第八章
第五十二話
お盆が過ぎて数日。
昼夜を問わない
どこの店も、
そんな時に、新開の町から出ていく
一つは、屋根がつけられた
もう一つは、
駕籠の方は、寝かされた状態で運べるほどに細長いが、中に入った者が死者であるため、どこか小さく見える。
それでも全体は大きく、どこの誰なのかと問うには、あまりに良くできたものだった。
その立派な駕籠を一目見ようと、
それを見た
「ほら、行列が通るよ。みんな、
死者が出れば、そこが地獄に
葬儀が始まるまでは、遺体を
新開でも
その一つである『菊の井』の
「ほら見てよ。あれが、お力の
一人の女がそう言えば、彼女の旦那と思われる男が叱るように、「しっ、名前を呼ぶな」と小声で言う。
「相手は
過去に何度も『菊の井』を訪れていた男の言葉に、別の男が数回うなずく。
「男にとっちゃあ、
「ああ、そうだ。
顔を上げて、「かわいそうにねえ」と呟く女の後ろで、「あの子も、とんだ運の悪いことになったねえ。面白おかしく男を騙して、良い男を捕まえて、あちこちで
するとどこからか、男の声で、「いや。あれは、納得した
「あの日――お力が死んだという日の夕暮れ
「ふむ、それも
そう言って
「なんの。男を騙してなんとも思わないあの女が、
不快そうに眉をひそめる者達など見向きもせずに、
「ふんっ。
「それは、そうだったなあ……」
男の話にうなずいた者は、
「噂では、お力が斬られたのは
「よく知ってるな。人の死に方なんか」
「まあな。そういった話に詳しい奴が、
そう言って襤褸を着た男は、
お力の死に方については、新開のみならず、
背後から背中を斜めに斬られ、頬や腕などにはかすり傷、首の後ろには刃物で突かれてできた傷などがあり、発見された彼女の姿は、目を
遺体を見つけた者の話だと、現場は
犯人――源七による、男女関係が
詳しいことは調査中らしいが、新開の人間が
遠ざかっていく葬列を見ながら、襤褸を着た男はまた笑う。
「お力の
「そうだなあ。俺達も話に聞いただけだが、かなり
「俺もそう聞いている。
襤褸を着た男の話を聞いていた者達が同意してうなずくと、「俺もそう聞いた」と、続けて話に混ざる者がいた。
まだ若いが、ずいぶんと身なりの整った青年で、女性達が「どこの
坊っちゃんと呼ばれた青年は、「お力のことは知っていたが、切腹するほどの男に惚れられていたというのに、なぜ振り向かなかったのだ?」と、不思議そうに首を傾げたので、黙って話を聞くだけだった子連れの女が、彼を鼻で笑った。
「立派な
「……そんなものか?」
「そんなものでごぜえます」
この坊ちゃん。
どこぞの有名な遊郭にでも行けば、高い金で良い女を買えるような男なのだろうが、
見た目だけは青年の彼に、子連れの女は、我が子の頭を撫でながら、笑うしかなかった。
源七よりもずっと、女に搾り取られて捨てられそうな
「女とは恐ろしいな」と呟くように言ったので、子連れの女は我が子を抱きしめながら、「だからこそ、誰も幸せになれなかったのでしょうね」とだけ返した。
「何にしろ、『菊の井』は
残念、残念と言ってニヤニヤ笑う男の前に、どこからか人が現れる。
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