないのかもしれないが、二次会の話もちらほら聞こえ始めている。同窓会もそろそろお開きの時間のはず。



 そうなるとキャラを作り直す時間すら惜しい。カミシマ君には悪いが、このままゲームの世界へいかせてもらう事にしよう。酔っ払いのやったことなのでどうか許して欲しい。



 ちなみに、戦闘系のスキルはデフォルトのままなので、このままゲームを続けたら色々と苦労するはずだ。



 普段だったらもっと効率的なプレイが出来るように、ネットで入念に調べた上で真剣にキャラメイクするけど、今はテストプレイなので気にしない。



 それ以前に開発側のカミシマ君がいいと言ったのだから問題ないのだ。

 ゲームに集中しよう。

 


 キャラメイクが終わると自分の所属国を選ぶ画面へ進んだ。

 四国ある開始拠点から産業が発達していて、人口の多い賑やかな国『聖都グロリア』を選んだ。




 Welcome to Gloria(test play mode)


 


 よっしゃ! ゲームスタート。 

 浮遊感みたいなものを覚え、モニター内の映像が暗転すると一瞬で景色が変わった。

 この瞬間、高坂晶改め『カグツチアキラ』がゲーム内に誕生したのだ――



 ゲームの世界に降り立った俺は、まず初めに視点移動して景色を見まわした。

 街は活気に溢れ、忙しない。

 立ち止まっていたらすぐ通行人にぶつかってしまうほどのすさまじい人ごみだ。

 


 これだけの精巧なオブジェクトが多数配置されているのに、3Dゲーム特有の動作のカクツキが一切ない。

 そして、現実世界の人間と見間違うくらい精巧にモデリングされたキャラ達が、それぞれの生活を営んでいた。

 


「ほぉ~ゲームもここまで来たか」 

 上京してきたばかりのお上りさんみたいに、あたりを見回していると、視線のあったキャラ達がとまどったり、怪訝な顔をしたりと色んな反応を返してくれた。

 テストプレイの段階なのにここまで作りこんであるとは驚きだ。

 


 唐突に女性ボイスのシステムメッセージが聞こえ、クエストが指定された。

 聞き終えるとゲームの簡単な操作と、街の主要施設がわかるような配慮をされていたことがわかる。まぁこの手のゲームのお決まりパターンだ。要はチュートリアルが始まったわけ。

 


 お使い系の簡単なチュートリアルを15分ほどで終え、街の地図とギルドに加盟するための支度金をもらうと、エリア移動に制限がなくなった。

 


 支度金は『1000万ジェニー』ももらえたのだが、これもテストプレイ特典の一つだろう。露天に並んでいる焼肉の相場が500、600ジェニーなのを見るに初っ端からもらい過ぎである。このくらい給料欲しいよ……。


 

 メニュー画面が開けるようになったので早速生産コマンドを選択する。

 すると項目が二つあった。



「『精霊合成』と『通常合成』ってあるけどさ、どっちを選べばいい?」

 周りにいるキャラ達が何言ってるんだこいつ? みたいな顔をしてくるが無視無視。



「あれ? 『精霊合成』の項目出てきちゃったぁ? うわ『火のピクシーストーン』まで持ってる……まずいなぁ」

 ゲーム外から知人の声が聞こえてくると、まるで神の声みたいで不思議だった。



「ありゃ、やばい感じ?」

「うん、やばいねぇ。『ピクシーストーン』はエンドコンテンツでしか入手できないからぁ、開始時点で持ってるのは不具合だねぇ。高坂くんが鍛冶スキルあげすぎたから、バグで出てきちゃったのかも。開発に報告するからそれは絶対に使わないで」

「わかった」

 


 上げすぎた鍛冶スキルの影響で想定外のバグが出てしまった……ゲーム制作はバグとの戦いとはよく聞くけど、この忙しい年末の時期に余計な手間をかけさせたかもしれない。

 


「あはは……『聖剣シャイニングマスター』の合成スキルが一人で足りちゃってる。しかも『火のピクシーストーン』の必要数が一個で済むって不味すぎぃ……」

「本当にごめん」 

 


 内容を聞いてもなんのこっちゃわからないけど、声のトーンからして深刻なことはすぐに察することが出来た。


          

「いやいや、先に不具合が見つかってよかったよ。数値が異常だと隠しレシピまで表示されてしまうとはねぇ。ま、プレイヤーに悪用される前につぶせるからよかったよぉ」

 すぐにカチャカチャと打鍵する音が聞こえ、会話が止まる。何か作業をしているのだろう。終わるまで黙って待った。



「……よしっと。報告完了」

「仕事が速いね」

「どういたしましてぇ。それより『精霊合成』と通常合成の説明がまだだったね。二つの違いだけどぉ」

「うん」



「まず初めに『精霊合成』だけど、精霊の加護を得た『ピクシーストーン』を使って生産することで、工具や窯を使わずに『どこでも一瞬でハイクオリティなものが出来上がる』合成方法なんだぁ」

「ふむふむ」



「もちろん、合成スキルが足りていることが前提だけどねぇ。それと失敗することもあって、その時は貴重な素材をロストしたりもするよぉ」

「うへぇ」

 


 素材ロスト……う、頭が痛い。

 『精霊合成』はゲームを遊びつくした人のための廃コンテンツだなこりゃ。

 先行者をいい気持ちにさせておいて途中で『ピクシーストーン』を課金アイテムとして売り出す未来まで見えたぜ。



「そして『通常合成』は工房で窯や工具を使って行う合成方法なんだぁ。職人が刀を作っているところをテレビとかで一度くらい見たことないかなぁ? まさにあんな感じ」

 


 なるほどね。

 『精霊合成』はファンタジー要素大目でやりこみ勢向けのコンテンツで、『通常合成』は誰にでも楽しめるように設定されたライトなコンテンツって感じか。



 通常合成は職業体験に近いし、『VR』で作業工程を見ながらやったら楽しそう。この手のゲームが初めてのカジュアルなプレイヤーが嵌るでしょ。

 


 違いも分かったことだし早速合成を始めますか。

 カミシマ君の言いつけどおり『精霊合成』はやめて、通常合成を選択。

 


 鍛冶スキルが999もあるせいか、聖剣やら魔剣と名のつく武器の候補がいくつも出てくる。

 だけど素材がまったく足りないので、どれも作れないとシステムメッセージで表示されていた。

 というかそれ以前に、通常合成するなら場所と道具が必要だったな。



「ここじゃ通常合成できないね」

「素材も工具も鍛冶屋に行けばあるよ。所持通貨も大目に持たせてあったでしょ? それ好きに使って大丈夫だからさぁ」

「そっか、ありがとう」

 


 どういう設計がされているかわからないが、お金で素材と場所代を払えば職業体験じみた事くらいさせてくれるよな。ゲームなんだし。



「ううん、いいんだ。ここからは口出ししないからぁ、『あとはじっくり楽しんでぇ』」



 次第にゲームの世界に入り込みつつあったので、好きにさせてくれるのはありがたかった。

 気遣いに感謝しつつ、鍛冶屋へ向かう。

 


 おお~新感覚だなこれは。

 ゲームは物心着く前から散々やってきたので、マンネリを感じ始めて来てはいた。そんな時にこの『VR』だ。忘れかけていた『ゲームは面白い』という原体験を思い出させてくれて正直うれしい。

 

 

 以前から興味があったにはあったが、プレイ環境を作り上げるまで、お金がそれなりにかかるのがネックでなかなか手を出せなかった。

 だけどここまでゲームに没入できるなら購入の余地ありだ。ガチャを数ヶ月我慢すれば買えそうだし、貯金頑張ってみるか。



 ウッキウキで、もらったばかりの地図を確認する。

 すると、今立っているこの目抜き通りだけでも四件の鍛冶屋が並んでいるのがわかった。その中から一番近い場所を選び向かう。

 


 上空から降り注ぐ太陽の光を浴びていると、心なしか温度も感じられ、自キャラに汗がうっすらとにじむ。ゲームをプレイしている人間の変化に合わせて反映されているのだとしたらすごいを通り越してやべぇな。



 感嘆しつつたどり着いたのは、『マクシミリアン工房』と書かれた鍛冶屋。

 販売所と工房が繋がっている二階建ての大きな建物だった。


 

 ここで俺は今までの人生のすべてを変えてくれる素敵な女の子と出会ったのだ――

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